ヨハネ福音書

   キリストの先在と来臨

1章 1はじめに ことばがあり、ことばは神のところにあり、ことばは神であった。2彼ははじめに神のところにあった。3すべては彼によって成った。成ったもので彼によらずに成ったものはひとつもない。4彼にいのちがあり、いのちは人々の光であった。5光はに輝くが、闇はそれを受けなかった。6神からつかわされて現われた人がある。名はヨハネという。7彼は証のために来た。光について証し、すべての人が彼によって信ずるためであった。8彼は光ではなかった。光について証するための人であった。
 9世に来て人皆を照らす真の光があった。10彼は世にあり、世は彼によって成ったが、世は彼を知らなかった。11おのがところに来たのに、おのが人々は彼を受けなかった。12彼を受けてみ名を信じた人々には皆神のとなる特権をお与えになった。13彼らは血にも肉の欲にも男の欲にもよらず、神によって生まれたのである。14ことばは肉となってわれらのうちに宿り、われらはその栄光を見た。それは父のひとり子らしい栄光で、恵みと真に満ちていた。15ヨハネは彼について証し、叫んでいう、「これこそ『わがのちに来つつわたしにまさる方、わたし以前からおられたから』とわたしがいった方である」と。16彼の完全さからわれらは皆恵みにまた恵みを受けた。17律法はモーセによって与えられ、恵みと真はイエス・キリストによって成った。18神を見たものはかつてひとりもなかったが、父のふところにいますひとり子の神だけが彼を示された。

   ヨハネの証

 19ヨハネの証はこれである--ユダヤ人がエルサレムから祭司とレビ人を彼のところにつかわして、「あなたはだれですか」と問わせた。20すると彼は明言して隠さなかった。「わたしはキリストではない」と明言したのである。21彼らはたずねた、「それでは何ですか、エリヤですか」と。彼はいう、「そうではない」と。「預言者ですか」と問うた。答えは「否」であった。22そこで彼らはいった、「あなたはだれですか。われらをつかわした人たちに答えねばなりません。ご自身を何といわれますか」と。23彼はいった、「わたしは、預言者イザヤがいったように、『主の道を直くせよ、と荒野に叫ぶものの声』である」と。24彼らはパリサイ人からつかわされていた。25彼らはたずねた、「キリストでもエリヤでも、預言者でもなければ、なぜ洗礼なさるのですか」と。26ヨハネは答えた、「わたしは水で洗礼するが、あなた方の中に、未知の方が立っておられる。27彼はわがのちに来る方、わたしはその靴のひもを解くにも値しない」と。28これはヨルダンの向こうのベタニアでおこったこと。そこでヨハネは洗礼をしていた。
 29あくる日、イエスが彼のところへ来られるのを見ていう、「見よ、世の罪を除く神の小羊30これこそ、『わがのちにわれらにまさる方が来られる、わたし以前からおられたから』とわたしがいった方である。31わたしも彼を知らなかったが、彼をイスラエルに知らせるために、わたしは水で洗礼しに来た」と。32さらにヨハネは証した、「霊が天から鳩のように下って彼の上にとどまるのを見た。33わたしも彼を知らなかったが、わたしが水で洗礼するようつかわされた方がいわれた、『霊が下ってその上にとどまるのをなんじが見るならば、彼こそ聖霊で洗礼するもの』と。34わたしはそれを見た。そして彼こそ神の子であると証してきた」と。

   ヨハネの弟子の証

 35あくる日またヨハネはふたりの弟子と立っていた。36そしてイエスが歩まれるのを見ていう、「見よ、神の小羊」と。37ふたりの弟子は彼がそういうのを聞いてイエスに従った。38イエスは振り返って彼らが従うのを見て、いわれる、「何の用か」と。彼らはいった、「ラビ(訳せば先生)、お宿はどちらで」と。39彼らにいわれる、「来ればわかろう」と。そこで行って泊まられる所を見、その日は彼の所に泊まった。時は午後四時ごろであった。
 40ヨハネから聞いてイエスに従ったふたりのひとりはシモン・ペテロの兄弟アンデレであった。41彼がまずおのが兄弟シモンに会って、いう、「われらはメシア(訳せばキリスト)に出会った」と。42彼はシモンをイエスのところに連れて行った。イエスは彼を見つめていわれた、「あなたはヨハネの子シモンだ。ケパ(訳せばペテロ、岩)と呼ばれるがいい」と。
 43あくる日、そこからガリラヤヘ行こうとしてピリポに出会われた。彼にいわれる、「わたしに従いなさい」と。44ピリポはアンデレとペテロの町ベツサイダの出であった。45ピリポはナタナエルに出会っていう、「われらはモーセが律法に書き、預言者も書いている人に出会った。ヨセフの子ナザレのイエスである」と。46ナタナエルはいった、「ナザレから何かよいものが出うるか」と。ピリポはいう、「来ればわかろう」と。47イエスはナタナエルが彼のところに来るのを見て、彼についていわれる、「見よ、はえ抜きのイスラエル人、彼には偽りがない」と。48ナタナエルは彼にいう、「どうしてわたしをご存じですか」と。イエスは答えられた、「ピリポがあなたを呼ぶ前に、いちじくの下にいるのを見た」と。49ナタナエルは答えた、「先生(ラビ)、あなたは神の子にいます。あなたはイスラエルの王にいます」と。50イエスは答えられた、「あなたをいちじくの下で見た、といったから信ずるのか。これより大きなことを見るであろう」と。51そしていわれる、「本当にいう、あなた方は天が開けて神の使いが人の子の上に上り下りするのを見よう」と。

   カナの婚礼

2章 1三日目にガリラヤのカナで婚礼があり、イエスの母がそこにいた。2イエスと弟子たちも婚礼に招かれた。3ぶどう酒が切れたのでイエスの母が彼にいう、「ぶどう酒がなくなりました」と。4イエスはいわれる、「母上、何のご用ですか。まだわたしの時は来ていません」と。5母は召使いたちにいう、「何でも彼のいうとおりにしてください」と。6そこにはユダヤ人の清めの風によって石の瓶が六つ置いてあった。おのおの二、三メトレタ入りであった。7イエスは彼らにいわれる、「瓶を水で満たせ」と。縁まで満たすと、8彼らにいわれる、「今汲み出して宴会長に持って行くように」と。彼らはそうした。9宴会長はぶどう酒になった水を味わったが、その由来がわからなかった。しかし、水を汲んだ召使いたちにはわかっていた。宴会長は花むこを呼んでいう、10「だれでもまずよいぶどう酒を出して、酔いがまわると悪いのを出すが、あなたは今までよい酒をとっておいてくれた」と。11この最初のをイエスはガリラヤのカナで行なって彼の栄光を現わされた。そして弟子たちは彼を信じた。

   宮清め

 12こののちイエスは母と兄弟と弟子たちとカペナウムに下って、そこにしばらくとどまられた。
 13ユダヤ人の過越の祭りが近かったのでイエスはエルサレムヘ上られた。14宮で牛や羊や鳩を売るものや両替屋がすわっているのを見て、15縄で鞭を作って羊も牛もすべてを追い出し、両替屋の貨幣をまき散らし、机を倒し、16鳩を売るものにいわれた、「それを持ち去れ、わが父の家を商いの家にするな」と。17弟子たちは、「あなた(神)の家への熱心がわたしを食いつくす」と聖書にあるのを思い出した。18ユダヤ人は彼にいった、「こんなことをして、どんな徴をわれらに示せるのか」と。19イエスは答えられた、「この宮をこわせ、三日でわたしが建てなおそう」と。20ユダヤ人はいった、「この宮は四十六年かかって建ったのに、あなたは三日で建てなおすのか」と。21彼がいわれたのはおのが体の宮についてである。22彼が死人の中から復活されたとき、弟子たちはかくいわれたことを思い出し、聖書とイエスのいわれたことばとを信じた。
 23過越の祭りのときエルサレムにおられる間に、彼のなさった徴を見てその名を信ずる人が多かった。24しかし、イエス自身は彼らを皆知っておられたので彼らを信頼されなかった。25彼は人についての証を要されなかった。彼自身人のうちに何があるかを知っておられたから。

   ニコデモの新生問答

章 1ひとりのパリサイ人があった。名はニコデモ、ユダヤ人の一指導者であった。2彼が夜イエスのところへ来ていった、「先生(ラビ)、われらはあなたが神からいらした師にいますことがわかります。神が共にいまさなければ、あなたがなさる、これらの徴はだれもなしえません」と。3イエスは答えられた、「本当にいう、人は新たに生まれねば神の国を見えない」と。4ニコデモはいう、「人は老いてからどうして生まれえましょう。ふたたび母の胎に入って生まれることはできますまい」と。5イエスは答えられた、「本当にいう、水と霊から生まれねばだれも神の国に入れない。6肉から生まれるものは肉、霊から生まれるものは霊である。7『あなた方は新たに生まれねばならない』といったからとておどろくことはない。8霊風は思うままに吹き、あなたはその声を聞くが、それがどこから来てどこへ行くかはわからない。だれでも霊から生まれるものはそのようである」と。9ニコデモは答えた、「どうしてそれがありえましょうか」と。10イエスは答えられた、「イスラエルの先生(ラビ)でありながらこれを知らないのか11本当にいう、われらは知ることを語り、見たことを証する。しかしあなた方はわれらの証を受け入れない。12わたしが地上のことをいったのにあなた方が信じなければ、天上のことをいってもどうして信じよう。13天から下った人の子のほかだれも天に上ったものはない。14モーセが荒野で蛇を挙げたように、人の子も挙げられねばならない15彼を信ずるものが皆永遠(とこしえ)のいのちを持つためである。
 16神はひとり子を賜うほど世を愛された。すべて彼を信ずるものが滅びずに永遠のいのちを持つためである。17神がその子を世につかわされたのは、世を裁くためでなく、世が彼によって救われるためである。18彼を信ずるものは裁かれない。信じないものはすでに裁かれている、神のひとり子のみ名を信じなかったから。19裁きとはこれである。すなわち、光が世に来たのに、人々が光より闇を愛したというそのことである。人々のわざが悪かったのである。20偽りをするものはだれでも光を憎んで光に来ない、彼らのわざが現われないために。21真を行なうものは光に来る。そのわざが神によってなされたことが現われるためである」。

   花むこイエスとその友

 22そののちイエスは弟子たちとユダヤの地に行き、そこに彼らととどまって洗礼をしておられた。23ヨハネもサリムに近いアイノンで洗礼をしていた。それはそこに水が多かったからである。人々が来て洗礼を受けた。24ヨハネはまだ投獄されていなかったのである。25さて、ヨハネの弟子たちとユダヤ人との間に清めについて論争があった。26そこで彼らはヨハネのところに来ていった、「先生(ラビ)、あなたとともにヨルダンの向こう岸にいて、あなたが証をなさったあの人が、あのとおり洗礼をしていて、みんなが彼のところへ行きます」と。27ヨハネは答えた、「天から与えられるのでなければ人は何も受けえない。28『わたしはキリストでなく、その前につかわされたものである』とわたしがいったことの証人はあなた方自身である。29花よめをもつのは花むこである。花むこの友はそばに立って耳傾け、花むこの声を聞いてよろこぶ。このわがよろこびは今満ちた。30彼は栄え、わたしは衰えねばならない」と。
 31上から来るものは万物の上にある。地からのものは地のもので、地のことを語る。天から来るものは万物の上にある。32見聞きしたことを彼は証するが、だれもその証を受けない。33その証を受けるものは神が真にいますことを認めたのである。34神がつかわされたものは神のことばを語る。神が霊を無限にお与えになるからである。35父は子を愛して万物を彼の手に与えられた。36子を信ずるものは永遠のいのちを持つ。子に従わぬものはいのちを見ず、神の怒りがその上にとどまる。

   サマリアの女

4章 1さて、イエスのほうがヨハネよりも多く弟子を作って洗礼するとパリサイ人に聞こえた。主はこれを知って、2--実はイエス自身ではなく弟子たちが洗礼したのであるが--3ユダヤを去ってふたたびガリラヤヘ向かわれた。4しかし彼はサマリアを通らねばならなかった。5そこで、スカルというサマリアの町へ来られた。それはヤコブが子のヨセフに与えた土地の近くであった。6そこにはヤコブの泉があった。さて、イエスは旅に疲れて無造作に泉のほとりにすわられた。時は正午ごろであった。7ひとりのサマリアの女が水を汲みに来る。イエスは彼女に、「水を飲ませてください」といわれる。8弟子たちは町へ食料を買いに出かけていた。9サマリア人の女はいう、「ユダヤ人なのに、どうしてサマリア女のわたしから飲み物をお求めですか」と。ユダヤ人はサマリア人と付きあわなかったからである。10イエスは答えられた、「もし神の賜物が何であり、飲み物を下さいというのがだれであるかを知れば、あなたこそ彼に願い、彼はあなたにいのちの水を与えたでしょう」と。11彼女はいう、「主よ、桶もお持ちでなく、井戸も深いのにどこからそのいのちの水をお汲みになりますか。12われらの先祖ヤコブよりあなたはお偉いのですか。彼はわれらにこの井戸を与え、彼自らもその子たちも家畜もその水を飲みました」と。13イエスは答えられた、「だれでもこの水を飲むものはまた渇くが、14わたしが与える水を飲むものは永遠に渇かず、わたしが与える水は彼のうちに湧き水の泉となって永遠のいのちに至らせよう」と。15女はいう、「主よ、その水を下さい、これから渇かないように、またここに汲みに来なくてよいように」と。16イエスはいわれる、「夫をここに呼んで来なさい」と。17女は答えた、「わたしに夫はありません」と。イエスはいわれる、「夫がないとはもっともだ。18五人の夫があったが、今あるのはあなたの夫ではない。あなたがいったことは本当だ」と。19女はいう、「主よ、わかりました、あなたは預言者です。20ところで、われらの先祖はこの山で礼拝しましたが、あなた方は礼拝すべきところはエルサレムといわれます」と。21イエスはいわれる、「わたしを信じなさい、女の方、この山でもエルサレムでもなく父を拝する時が来る。22あなた方は知らぬものを拝し、われらは知るものを拝する。救いは(われら)ユダヤ人からのゆえに。23しかし、真の礼拝者が霊と真で父を拝する時が来る。否、もう来ている。父もこのように彼を拝するものを求めたもう。24神は霊にいます。ゆえに拝するものも霊と真で拝すべきである」と。25女はいう、「キリストといわれるメシアが来ることを知っています。彼が来ると、すべてをわれらに告げるでしょう」と。26イエスはいわれる、「あなたと語るわたしがそれです」と。

   サマリア人の信仰

 27そこへ弟子たちが来て、イエスが女と話しておられるのにおどろいた。しかしだれも「何のご用で」とか「何をお話しで」とかいわなかった。28女は瓶を置いて町へ立ち去り、人々にいった、29「来てごらんなさい、わたしがしたことを皆いい当てた人がいます。この人がキリストではないでしようか」と。30人々は町を出てイエスのところへ来た。
 31その間に弟子たちはイエスに「先生(ラビ)、お食事を」と勧めた。32彼はいわれた、「わたしにはあなた方の知らない食べ物がある」と。33そこで弟子たちは互いにいった、「だれも食べ物を持って来たはずはないのに」と。34イエスはいわれる、「わが食べ物はわたしをつかわされた方のみ心を行ない、そのわざを全うするにある。35あなた方はいうではないか、『取入れが来るまでまだ四か月』と。しかしわたしはいう、目をあげて畑を見よ。色明るく取入れを待っている。36すでに刈り手は報酬を受け、永遠のいのちへの実を集めている。まくものが刈るものとともによろこぶためである37ここに、『まくものと刈るものは別』との諺が当てはまる。38わたしはあなた方をつかわして、あなた方自身が苦労しなかったものを刈らせる。苦労したのはほかの人で、あなた方は彼らの苦労を取り入れに来ている」と。
 39「彼はわたしがしたことを皆いい当てた」と証した女のことばによって、この町の多くのサマリア人がイエスを信じた。40さて、サマリア人は彼のもとへ来ると、彼らのところに泊まるよう願った。それでイエスはそこに二日泊まられた。41すると、さらに多くの人々がイエスのことばを聞いて信じた。42そして女にいった、「われらはもはやあなたがいったから信ずるのではない。自ら聞いて、彼こそ真に世の救い主とわかったからである」と。

   ガリラヤでの第二の徴

 43その二日ののち彼はそこを去ってガリラヤへ向かわれた。44イエス自身「預言者はおのが郷では敬われない」と証言されたことがある。45しかし彼がガリラヤへ入られると、ガリラヤ人は彼を歓迎した。彼らも祭りに行ったので、彼がエルサレムで祭りのときにされたことのすべてを見たからである46それから彼はふたたびガリラヤのカナへ行かれた。そこは水をぶどう酒にされたところである。そこにの役人がいた。その息子はカペナウムでわずらっていた。47彼はイエスがユダヤからガリラヤへ来ておられると聞くと、彼のもとに来て、下って息子をいやすよう願った。息子は死にそうであった。48そこでイエスはいわれた、「徴と不思議を見ねばあなた方は信じない」と。49王の役人はいう、「主よ、子が死なぬうちに下っていただきたい」と。50イエスはいわれる、「お帰り。お子さんは助かる」と。その人はイエスがいわれたとおりのことばを信じて、帰って行った。51すでに下り行く途中で僕(しもべ)らが出迎えて、子が助かったといった。52そこで、よくなった時間を僕たちにたずねた。彼らは、「熱はきのう午後一時にとれました」と答えた。53父親はちょうどそのときイエスが「お子さんは助かる」といわれたことを知り、彼も彼の家族一同も信じた。54イエスはこの第二の徴をユダヤからガリラヤへ来てなさった。

   ベテスダの池

5章 1そののちユダヤ人の祭りがあって、イエスはエルサレムに上られた。2エルサレムの羊門のそばに、ヘブライ語でベテスダといわれる池があり、それを五つの回り廊下がとり巻いていた。3その中に大勢の病人たち、目しい、足なえ、麻痺者が横たわっていた。〔彼らは水の動くのを待っていた。4ときどき主の使いが池に下って水を動かすので、水が動かされてからまっ先に入ったものが、どんな病に犯されていても直るからである。〕5その中に三十八年病む人がいた。6イエスはその人が横たわっているのを見て、すでに長らくわずらっていることを知ると、彼にいわれる、「直してもらいたいか」と。7病人は答えた、「主よ、水が動かされたとき池にわたしを入れてくれる人がないのです。わたしが行くうちに、ほかの人がわたしの先におりて行きます」と。8イエスはいわれる、「起きて床をあげて歩みなさい」と。9たちまちその人は直って、床をあげて歩みはじめた。

   安息日問答

 その日は安息日であった。10そこでユダヤ人はいやされた人にいった、「安息日だからあなたが床をあげるのはゆるされない」と。11彼は答えた、「わたしを直してくれたその人が床をあげて歩めといいました」と。12彼らはたずねた、「床をあげて歩めといった人はだれか」と。13しかしいやされた人はそれがだれか知らなかった。群衆がそこにいたのでイエスがぬけ出られたからである。14そののちイエスが宮で彼に出会っていわれた、「ごらん、あなたは直った。もう罪を犯すな。さもないと前よりも悪くなる」と。15彼は立ち去って、彼をいやしたのはイエスであるとユダヤ人に告げた。16このためユダヤ人はイエスを迫害しはじめた。彼が安息日にこのようなことをされたからである。17彼はいわれた、「わが父が今もなおお働きのように、わたしも働く」と。18このためユダヤ人はますますイエスを殺そうとした。安息日を破ったばかりでなく、神をおのが父といって、自らを神とひとしくされたからである

   父と子の一体性

 19イエスは彼らに答えていわれた、「本当にいう、子は、父がなさることを見る以外、自分からは何もできない、父がなさるのと同じことを子もまたするからである。20父は子を愛して、自らなさることすべてを子に示される。そしてそれらより大きなわざを子に示されよう、あなた方がおどろくために。21父が死人を起こしていのちを与えるように、子も欲する人々にいのちを与える。22父はだれも裁かず、裁きはすべて子にゆずられた。23これは、人が皆子を敬うこと父を敬うごとくするためである。子を敬わぬものは、彼をつかわされた父をも敬わない。

   復活の時

 24本当にいう、わがことばを聞いて、わたしをつかわされた方を信ずるものは永遠のいのちを持ち、裁きにあわず、死からいのちへと移っている。25本当にいう、時が来る、もう来ている、死人が神の子の声を聞き、聞くものが生きようその時が。26父が自らのうちにいのちをお持ちのように、子も自らのうちにいのちを持つようになさった。27そして裁きをする権威を子に与えられた。彼は人の子であるから。28あなた方はこのことにおどろくな。時が来て、墓にあるものが皆彼の声を聞いて29歩き出そう。善をなしたものはいのちの復活へ、悪をなしたものは裁きの復活へと向かって。30わたしは自分からは何もなしえない。わたしは聞くとおりに裁く。わが裁きは正しい。それはわが心をでなく、わたしをつかわされた方のみ心を求めるからである

   神の子への証

 31もし、わたしが自分について証すれば、わが証は真でない。32わたしについて証する別の方がある。わたしは知る、わたしについてなされたその証が真であることを。33あなた方はヨハネに使いをやり、彼は真について証した。34わたしは人間から証を受けるのではないが、あなた方が救われるためにこれをいう。35ヨハネは燃え輝く燈(ともしび)であった。あなた方はしばらくは彼の光をよろこぶ気持があった。
 36わたしにはヨハネよりも大きな証がある。父がわたしに与えて全うさせようとされたわざ、すなわちわたしがなすわざこそ、父がわたしをつかわされたことを証している。37そして、わたしをつかわされた父自らわたしについて証された。あなた方はいまだ彼の声を聞いたこともなく、彼の姿を見たこともない。38そして彼のことばはあなた方のうちにとどまっていない。彼がつかわされたその人をあなた方は信じないからである。39あなた方が聖書をしらべるのは、それによって永遠のいのちを得ると思うからである。しかし聖書こそわたしについて証している。40それなのに、あなた方はわたしのところに来ていのちを得ようとしない。
 41わたしは人の誉れを受けない。42わたしはあなた方のことを知っている。すなわち、あなた方の中に神の愛がないことを。43わたしは父のみ名によって来たのにあなた方はわたしを受けない。もし別のものがおのが名によって来れば、その人をあなた方は受けよう。44あなた方はどうして信じえよう、あなた方は互いから誉れを受けながら、ただひとりの神からの誉れを求めないのに。45しかしわたしがあなた方を父に訴えると思うな。あなた方を訴えるのはモーセで、あなた方は彼に望みをかけて来た。46もしあなた方がモーセを信じたら、わたしをも信じたろう。このわたしについて彼は書いたからである。47もしあなた方が彼の書きものを信じなければ、どうしてわたしのことばを信じよう」。

   五千人のパン

6章 1そののちイエスは、ガリラヤはテベリア湖の向こう岸に行かれた。2多くの群衆が彼に従って行った。彼が病人に施された徴を見たからである。3イエスは山に上って、そこに弟子たちとすわられた。4ユダヤ人の祭りである過越が間近かった。5イエスは目をあげて、多くの群衆が彼のところに来るのを見て、ピリポにいわれる、「この人たちに食べさせるように、どこでパンを買おうか」と。6こういわれたのは彼を試みるためであって、自分ではどうするか知っておられた。7ピリポは彼に答えた、二百デナリのパンもめいめいが少しずつ受けるにさえ不十分でしょう」と。8弟子のひとりで、シモン・ペテロの兄弟アンデレがイエスにいう、9「ここに大麦のパン五つと魚二匹持っている若者がいますが、それもこの大勢には何になりましょう」と。10イエスはいわれた、「人々をすわらせなさい」と。そこには草がたくさんあったので人々はすわった。その数は男およそ五千人であった。11そこでイエスはパンを取り、感謝してから、すわった人々に分け、魚も同じようにして、彼らの欲するだけ与えられた。12彼らが満ち足りると、イエスは弟子たちにいわれる、「余ったくずを集めなさい、何も失われないように」と。13そこで彼らが集めると、大麦のパン五つの食べ残しのくずで十二の寵がいっぱいになった。

   湖上のイエス

 14人々はイエスがなさった徴を見て、「これこそ世に来る預言者にちがいない」といいふらした。15イエスは彼らが来て自らを捕えて王にしようとするのを知って、ふたたびひとり山へ引き込まれた。
 16夕になると、弟子たちは湖に下り、17舟に乗って向こう岸のカペナウムヘ出かけた。もはや暗くなったのに、イエスはまだ彼らのところへ来られなかった。18吹きすさぶ大風で湖は荒れていた。19さて、二十五か三十スタデオ漕ぎ出したとき、イエスが湖の上を歩いて舟に近づかれた。それを見て、彼らはおそれた。20しかし彼はいわれる、「わたしだ。おそれるな」と。21そこで舟に迎えようとしているうちに、じきに舟は彼らの目ざす地に着いた。

   徴とパン

 22あくる日まだ湖の向こう岸にいた群衆は、そこに舟が一隻しかなく、しかもイエスは弟子たちとともに舟に乗らず、弟子たちだけが乗って行ったことを知っていた。23そこへほかの数隻の舟がテベリアを出て、主が感謝し、群衆がパンを食べたところの近くへ来た。24群衆はイエスも弟子たちもそこにいないのを見ると、舟に乗ってカペナウムへイエスを探しに行った。25そして湖の向こう岸で彼を見つけていった、「先生(ラビ)、いつここにおいででしたか」と。26イエスは答えられた、「本当にいう、あなた方がわたしを探すのは徴を見たからではなく、パンを食べて満腹したからである27無くなる食べ物のためでなく、永遠のいのちへと残る食べ物のために働きなさい。それを人の子はあなた方に与えよう。父なる神が彼にその権限を与えられたから」と。28そこで彼らはいった、「神のわざをなすにはわれらは何をなすべきですか」と。29イエスは答えられた、「神がつかわされたものを信ずることが神のわざである」と。30彼らはいった、「それならば、どんな徴をなさって、われらが見てあなたを信ずるようになさいますか。どんなことをされますか。31われらの先祖は荒野でマナを食べました。『彼は彼らに天からのパンを食べさせられた』と聖書にあるとおりです」と。32イエスはいわれた、「本当にいう、あなた方に天からのパンを与えたのはモーセではない。わが父があなた方に天からの真のパンをお与えになる。33神のパンは天から下って世にいのちを与えるものである」と。34彼らはいった、「主よ、そのパンをいつも下さい」と。35イエスはいわれた、「わたしがいのちのパンである。わたしのところに来るものは決して飢えず、わたしを信ずるものは決して渇かない。36しかし、わたしがいったように、あなた方は〔わたしを〕見たが信じない。37父がわたしに賜わるものは皆わたしのところに来、わたしのところに来るものをわたしは決してしりぞけない。38それは、わたしが天から下ったのは、わが心をでなく、わたしをつかわされた方のみ心を行なうためであるから。39わたしをつかわされた方のみ心は、わたしに賜わったものをひとりも失わず、最後の日に復活させることである。40わが父のみ心は、子を見て信ずるものが永遠のいのちを得、わたしがその人を最後の日に復活させることである」と。

   天からのパン

 41ユダヤ人はイエスが「わたしは天から下ったパンである」といわれたので彼のことをつぶやきはじめた。42彼らはいった、「これはヨセフの子イエスではないか。われらはその父と母を知っているではないか。どうして今『わたしは天から下って来た』というのか」と。43イエスは答えられた、「互いにつぶやくのはやめよ。44わたしをつかわされた父がお引きでなければ、だれもわたしのところに来られない。しかしわたしはその人を最後の日に復活させよう。45預言書に、『皆が神の教え子になろう』と書いてある。父に聞き、また学ぶものはわたしのところに来る。46これは、だれかが父を見たというわけではない。神のところから来たもの、その人だけが父を見たのである47本当にいう、信ずるものは永遠のいのちを得る。48わたしはいのちのパンである。49あなた方の先祖は荒野でマナを食べたが死んだ。50食べれば死なないものこそ天から下ったパンである。51わたしは天から下った生きたパンである。このパンを食べるものは永遠に生きよう。わたしが与えるパンは世のいのちのためのわが肉である」と。
 52そこでユダヤ人は互いに激論しあった、「どうしてこの人がわれらにその肉を食べさせうるか」と。53イエスがいわれた、「本当にいう、人の子の肉を食べかつその血を飲まねば、あなた方の中にいのちはない。54わが肉を食い、わが血を飲むものは永遠のいのちを得る。わたしはその人を最後の日に復活させよう。55わが肉は真の食べ物、わが血は真の飲み物である。56わが肉を食べわが血を飲むものはわたしにとどまり、わたしも彼にとどまる。57生きたもう父がわたしをつかわされ、わたしも父によって生きるように、わたしを食べるものもわたしによって生きよう。58これこそ天から下ったパンで、先祖が食べて死んだようなものではない。このパンを食べるものは永遠に生きよう」と。59これはカペナウムの会堂で教えながらいわれたことである。

   弟子の離反とペテロの告白

 60さて、これを聞いて、「これは激しいことばだ。だれが聞けよう」という弟子が多かった。61イエスはこのことについて弟子たちがつぶやくのに気づいて、彼らにいわれた、「このことがあなた方をつまずかせるのか。62それなら、もし人の子がもといたところに上るのを見たらどうであろう。63霊は生かすもので、肉は何にも役だたない。わたしがあなた方に語ったことばは霊でありいのちである。64しかしあなた方のうちに信じないものが何人かある」と。イエスはだれだれが信じない、だれが彼にそむく、をはじめから知っておられた。65そしていわれた、「それゆえ、わたしがいったとおり、父から恵まれないかぎりだれもわたしのところに来られない」と。66それ以来弟子の多くが離れ去って、もはや彼とともに歩まなくなった。67イエスは十二人にいわれた、「あなた方もわたしを離れるつもりか」と。68シモン・ペテロが答えた、「主よ、だれのところに行きましょう。永遠のいのちのことばはあなたがお持ちです。69われらは信じ、また知っています、あなたこそ神の聖者と」。70イエスは彼らに答えられた、「あなた方十二人を選んだのはわたしではなかったか。それなのにそのうちのひとりは悪魔である」と。71彼はイスカリオテのシモンの子ユダのことをいわれたのである。これが彼を売ろうとしていた、十二人のひとりでありながら。

   仮庵の祭り

7章 1こののちイエスはガリラヤをめぐっておられた。ユダヤ人が彼を殺そうとしていたので、彼はユダヤをめぐりたくなかったのである。2しかし、ユダヤ人の仮庵の祭が近づくと、3彼の兄弟たちがいった、「ここから移ってユダヤヘ行きなさい、あなたの弟子たちもあなたがしているわざを見うるように。4だれも公になろうとするのに隠れて事をするものはない。これらのわざをなすからには、自らを世に示しなさい」と。5兄弟たちも彼を信じなかったのである。6イエスは彼らにいわれる、「わが時はまだ来ていない。あなた方の時はいつもそなわっている。7世はあなた方を憎めないが、わたしを憎む。わたしが世について証して、そのわざは悪いというからである。8あなた方こそ祭りに上りなさい。わたしはこの祭りには上らない、わが時がまだ満ちていないから」。9こう彼らにいってイエスはガリラヤにとどまっておられた。
 10兄弟たちが祭りに上ったとき、彼も上られた。しかし公にではなく、いわばおしのびであった。11祭りに際してユダヤ人が「あの人はどこか」といって彼を探していた。12彼について群衆の中にいろいろなささやきがあった。あるものは「よい人だ」、あるものは「否、群衆を迷わす」といった。13しかし、ユダヤ人をおそれて、だれも公には彼のことをいわなかった。

   安息日と割礼

 14祭りがすでに半ばのころ、イエスは宮に上って教えはじめられた。15ユダヤ人はおどろいていった、「この人は何も学問してないのに、どうして聖書を知っているのか」と。16イエスは彼らに答えられた、「わが教えはわがものでなく、わたしをつかわされた方の教えである。17彼のみ心を行なおうとするものは、わが教えについて、神からのものか、わたし自身から語るものかを知ろう。18自分から語るものはおのが栄光を求める。自分をつかわされた方の栄光を求めるものこそ真であり、そのうちに不義がない。19モーセがあなた方に律法を与えたではないか。しかしあなた方はだれも律法を守らない。なぜわたしを殺そうとするか」と。20群衆は答えた、「あなたは悪霊につかれている。だれがあなたを殺そうとしているのか」と。21イエスは答えられた、「ただひとつのわざを(安息日に)したのにあなた方は皆おどろいている。22モーセはあなた方に割礼(の律法)を与え--それはモーセからでなく、父祖からであるが--あなた方は安息日に人に割礼をしている。23モーセの律法を破らないために人が安息日にも割礼を受けるのなら、わたしが安息日に人の全身をいやしたからとてなぜ怒るのか。24見かけで裁かず、正しい裁きをせよ」と。

   父のもとへの帰還

 25すると、エルサレムのある人たちはいった、「これは人々が殺そうとしている人ではないか。26それなのに、あのように公に話していても人々は何ともいわない。司たちはこの人がキリストと本当にわかったのではないか。27しかしわれらはこの人がどこの出だか知っている。キリストが来るときは、彼がどこから来るか知るものはない」と。28すると、宮で教えておられたイエスは叫んでいわれた、「あなた方はわたしを知り、わたしがどこの出かも知っている。しかし、わたしは自分から来たのではない。わたしをつかわされた真の方がいますが、あなた方は彼を知らない。29わたしは彼を知る。わたしは彼のところから来、彼がわたしをつかわされたから」と。30人々はイエスを捕えようとしたが、だれも彼に手をかけなかった。彼の時がまだ来ていなかったからである。
 31群衆の中の多くがイエスを信じていった、「キリストが来てもこの人がしたよりも多くの徴をしようか」と。32群衆が彼について、こううわさするのをパリサイ人が耳にした。祭司長とパリサイ人は使いたちをやってイエスを捕えようとした。33そこでイエスはいわれた、「いましばらくわたしはあなた方とともにいて、それからわたしをつかわされた方のところへ行く。34あなた方はわたしをたずねても見いだすまい。わたしのいるところへあなた方は来られない」と。35そこでユダヤ人が互いにいった、「この人はどこへ行くつもりか、われらは彼を見いだすまいとは。ギリシア人の中にいる散在の(ユダヤ)人のところへ行ってギリシア人を教えるつもりか。36『あなた方はわたしをたずねても見いだすまい。わたしのいるところにあなた方は来られない』と彼がいったことばは何の意味であろう」と。

   霊とキリスト

 37祭りの最終最大の日に、イエスは立って叫ばれた、「渇くものはわたしのところに来て飲め。38わたしを信ずるものは、聖書がいうように、そのうちから清水が川と流れ出よう」と。39これはイエスを信ずるものが受けるべき霊のことをいわれたのである。イエスがまだ栄光を受けておられなかったため、霊が与えられていなかったからである
 40このことばを聞いて、群衆の中のあるものは「まことにこの人は預言者である」といい、41あるものは「この人はキリストである」といい、あるものは「キリストがガリラヤから来るものか。42聖書に、『キリストが来るのはダビデの末から、ダビデのいた村ベツレヘムから』とあるではないか」といった。43そこで彼ゆえに群衆の中に分裂がおこった。44彼らのうちのあるものは彼を捕えようと思った。しかしだれも彼に手をかけなかった。
 45使いたちが帰って来たので祭司長とパリサイ人はいった、「なぜあれを引っぱって来なかったか」と。46使いたちは答えた、「あの人が話すように話した人はいまだかつてありません」と。47パリサイ人は答えた、「おまえたちまで迷わされたのか。48司やパリサイ人のうち彼を信じたものがひとりでもあるか。49律法を知らぬあんな群衆は呪われている」と。50彼らのひとりで、前にイエスのところに来たニコデモが彼らにいう、51まず彼の言い分を聞いて、彼が何をしたかを知らねば、われらの律法では裁けないではないか」と。52彼らは答えた、「あなたまでがガリラヤの出か。しらべてみよ、ガリラヤから預言者は現われないことがわかろう」と。

   姦淫の女

53人々はめいめい家に帰った。
8章 1しかしイエスはオリブ山へ行かれた。2あくる朝また宮へ行かれると、民が皆彼のところに来、彼はすわって彼らを教えられた。3そこへ学者とパリサイ人が不義の現行犯で捕えられた女を連れて来て、真ん中に立たせた。彼らはいう、4「先生、この女は不義の現場で捕えられました。5モーセの律法ではこのような女は石打ちするよう命じられていますが、あなたは何といわれますか」と。6彼らがこういったのは、イエスを試みて、訴える口実を得るためであった。しかしイエスはかがんで指で地にものを書かれた7彼らがしつこくたずねていると、身を起こしていわれた、「あなた方の中で罪のないものがまず彼女に石を投げよ」と。8そしてふたたびかがんで地にものを書いておられた。9彼らはそれを聞いて、老人をはじめとして、ひとりまたひとりと去って行き、イエスだけが残った。真ん中の女はそのままであった。10イエスは身を起こして彼女にいわれた、「女の方、あの人たちはどこへ行ったか。だれもあなたを罰しなかったか」と。11彼女はいった、「だれもでございます、主よ」と。イエスはいわれた、「わたしもあなたを罰しない。お帰りなさい。これからはまちがいはしないように」と。〕

   信ずべき証

 12またイエスは人々に語られた、「わたしは世の光である。わたしに従うものは絶えて闇の中を歩まず、いのちの光を持とう」と。13パリサイ人が彼にいった、「あなたは自分について証する。あなたの証は真でない」と。14イエスは彼らに答えられた、「わたしが自分について証しようとも、わが証は真である。わたしはどこから来てどこへ行くかを知るゆえに。あなた方はわたしがどこから来てどこへ行くかを知らない。15あなた方は肉によって裁くが、わたしはだれも裁かない。16もしわたしが裁くとしても、わが裁きは真である、わたしはひとりではなく、わたしとわたしをつかわされた方とはともにいるから。17あなた方の律法に、『ふたりの証は真』とある。18わたしは自分の証人であり、わたしをつかわされた父もわたしについて証される」と。19彼らはいった、「あなたの父はどこにいるのか」と。イエスは答えられた、「あなた方はわたしをもわが父をも知らない。もしわたしを知っていたなら、わが父をも知っていたろう」と。20イエスは宮で教えられたとき、これらのことを宝庫のところで話された。しかしだれも彼を捕えなかった。彼の時が来ていなかったからである。

   ユダヤ人の不信

 21またイエスは彼らにいわれた、「わたしは去り行き、あなた方はわたしをたずねよう。そして罪のうちにあなた方は死のう。わたしの去り行くところへあなた方は来られない」と。22ユダヤ人はいった、「彼は自殺するのか、『わたしの去り行くところへあなた方は来られない』というのは」と。23彼らにいわれた、「あなた方は下からの出、わたしは上からの出である。あなた方はこの世の出、わたしはこの世の出ではない。24『あなた方は罪のうちに死のう』といった。わたしをそれ(キリスト)であると信じなければ、あなた方は罪のうちに死のう」。25彼らはいった、「あなたはだれか」と。イエスは彼らにいわれた、「それははじめからあなた方にいっていること。26あなた方について語ること裁くことは多い。しかしわたしをつかわされた方は真であり、わたしも彼から聞いたことをこの世に語る」と。27しかし彼らには、父のことをいわれたことがわからなかった。28イエスはいわれた、「あなた方が人の子を挙げたときこそ、あなた方はわたしがそれであると知り、わたしが自分からは何もなさず、父がお教えのままを話したことを知ろう。29わたしをつかわされた方はわたしとともにおられる。彼はわたしをひとりにはされなかった。わたしはつねに彼のみ心にかなうことをするから」と。

   悪魔の子

 30このことを彼が話されると、多くの人が彼を信じた。31そこでイエスは彼を信じたユダヤ人にいわれた、「わがことばにとどまっていれば、あなた方は真にわが弟子である。32あなた方は真理を知り、真理はあなた方を自由にしよう」と。33彼らは答えた、「われらはアブラハムの末です。いまだかつてだれの奴隷になったこともありません。なぜ『あなた方は自由になろう』といわれますか」と。34イエスは答えられた、「本当にいう、罪を犯すものは皆罪の奴隷である。35奴隷はいつまでも家にとどまらない。子はいつまでもとどまる。36もし子が自由にすれば、あなた方は本当に自由になろう。37あなた方がアブラハムの末であることをわたしは知っている。しかしあなた方はわたしを殺そうとする、わがことばがあなた方に入り込まないから。38わたしは父のもとで見たことを語り、あなた方はあなた方の父から聞いたことをする」と。39彼らは答えた、「われらの父はアブラハムです」と。イエスは彼らにいわれる、「アブラハムの子ならば、アブラハムのわざをなせ。40しかるにあなた方はわたしを殺そうとする、父から聞いた真理をあなた方に話した人を。アブラハムはそんなことはしなかった。41あなた方は自分の父のわざをしている」と。彼らはいった、「われらは不身持ちから生まれたのではありません。われらにはひとりの父、神があります」と。42イエスはいわれた、「もし神があなた方の父なら、あなた方はわたしを愛したろう。わたしは神から出てここに来ている。わたしは自分で来たのではない。神がわたしをつかわされた。43なぜあなた方はわたしの話がわからないのか。わたしのことばを聞きえないからである。44あなた方は悪魔の父の出で、自分の父の欲を満たそうとしている。彼ははじめから人殺しである。彼は真理に立っていない。彼のうちに真理がないからである。偽りをいうとき、彼は本音をはいている。彼はうそつき、またうそつきの父であるから。45わたしが真理を語るがゆえにあなた方はわたしを信じない。46あなた方のうちだれがわたしの罪を確認できるか。わたしが真理を語るなら、なぜあなた方はわたしを信じないのか。47神からのものは神のことばを聞く。あなた方が聞かないのは、神からのものでないからである」と。
 48ユダヤ人は答えていった、「あなたはサマリア人で悪霊につかれている、とわれらがいうのはもっともではないか」と。49イエスは答えられた、「わたしは悪霊につかれてはいない。わたしはわが父を敬うが、あなた方はわたしを敬わない。50わたしはわが誉れを求めない。しかしそれを求め、かつ裁く方がある。51本当にいう、わがことばを守るものは永遠に死を見まい」と。52ユダヤ人がいった、「今こそ悪霊につかれていることがわかる。アブラハムも預言者も死んだのに、あなたは、『わがことばを守るものは永遠に死を味わうまい』という。53あなたは、われらの父アブラハムより偉いのか。彼は死んだではないか。また、預言者も死んだのに、あなたは自分をなんと思っているのか」と。54イエスは答えられた、「わたしが自ら栄化するなら、わが栄光はむなしい。わが父こそわたしを栄化したもう。あなた方がわれらの神といっているその方である。55あなた方は彼を知らない。しかしわたしは知っている。もしわたしが彼を知らないというなら、あなた方に似てうそつきになろう。しかしわたしは彼を知り、彼のことばを守っている。56あなた方の父アブラハムはわが日を見るのを楽しみにしていた。そしてそれを見てよろこんだ」と。57ユダヤ人は彼にいった、「あなたはまだ五十歳にもならないのにアブラハムを見たのか」と。58イエスはいわれた、「本当にいう、アブラハムが生まれる前からわたしはいる」と。59すると彼らは石を取って投げようとしたが、イエスは隠れて宮を出て行かれた。

   シロアムの池

9章 1道すがらイエスは生まれつきの目しいを見られた。2弟子たちがたずねた、「先生(ラビ)目しいに生まれついたのは、だれが罪を犯したからですか、この人ですか、両親ですか」と。3イエスは答えられた、「この人が罪を犯したのでも両親がでもない。神のわざがこの人に現われるためである。4わたしをつかわされた方のわざをわれらは日のあるうちにせねばならぬ。夜が来る。するとだれも働けない。5世にある間わたしは世の光である」と。6こういって地に睡し、睡で練粉を作り、それを目しいの両目の上にぬって、彼にいわれた、7シロアム(訳せば、つかわされたもの)の池へ洗いに行きなさい」と。彼は行って洗い、見えるようになって帰って来た。8近所の人々や前に物乞いであったのを見ていた人々はいった、「この人はすわって物乞いしていたではないか」と。9ある人は「その人だ」といい、ある人は「否、似ているだけだ」といった。しかし本人は「わたしです」といった。10そこで彼らはいった、「それならどうして目があいたのか」と。11彼は答えた、「イエスという人が練粉を作ってわたしの両目にぬり、『シロアムヘ行って洗いなさい』といいました。それで、行って洗うと、見えるようになりました」と。12彼らは「その人はどこにいるか」とたずねたが、「知りません」と彼はいう。
 13人々はかつての目しいをパリサイ人のところへ連れて行った。14イエスが練粉を作って彼の目を開かれた日は安息日であった。15パリサイ人もふたたび、どうして見えるようになったかをたずねた。彼はいった、「あの人が練粉をわたしの目にぬりました。洗ったところ、こんなに見えています」と。16パリサイ人のあるものがいった、「あれは神のところからの人ではない、安息日を守らないから」と。しかしほかのものはいった、「罪ある人ならどうしてこんな徴をなしうるか」と。そこで彼らに分裂がおこった。17彼らはまた目しいにいった、「あなたは彼について何というか、あなたの目をあけた人を」と。「預言者です」といった。
 18さて、ユダヤ人は彼が目しいであったのに見えるようになったことを信ぜず、ついに、見えるようになった人の両親を呼んで、19たずねた、「これはあなた方の息子で、目しいに生まれついたとあなた方がいう人か。それなら、どうして今見えるのか」と。20両親は答えた、「これがわたしたちの息子で、目しいに生まれついたことは知っていますが、21どうして今見えるのかは知りません。だれが目をあけたかもわたしたちは知りません。あれにたずねてください。あれはもう大人ですから自分のことは自分で話すでしょう」と。22両親がこういったのはユダヤ人をおそれたからである。前からユダヤ人は、イエスをキリストと告白するものは会堂から追放することに決めていたのである23両親が「大人だからあれにたずねてください」といったのはこのためである。
 24そこで彼らは目しいであった人をふたたび呼んでいった、「神に栄光を帰して真実をいえ。あの人が罪びとのことはわれらにわかっているから」と。25彼は答えた、「罪びとかどうかは知りません。ただひとつのことを知っています。目しいであったわたしが今は見えることです」と。26そこで彼らはいった、「あの人はあなたに何をしたのか。どうして目をあけたか」と。27彼らに答えた、「もういいましたが、あなた方は聞きませんでした。なぜもう一度聞きたいのですか。あなた方もあの人の弟子になりたいのですか」と。28彼らはののしっていった、「そちらはあの人の弟子、われらはモーセの弟子だ。29われらはモーセに神が語られたことを知るが、あの人がどこの出かは知らない」と。30彼は答えた、「不思議なことです、どこの出かあなた方が知らない人がわたしの目をあけてくれたとは。31神は罪びとらを聞き入れられないが、神をおそれ、そのみ心を行なう人は聞き入れられることをわれらは知っています。32世のはじめから生まれつきの目しいの目をあけた人のことは聞いたことがありません。33もしあの人が神からの出でなかったら、何もできなかったはずです」と。34彼らは答えた、「全く罪の中に生まれながら、このわれらを教えるのか」と。そして彼を追放した。

   目しいと目あき

 35イエスは彼が追放されたと聞き、彼に出会ったときいわれた、「あなたは人の子を信ずるか」と。36彼は答えた、「それはだれですか、主よ、わたしはその人を信じたいのです」と。37イエスはいわれた、「あなたは彼を見た。あなたと話している人がそれだ」と。38彼はいった、「わたしは信じます、主よ」と。そして彼にひれ伏した。39イエスはいわれた、「わたしは裁きのためにこの世に来た。見えぬものが見え、見えるものが目しいになるために」と。
 40彼とともにいたパリサイ人のあるものがこれを聞いて、彼にいった、「われらも目しいですか」と。41イエスは彼らにいわれた、「目しいであったならあなた方に罪はなかったろう。しかし今も『われらは見える』というから、あなた方の罪は消えない」と。

   羊と羊飼い

10章 1「本当にいう、を通らずにほかのところを乗りこえて羊のおりに入るものは盗びとであり強盗である。2門を通って入るものは羊飼いである。3番人が彼に門を開く。羊は彼の声を聞き、彼はおのが羊を名ざして呼んで連れ出す。4おのが羊を皆出すと、彼は先立って歩く。羊はその声を知るゆえに彼に従う。5羊はほかの人たちには決して従わないで逃げる、ほかの人たちの声を知らないから」。6イエスはこの譬えを彼らに話された。しかし彼らは何を話されているかわからなかった。
 7そこでふたたびイエスはいわれた、「本当にいう、わたしは羊のである。8わたしよりも前に来たものは皆盗びとであり強盗である。羊は彼らに聞こうとしなかった。9わたしは門である。わたしを通って入るものは救われ、出入りして牧草を得よう。10盗びとが来るのは、盗み、殺し、滅ぼすためにほかならない。わたしが来たのは、いのちを得させ、いのちにあり余らせるためである。
 11わたしはよい羊飼いである。よい羊飼いは羊のためにいのちを捨てる。12羊飼いでない雇人は、羊が自分のものでないので、狼が来るのを見ると、羊を捨てて逃げる。狼は羊を奪い、また追い散らす。13彼は雇人で、羊を心にかけないからである。14わたしはよい羊飼いである。わたしはわが羊を知り、わが羊はわたしを知る。15それは、父がわたしを知り、わたしが父を知るごとくである。そしてわたしは羊のためにいのちを捨てる。16しかしわたしにはこのおりでないほかの羊がある。彼らをもわたしは導かねばならぬ。彼らはわが声を聞き知り、群れはひとつ、羊飼いはひとりとなろう。17それゆえ父はわたしを愛される。わたしがいのちを捨てるからである。しかしそれはいのちをまた得るためである。18何びともわたしからいのちを奪わない。わたしが自分でそれを捨てる。わたしにはそれを捨てる権威があり、ふたたびそれを受ける権威がある。わたしはこのいいつけを父から受けた」と。19イエスのこれらのことばによって、ユダヤ人の間がふたたび分裂した。20彼らの多くが「彼は悪霊につかれて、気が狂っている。なぜ彼のいうことを聞くのか」といい、21ほかのものは「悪霊につかれたものにあんなことはいえない。悪霊に目しいの目は開けない」といった。

   父と子の一体

 22そののちエルサレムに宮清めの祭りがあった。冬のころであった。23イエスは宮の中でソロモンの廊を歩いておられた。24するとユダヤ人が彼を囲んでいった、「いつまでわれらに気をもませるのですか。あなたがキリストなら公においいなさい」と。25イエスは答えられた、「わたしはいったがあなた方は信じない。わたしが父の名によってするわざこそわたしについて証している。26しかしあなた方は信じない、わが羊でないから。27わが羊はわが声を聞きわける。わたしは彼らを知り、彼らはわたしに従う。28わたしは彼らに永遠のいのちを与え、彼らは永遠に滅びない。何びともわが手から彼らを奪わない。29わたしに(彼らを)与えられた父はすべてのものより偉大で、何びとも父の手から彼らを奪いえない。30わたしと父とはひとつである」と。

   わざによる信仰

 31またもユダヤ人はイエスを石打ちしようと石を運んで来た。32そこでイエスはいわれた、「わたしは父のよいわざを示したが、そのどのわざのゆえにわたしを石打ちするのか」と。33ユダヤ人が答えた、「われらが石打ちするのはよいわざのゆえではなく、瀆神(とくしん)のゆえである。人間のくせに自分を神とするからである」と。34イエスが答えられた、「あなた方の律法に『あなた方は神であるとわたしはいった』と書かれているではないか。35神のことばを与えられた人々が神といわれたのならば--聖書はすたれえないので--36父が聖めて世に送られたものが、『われは神の子』といったのを、あなた方は涜神というのか。37もしわが父のわざをわたしがしないならば、わたしを信ずるな。38もししているならば、わたしを信ぜずとも、わざを信ぜよ。それは、父がわたしに、わたしが父にあることを知りまた悟るためである」と。39そこで彼らはまたもイエスを捕えようとしたが、彼らの手からぬけ出られた。
 40そしてイエスはまたヨルダンの向こうの、ヨハネが前に洗礼していた所へ行って、しばらくそこにとどまられた。41すると多くの人が彼のところへ来ていった、「ヨハネは何の徴も行なわなかったが、ヨハネがこの方についていったことはみな本当であった」と。42そして、そこで多くの人が彼を信じた。

   ラザロの死

11章 1ラザロという病人があった。マリヤとその姉妹マルタの村ベタニアの人であった。2マリヤは主に香油をぬり、み足を自分の髭でふいた女で、その兄弟ラザロが病んでいた。3姉妹たちはイエスに使いをやって、「主よ、あなたのお気に入りが病気です」といわせた。4イエスはそれを聞いていわれた、「この病は死に至らず、神の栄光のため、神の子が栄化されるためである」と。5イエスはマルタとその姉妹とラザロを愛しておられた。6しかし、ラザロが病むと聞かれると、おられたところに二日とどまって、7そのあとで弟子たちにいわれる、「今一度ユダヤへ行こう」と。8弟子たちはいう、「先生(ラビ)、つい先ごろユダヤ人があなたを石打ちしようとしていましたのに、今一度あそこへ行かれるのですか」と。9イエスは答えられた、昼間は十二時間あるではないか。人は昼間歩けばつまずかない、この世の光が見えるから。10夜歩けばつまずく、光がその人の中にないから」と。
 11このことをいってからのちにいわれる、「われらの友ラザロは眠った、しかし起こしに出かけよう」と。12弟子たちはいった、「主よ、眠ったのなら救われましょう」と。13イエスは彼の死についていわれたが、彼らは単なる眠りについていわれたと思った。14そこでイエスはあからさまにいわれた、「ラザロは死んだ。15わたしがあそこにいなかったことをよろこぶ。いなかったのはあなた方のため、あなた方が信ずるためである。さあ、彼のところへ行こう」と。16デドモ(二子)ことトマスが相弟子たちにいった、「われらも行って彼とともに死のう」と。

   ラザロの復活

 17イエスが来てみると、ラザロはすでに四日墓にあることがわかった。18ベタニアはエルサレムに近く、十五スタデオほどであった。19それで多くのユダヤ人が兄弟の悔やみにマルタとマリヤのところに来ていた。20マルタはイエスが来られると聞いて彼を迎えに出、マリヤは家にすわっていた。21マルタはイエスにいった、「主よ、もしあなたがここにおいででしたら、わたしの兄弟は死ななかったでしょうに。22しかし今でも、わたしは知っています、あなたがお願いのことなら、何でも神がお与えくださいますことを」と。23イエスはいわれる、「あなたの兄弟は復活しよう」と。24マルタはいう、「終わりの日の復活の時に彼が復活しようことはわかります」と。25イエスはいわれる、「わたしは復活であり、いのちである。わたしを信ずるものは死んでも生きよう26また、生きてわたしを信ずるものは永遠に死なない。このことをあなたは信ずるか」と。27彼女はいう、「はい、主よ、わたしは信じます、あなたはキリスト、神の子、世に来たるべき方と」と。
 28こういってから彼女は立ち去って姉妹のマリヤを呼び、そっといった、「先生がおいでで、あなたをお呼びです」と。29それを聞くと「マリヤはすぐ立ちあがってイエスのところへ行った。30イエスはまだ村に着かれず、マルタが出迎えたさっきのところにおられた。31マリヤとともに家にいて慰めていたユダヤ人たちは、マリヤがすぐ立ちあがって出かけるのを見ると、墓に泣きに行くと思ってついて行った。32マリヤはイエスのおられるところに来て、彼を見るや否や、み足にひれ伏していった、「主よ、あなたがここにおいででしたら、わたしの兄弟ば死ななかったでしょうに」と。
 33イエスは彼女が泣き、いっしょに来たユダヤ人も泣くのを見て、心になげき、激していわれた、34「どこに彼を置いたか」と。彼らはいった、「主よ来て、ごらんください」と。35イエスは涙された。36するとユダヤ人がいった、「見よ、何と彼を愛しておられたことか」と。37彼らの中には、「目しいの目をあけたこの人さえも、ラザロが死なないようにはできなかったのか」というものもあった。38イエスはまたも心になげいて、墓に来られる。それは洞穴で、石でふさいであった。39イエスはいわれる、「石をのけよ」と。事切れた人の姉妹のマルタはいう、「主よ、もうにおいます、四日目ですから」と。40イエスは彼女にいわれる、「信ずれば神の栄光が見えよう、とあなたにいったではないか」と。41そこで彼らは石をのけた。イエスは目を上に向けていわれた、「父よ、お聞き届けくださったことを感謝いたします。42あなたはいつもお聞き届けくださることをわたしは知っています。しかし、まわりに立つ人々のためにかく申しました。あなたがわたしをおつかわしのことを彼らが知るためです」と。43こういってから大声で叫ばれた、「ラザロよ、出ておいで」と。44死人が手足を布で巻かれたまま出て来た。顔は手拭でおおわれていた。イエスは人々にいわれた。「彼をほどいて家に帰らせなさい」と。

   最高法院の決議

 45マリヤのところに来てイエスのなさったことを見たユダヤ人の多くが彼を信じた。46しかし中にはパリサイ人のところに行ってイエスのなさったことを告げるものもあった。47そこで大祭司やパリサイ人は会議(サンヘドリン)を開いていった、「あの男が多くの徴をしているのをどうしよう。48彼を、このままにしておけば、皆が彼を信じよう。そしてローマ人が来てわれらから土地も国民も奪おう」と。49彼らのひとりのカヤパは、その年の大祭司であったが、彼らにいった、「あなた方は何もご存じない。50ひとりの人が民のために死んで全国民が滅びないほうが、あなた方に有利だとも考えておられない」と。51これは自分からいったのではなく、その年の大祭司であったので、預言して、イエスが民のために死なれようということ、52それは民のためだけでなく、散っている神の子らをひとつに集めるためであることをいったのである。53その日から彼らはイエスを殺すことに決めた。54それで、イエスはもはや公にはユダヤ人の中を歩かずに、そこを去って荒野に近い地方のエフライムという町に行って、弟子たちとともにそこにとどまられた。
 55ユダヤ人の過越の祭りが間近かった。多くの人が身を清めに諸地方から祭りの前にエルサレムヘ上った。56彼らはイエスを探し、宮に立って互いにいった、「どう思うか。もう宮には来ないであろうか」と。57それは、大祭司とパリサイ人がふれを出して、彼のありかを知るものは届けよといっていたからである。彼を捕えるためであった。

   ナルドの香油

12章 1さてイエスは過越の六日前にベタニアに来られた。そこはイエスが死人の中から起こされたラザロのいたところである。2そこにイエスのために夕食がそなえられた。マルタは給仕し、ラザロはイエスの相客のひとりであった。3マリヤはというと、純粋で高価なナルドの香油リトラをイエスのみ足にぬり、髪でそれをふいた。家は香油のかおりに満たされた。4弟子のひとりで彼を裏切るイスカリオテのユダはいう、5「なぜこの香油を三百デナリに売って貧しい人に与えないのですか」と。6こういったのは貧しい人を思ったからではなく、盗びとで金入れをあずかりながら中身を取っていたからである。7イエスはいわれた、「構うな。わが葬りの日までそうさせなさい。8貧しい人はいつもあなた方といっしょにいるが、わたしはいつもいっしょではないから」と。9多くのユダヤ人がイエスがそこにおられると知って集まって来た。それはイエスのゆえだけでなく、彼が死人の中から起こされたラザロを見るためであった。10大祭司らはラザロをも殺すことに決めた。11彼のために多くのユダヤ人が離れ去ってイエスを信ずるようになったからである。

   エルサレム入り

 12あくる日、祭りに来た多くの群衆はイエスがエルサレムヘ来られると聞いて、13棕梠(しゅろ)の葉を手にして彼を迎えに出た。そして叫んだ、「ホサナ、祝福あれ、主のみ名によって来たるもの、イスラエルの王に」と。14イエスは子ろばを見つげてそれに乗られた。聖書に、15おそれるな、シオンの娘、見よ、あなたの王がろばの子に乗って来られる」とあるように。
 16弟子たちにははじめこのことがわからなかったが、イエスが栄化されてから、これがイエスについて書かれていて、人々がこのとおり彼にしたことに思い当たった。17証したのは群衆であった。彼がラザロを墓から呼んで死人の中から起こされたときいあわせたのである。18それゆえ群衆は彼を出迎えもした。彼が徴を行なわれたことを聞いていたからである。19そこでパリサイ人が互いにいった、「見たことか、何をしてもむだだ。あのとおり世の人は彼について行ってしまった」と。

   二重の栄光

 20祭りに礼拝のため上って来た人々の中に何人かのギリシア人がいた。21彼らはガリラヤはベツサイダ出のピリポのところへ来て頼んだ、「お願いします。イエスにお会いしたいのですが」と。22ピリポは行ってアンデレに話し、アンデレとピリポは行ってイエスに話した。23イエスは答えられる、「人の子が栄化される時が来た。24本当にいう、一粒の麦は、地に落ちて死なねば、いつまでも一粒にすぎない。死ねば多くの実を結ぶ25おのがいのちを愛するものはそれを失い、この世でいのちを憎むものは永遠のいのちへとそれを保とう。26わたしに仕えるものはわたしに従え。そうすれば、わたしに仕えるものもわたしがいるところにいよう。わたしに仕えるものを、父は尊ばれよう。27今、わが心はさわぐ。何といおうか。父上、この時から救い出してください。否、このため、この時にこそわたしは来たのです。28父上、あなたのみ名を栄化してください」と。すると天から声がした、「わたしは栄化したし、また栄化しよう」と。29そこに立っていてそれを聞いた群衆は「雷が鳴った」といった。ほかに、「天使がイエスに話した」というものもあった。30イエスは答えられた、「あの声がしたのはわたしのためではなく、あなた方のためである。31今、この世の裁きがある。今、この世の君が外へ投げ出されよう。32そして、わたしが地から挙げられるとき、皆をわたしに引きよせよう」と。33こういわれたのは、どんな死に方で死ぬべきかを示されたのである。34そこで群衆が答えた、「われらは律法でキリストは永遠に生きながらえると聞いている。それなのにあなたはどうして人の子は挙げられねばならぬというのか。人の子とはだれなのか」と。35イエスは彼らにいわれた、「いましばらく光はあなた方のところにある。光のある間に歩いて、闇が追い越さぬようにせよ。闇の中を歩むものは自分がどこへ行くか知らない。36光のある間、光を信ぜよ、光の子らになるために」と。こう話してからイエスは立ち去って彼らから姿を隠された。

   人々の不信

 37これほど徴を彼らの前で行なわれたのに彼らはイエスを信じなかった。38それは預書者イザヤのことばが成就するためであった。いわく、「主よ、だれがわれらに聞いたことを信じましたか。だれに主のみ腕が示されましたか」と。39それゆえ彼らは信じえなかった。またイザヤはいった、40「主は彼らの目を目しいにし、彼らの心を頑にされた。これは彼らが目で見ず、心で悟らず、心を転ぜず、わたしが彼らをいやすことのないためである」と。41こうイザヤがいったのは、彼(キリスト)の栄光を見て彼について語ったのである。42それにもかかわらず、司たちの中にも彼を信じたものが多かった。しかしパリサイ人をおそれて告白しなかった。会堂から追放されないためであった43彼らは神の誉れよりも人の誉れを好んだのである。44イエスは叫んでいわれた、「わたしを信ずるものは、わたしをでなく、わたしをつかわされた方を信じ、45わたしを見るものはわたしをつかわされた方を見る。46わたしが光として世に来たのは、わたしを信ずるものがだれも闇の中にとどまらないためである。47わがことばを聞いて守らぬものをも、わたしは裁かない。わたしが来たのは世を裁くためでなく、世を救うためであるから。48わたしをしりぞけ、わがことばを受けぬものには、それを裁くものがある。わたしが語ったことばこそ終わりの日に彼を裁く。49わたしは自分から語ったのではない。わたしをつかわされた父ご自身がわたしに何をいい、何を語るべきかをいいつけられた。50わたしは知る、彼のいいつけは永遠のいのちと。わが語ることは、父がわたしにいわれたとおりに語るそのことにほかならない」と。

   洗 足

13章 1過越の祭りの前に、イエスは、彼の時が来て世から父へと移るべきことを知り、世にあるおのがものを愛して、彼らを最後まで愛しつくされた。2夕食になると、すでに悪魔がシモンの子イスカリオテのユダの心にイエスにそむくという考えを吹き込んだ。3イエスは、父がすべてをその手にゆだねられたこと、神から出て神へ帰ることを知りながら、4夕食の席から立ちあがって上着を脱ぎ、手拭を取って体に巻かれた。5それから盥(たらい)に水を入れ、弟子たちの足を洗っては巻いた手拭でふきはじめられた。6そうしてシモン・ペテロまで来られると、ペテロがいった、「主よ、あなたがわたしの足をお洗いですか」と。7イエスが答えられた、「わたしのすることは今はあなたにわからない。あとで悟ろう」と。8ペテロはいう、「わたしの足はいつまでも決して洗わないでください」と。イエスは答えられた、「わたしが洗わないなら、あなたはわたしの仲間ではない」と。9シモン・ペテロはいう、「主よ、足だけでなく手も頭も」と。10イエスはいわれる、「湯あみしたものは足のほか洗う必要はない、全身が清いから。あなた方は清い、皆ではないが」と。11彼はそむくものを知っておられた。それゆえ、皆が清いのではないといわれたのである。
 12彼らの足を洗い終え、上着を着、ふたたび席についていわれた、「わたしがあなた方にしたことがわかるか。13あなた方はわたしを先生とか主とか呼ぶ。それは正しい。わたしはそのとおりだから。14それで、わたしが主として先生としてあなた方の足を洗ったゆえに、あなた方も互いに足を洗うべきである。15わたしがあなた方にしたようにあなた方もするようにと、摸範を示した。16本当にいう、僕は主人より偉くはなく、使いはつかわす人より偉くはない。17これがわかって、そのとおりすれば、あなた方はさいわいである。
 18あなた方の皆についていうのではない。わたしはだれを選んだかを知っている。しかしそれは、『わがパンを食べるものが踵(かかと)をあげて去った』とある聖書が成就するためである。19今、事がおこる前にそれをいうのは、事がおこったときに、わたしがそれ(キリスト)であることをあなた方が信ずるためである。20本当にいう、わたしがつかわすものを受ける人はわたしを受け、わたしを受ける人はわたしをつかわされた方を受ける」と。

   そむきの預言

 21こういわれると、イエスは心騒ぎ、断言された、「本当にいう、あなた方のひとりがわたしを売ろう」と。22弟子たちはだれのことをいわれるのかわからず、互いに顔を見あわせていた。23弟子のひとりがイエスのみ胸に近い席にいた。イエスは彼を愛しておられた。24シモン・ペテロがその弟子に合図していう、「おっしゃるのはだれか、教えてくれ」と。25そこで、その弟子はイエスのみ胸にもたれていう、「主よ、だれですか」と。26イエスは答えられる、「わたしがパン一切れを浸して渡すその人がそれだ」と。それからパン一切れ浸し、取ってイスカリオテのシモンの子ユダにお渡しになる。27パンをいただいたそのとき悪魔がユダに入った。そこでイエスが彼にいわれる、「することを早くせよ」と。28同席のものは、イエスが何のためにこういわれたのか、だれもわからなかった。29中には、ユダが金入れをあずかっていたので、イエスが祭りに要るものを買うようにとか、貧しい人に何かを与えるように、とかいわれたと思ったものもあった。30ユダはパンをいただくとすぐ出て行った。夜であった。

   新しいいましめ

 31ユダが出て行くと、イエスはいわれる、「今、人の子は栄化され、神が彼によって栄化されたもう。32神が彼によって栄化されるうえは、神ご自身も彼を栄化されよう。今すぐ栄化されよう。33子らよ、今しばしわたしはあなた方とともにいる。あなた方はわたしを探そう。わたしはユダヤ人に、『わたしの去り行くところへあなた方は来られない』といったが、今は同じことをあなた方にもいう。34あなた方に新しいいましめを与える。互いに愛せよ。わたしがあなた方を愛したように、あなた方も互いに愛せよ。35互いに愛を持つならば、それによってあなた方は皆わが弟子であることを知ろう」と。

   ペテロのつまずきの預言

 36シモン・ペテロが彼にいう、「主よ、どこへお出かけですか」と。イエスは答えられる、「わたしが行くところへあなたは今はついて来られない。あとで来られよう」と。37ペテロはいう、「主よ、なぜ今お伴できないのですか。わたしはあなたのためにいのちをも捨てます」と。38イエスは答えられる、「わたしのためにいのちをも捨てるというのか。本当にいう、あなたが三度わたしを知らないというまでは、にわとりは決して鳴くまい」と。

   道と真理といのち、父と子とわざ

14章 1「あなた方の心を騒がせるな。神を信ぜよ、そしてわたしを信ぜよ。2わが父の家には住まいが多い。そうでなければ、あなた方のところをそなえに行こう、といったろうか。3行ってところをそなえる以上また来てあなた方を迎えよう、わたしのいるところにあなた方もいられるように。4わたしがどこへ行くかはあなた方にわかっている」と。5トマスがいう、「主よ、どこへおいでか、われらにはわかりません。どうしたらその道がわかりますか」と。6イエスはいわれる、「わたしが道であり、真理であり、いのちである。わたしによらずして父に行くものはない。7あなた方はわたしを知ればわが父をも知ろう。今やあなた方は彼を知り、彼を見たのである」と。8ピリポが彼にいう、「主よ、父をわれらにお示しください。それで十分です」と。9イエスはいわれる、「これほど長らくいっしょにいるのにわたしがわからないのか、ピリポよ。わたしを見たものは神を見たのである。どうしてあなたは父をお示しをというのか。10わたしが父におり、父がわたしにいたもうことを信じないのか。わたしがあなた方にいうことばは自分から話すのではない。わたしにとどまりたもう父がみわざをされるのである。11わたしが父におり、父がわたしにいたもうというわたしを信ぜよ。さもなくば、わざ自体によって信ぜよ。12本当にいう、わたしを信ずるものはわたしがなすわざをしよう。否、それよりも大きなわざをしよう。わたしが父に行くからである。13あなた方がわが名によって求めることはわたしがしよう、父が子によって栄化されるために。14あなた方がわが名によって求めることはわたしがしよう。

   助け主、平和

 15わたしを愛するなら、あなた方はわがいましめを守れ。16わたしも父にお願いしようし、父は別の助け主をあなた方にお与えになって、いつまでもあなた方とともにあるようにされよう。17それは真理の霊である。世は彼を見も知りもしないので受けえない。しかしあなた方は彼を知る、彼はあなた方にとどまり、あなた方のうちにあろうから。18わたしはあなた方を孤児(みなしご)のままではおかない。またあなた方のところに来る。19今しばらくすると世はわたしをもはや見まいが、あなた方はわたしを見よう、わたしは生き、あなた方も生きようから。20その日にあなた方は知ろう、わたしがわが父に、あなた方がわたしに、わたしがあなた方にあることを。21わがいましめを保って守るものがわたしを愛するものである。わたしを愛するものはわが父に愛されよう。わたしもその人を愛してその人にわたし自身を現わそう」と。22イスカリオテでないほうのユダがいう、「主よ、どうしたことですか、あなたご自身をわれらにだけ現わされて世には現わされないのは」と。23イエスは答えられた、「わたしを愛するものはわがことばを守ろう。わが父もその人を愛されよう。そしてわれらは彼のところへ行って居を共にしよう。24わたしを愛さぬものはわがことばを守らない。あなた方が聞くことばはわたしのでなく、わたしをつかわされた父のものである。
 25これらを語ったのは、あなた方とともにいるうちであった。26しかしのちに助け主、すなわち父がわが名で送られる聖霊があなた方にすべてを教え、わたしがいったことすべてを思い出させよう。
 27わたしはあなた方に平和を残す、わが平和をあなた方に与える。しかしわたしが与えるのは世の与えるようにではない。あなた方の心を騒がせるな、気落ちするな。28『わたしは去ってまた来る』といったのをあなた方は聞いた。わたしを愛するなら、わたしが父に行くのをよろこぶはずである。父はわたしよりも偉大であるから。29ことの成る前に今これをいったのは、成ったときにあなた方が信ずるためである。30わたしはあなた方ともはや多くを語るまい、この世の君が来るから。彼はわたしに何もできない。31しかし、わたしが父を愛し、父が命じられたとおりにわたしがすることを世が知るために--立て、出かけよう。

   ぶどうの木

15章 1わたしはまことのぶどうの木、父はぶどうつみである2わたしの蔓(つる)で実らぬのは皆お切りになる。実るのは皆より多く実を結ぶようにとお清めになる。3あなた方はわたしが語ったことばのゆえにすでに清い。4わたしにとどまれ、わたしもあなた方にとどまる。ちょうど蔓がぶどうの木にとどまらねば自分では実を結べないように、あなた方もわたしにとどまらねば同様である。5わたしはぶどうの木、あなた方は蔓である。わたしにとどまり、わたしもとどまるその人が多くの実を結ぶ。あなた方はわたしなしでは何もできないから。6わたしにとどまらぬものは蔓のように外に投げ出されて枯れる。そして集めて火に投げ込まれて焼かれる。7あなた方がわたしにとどまり、わがことばがあなた方にとどまれば、欲するものを求めよ。それはかなえられよう。8あなた方が多くの実を結んでわが弟子となれば、わが父は栄化されよう。9父がわたしを愛されたように、わたしはあなた方を愛した。わが愛にとどまれ。10わがいましめを守れば、あなた方はわが愛にとどまろう、ちょうど、わたしが父のいましめを守って彼の愛にとどまるように。

   愛のいましめ、世の憎しみ

 11このことをいったのは、わがよろこびがあなた方の中にあって、あなた方のよろこびが満たされるためである。12わたしがあなた方を愛したように互いに愛せよ、これがわがいましめである。13友のためいのちを捨てるにまさる愛はだれも持てない。14わたしがあなた方に命ずることを行なえば、あなた方はわが友である。15もはやわたしはあなた方を僕と呼ばない。僕は主人のなすことを知らないから。あなた方を友といったのは、わが父から聞いたことを皆知らせたからである。16あなた方がわたしを選んだのではなく、わたしがあなた方を選んだ。そして、あなた方が前進して実を結び、実がいつまでも残るように導いた。わが名によってあなた方が父に求めるものを皆かなえていただくためである。17わたしは命ずる、互いに愛せよ。
 18もし世があなた方を憎めば、世はあなた方より先にわたしを憎んだことを知れ。19もしあなた方が世の出ならば、世はおのがものを愛したろう。しかし、あなた方が世の出でなく、わたしが世から選んだので、世はあなた方を憎む。20『僕は主人にまさらない』といったわたしのことばを覚えていよ。人々は、わたしを迫害したらあなた方も迫害し、わがことばを守ったらあなた方のことばも守ろう。21しかし、わが名のゆえに人々はあなた方にこれらのことをしよう。わたしをつかわされたものを知らないからである。22もしわたしが来て人々に語らなかったなら彼らに罪はなかったろう。しかし今は彼らの罪にいいわけはない。23わたしを憎むものはわが父をも憎む。24ほかのだれもしなかったわざを、わたしが人々の間でしなかったならば、彼らに罪はなかったろう。しかし今は彼らはわたしをもわが父をも見て憎んだ。25これは、『彼らはゆえなくわたしを憎んだ』と彼らの律法にあることばが成就するためである。26わたしが父からあなた方へ送る助け主、すなわち父から出て行く真理の霊が来るとき、彼がわたしについて証しよう。27そしてあなた方も証しよう、あなた方ははじめからわたしといっしょであったから。

   真理の霊

16章 1これらのことをいったのはあなた方がつまずかぬためである。2人々はあなた方を会堂から追放しよう。否、あなた方を殺すものが皆、神にささげものをしていると思う時が来る3彼らがそうするのは、父をもわたしをも知らぬからである。4これらのことをいったのは、その時が来た際に、わたしがいったことをあなた方に思い出させるためである。はじめからこれらをいわなかったのは、あなた方といっしょであったからである。5今はわたしをつかわされた方のところへ行く。しかしあなた方はだれもどこへ行くかと問わない。6むしろ、これらを話したので、悲しみがあなた方の心を満たした。7しかしわたしは真をいう、わたしが去るのはあなた方のためである、と。わたしが去らねば、助け主はあなた方に来ないが、去れば、わたしが彼をつかわそう。8彼は来て、罪につき、義につき、裁きについて世の蒙を啓こう。9罪についてとは、わたしを信じないため、10義についてとは、わたしが(義の)父へと去ってあなた方に見えなくなるため、11裁きについてとは、この世の君が裁かれたためである。12まだいうことは多いが、あなた方は今は耐ええない。13真理の霊の来るとき、彼があなた方をすべての真理へと導こう。彼は自分で語らず、聞くとおりのことを語ろう。そしてやがて来ることをあなた方に告げよう。14彼はわたしを栄化しよう。わたしから受けてあなた方に告げようからである。15父がお持ちのものは皆わがものである。それゆえに、わたしから受けてあなた方に告げる、といったのである。

   しばらくの別れ

 16しばらくすると、あなた方はもはやわたしを見ない。そしてまたしばらくすると、わたしを見よう」。17すると弟子たちのあるものが互いにいった、「彼がいわれるのはどういうことか、『しばらくすると、あなた方はわたしを見ない、そしてまたしばらくすると、わたしを見よう』とは。それに、『父へと去り行く』とは」と。18そこで彼らはいった、「『しばらく』といわれるのは何か。彼がいわれることはわからない」と。19イエスは彼らがたずねたいことを悟っていわれた、「『しばらくすると、あなた方はわたしを見ない、そしてまたしばらくすると、わたしを見よう』といったことについて互いにたずねあっているのか。20本当にいう、あなた方は泣き悼(いた)もうが、世はよろこぼう。あなた方は悲しもうが、悲しみはよろこびとなろう。21女は子を産むとき悲しむ。彼女の時が来たからである。子が生まれると、人が世に生まれたよろこびのゆえに苦しみをもはや覚えていない。22そのように、あなた方も今は悲しみがある。しかしわたしがまた会うと、あなた方の心はよろこぼう。そしてだれもそのよろこびをあなた方から奪うまい。23かの日にあなた方は何もわたしに問うまい。本当にいう、父に求めるものは何でもわが名によって与えられよう。24今まではあなた方はわが名によっては何も求めたことはない。求めれば受けよう、あなた方のよろこびが満たされるために。

   勝利の明言

 25わたしはこれらをあなた方に譬えで話した。しかし時が来て、もはや譬えで話さず、明らかに父について告げよう。26その日に、あなた方はわが名によって求めよう。しかし、わたしはあなた方のために父に願おうとはいわない。27父ご自身あなた方を愛されるからである。それはあなた方がわたしを愛し、わたしが神からの出と信じたからである。28わたしは父から出て世に来た。また世を去って父へと行く」と。
 29弟子たちはいった、「こんなに明らかにお話しで、何ごとも譬えではいわれません。30あなたはすべてをご存じで、だれもおたずねしなくてよいことが、今わかります。これで、神からお出のことを信じます」と。31イエスは答えられた、「今信ずるのか。32見よ、おのおのが散らされて家に行き、わたしひとりを残す時が来る。もう来ている。しかしわたしはひとりではない。父がともにいてくださるから。33これらをいったのは、あなた方がわたしにあって平安を持つためである。世にあって、あなた方にはなやみがある。しかし、安んぜよ、わたしはすでに世に勝っている」と。

   父と子との栄光

17章 1これらを話してからイエスは天を見あげていわれた、「父上、時が来ました。あなたの子を栄化してください、子があなたを栄化するために。2あなたは全人類への権威を子にお与えでした、あなたが子にお与えのものすべてに永遠のいのちを与えるために。3永遠のいのちとは、ただひとりの真の神にいますあなたとあなたがおつかわしのイエス・キリストを知ることです。4わたしにするようお与えのわざを終えて、地上であなたを栄化しました。5今は、父上、あなたがわたしをあなたのもとで栄化してください、世の存在する前にあなたのもとでわたしが持っていた栄光によって。

   皆がひとつになるように

 6世からわたしにお与えの人々にあなたのみ名を示しました。あなたのものであった彼らをわたしにお与えでした。彼らはあなたのおことばを守りました。7今彼らは、わたしにお与えのものがすべてあなたからであることを知りました。8わたしにお与えのことばを彼らに与えました。彼らはそれらを受け、わたしがあなたからの出であると本当に知り、あなたがわたしをおつかわしのことを信じました。9わたしは彼らのためにお願いします。のためではなく、あなたがわたしにお与えの人々のためにお願いします、彼らはあなたのものですから。10わたしのものは皆あなたのもの、あなたのものはわたしのものです。彼らによってわたしは栄化されました。11もはやわたしは世にいなくなり、彼らは世に残り、わたしはあなたのところへまいります。聖い父上、わたしにお与えのあなたのみ名で彼らをお守りください、われらのように彼らがひとつになるように。12彼らといっしょのとき、わたしにお与えのあなたのみ名で彼らを守り、つつがなくしまして、彼らのだれひとり滅びませんでした。滅びの子は別ですが、それは聖書が成就するためです。13今あなたのところにまいります。これらを世にあるうちにいうのは、彼らのうちにわがよろこびが満たされるためです。14わたしは彼らにおことばを与えました。すると世は彼らを憎みました。わたしが世の出でないように、彼らが世の出でないからです。15わたしがお願いするのは、彼らを世からお移しになることではなく、悪からお守りになることです。16わたしが世の出でないように、彼らは世の出ではありません。17彼らを真理でお聖めください。あなたのおことばが真理です。18あなたがわたしを世におつかわしのように、わたしも彼らを世につかわしました。19彼らのためにわたしはみずからを聖別します、彼らも真理によって聖別されるように。
 20わたしがお願いするのは彼らのためばかりでなく、彼らのことばによってわたしを信ずるもののためにもです。21すべてがひとつであるように、父上、あなたがわたしにあり、わたしがあなたにあるように、彼らもわれらにあり、あなたがわたしをおつかわしと世が信じますように。22あなたがわたしにお与えの栄光を彼らに与えました。われらがひとつのように、彼らもひとつになるためです。23わたしが彼らにあり、あなたがわたしにあって、彼らが全うされてひとつになるためです。そして、あなたがわたしをつかわされたこと、わたしを愛されたように彼らを愛されたことを世が知るためです。
 24父上、わたしにお与えのものもわたしのいるところにいっしょで、わが栄光を見ることを望みます。この栄光は、あなたが世のはじめより前にわたしを愛してわたしにお与えでした。25義にいます父上、世はあなたを知りませんでしたが、わたしは知りました。この人たちもあなたがわたしをおつかわしと知りました。26わたしはあなたのみ名を彼らに知らせました。また知らせましょう、わたしをお愛しの愛が彼らにあり、わたしも彼らにあるためです」と。

   捕 縛

18章 1これらをいってイエスは弟子たちとケドロンの谷の向こうへ行き、そこにある園へ弟子たちと入られた。2背くユダもその場所を知っていた。イエスがたびたび弟子たちとそこに集まられたからである。3ユダは兵隊と大祭司とパリサイ人の手下を連れ、燈(あかり)や松明(たいまつ)や武器を持ってそこに来た。4イエスは身の上に来ることすべてを知り、出かけて彼らにいわれる、「だれに用か」と。5彼らは答えた、「ナザレ人イエス」と。彼はいわれる、「わたしがそれだ」と。彼に背くユダも彼らといっしょに立っていた。6「わたしがそれだ」といわれたとき、彼らはあとずさりして地に倒れた。7そこでふたたび彼らに問われた、「だれに用か」と。彼らはいった、「ナザレ人イエス」と。8イエスは答えられた、「わたしがそれだといったのに。もしわたしを探しているのなら、この人々が去るままにせよ」と。9これは「あなた(神)がわたしにお与えの人々のうちだれも滅ぼしませんでした」と彼がいわれたことが成就するためであった。10すると、剣を持っていたシモン・ペテロはそれを抜いて大祭司の僕に切りつけ、その右の耳を切り落とした。僕の名はマルコスであった。11イエスはペテロにいわれた、「剣を鞘におさめよ。父がわたしにお与えの杯を飲まずに済まされるか」と。

   ペテロの否定

 12そこで兵隊と千卒長とユダヤ人の手下はイエスを捕えて縛り、まずアンナスのところへ引いて行った。13彼はその年の大祭司カヤパの舅であったからである。14カヤパは、民のためにひとりの人が死ぬのは好ましいとユダヤ人に説いた人である。15シモン・ペテロともうひとりの弟子がイエスに従った。その弟子は大祭司と知り合いであったので、イエスとともに大祭司の官邸の中庭に入った。16ペテロは門の外に立っていた。大祭司と知り合いのあのもうひとりの弟子が出て来て門番の女に話し、ペテロを連れて入った。17そこで門番の女中がペテロにいう、「あなたもあの人の弟子のひとりではありませんか」と。彼はいう、「そうではない」と。18僕や手下は立っていて、寒かったので炭火をおこしてあたっていた。ペテロも彼らといっしょに立ってあたっていた。
 19さて、大祭司はイエスに弟子たちや教えについてたずねた。20イエスは答えられた、「わたしは公に世に向かって話した。ユダヤ人が皆集まる会堂や宮でいつも教え、隠れて話したことはひとつもない。21何をわたしにたずねるのか。わたしが話したことは聞いた人々にたずねよ。このとおり、これらの人々がわたしがいったことを知っているはず」と。22こういわれると、立っていた手下のひとりが「大祭司に向かってそんな答え方をするのか」といってイエスを平手で打った。23イエスは答えられた、「わたしが悪いことをいったなら、その悪を証せよ。よければ、なぜ打つか」と、24アンナスはイエスを縛ったまま大祭司カヤパへ送った。
 25シモン・ペテロは立って火にあたっていた。すると人々が彼にいった、「あなたもあの人の弟子のひとりか」と。彼は打ち消していった、「そうではない」と。26大祭司の僕のひとりで、ペテロが耳を切り落とした人の身うちがいう、「あなたをあの人といっしょに園で見なかったろうか」と、27ペテロがふたたび打ち消すと、すぐにわとりが鳴いた。

  ピラトの審問

 28人々はイエスをカヤパのところから総督邸へ引いて行った。それは夜明けであった。人々は総督邸に入らなかったが、それはけがされないで過越の食事をするためであった29そこでピラトは彼らのところに出て来ていう、「この人に対して何の訴えをするのか」と。30彼らは答えた、「この人が悪をしなかったのならこの人をあなたに引き渡しはしません」と。31ピラトはいった、「あなた方が引き取って自分の法律で裁きなさい」と。ユダヤ人はいった、「われらには人を死に定める権利がありません」と。32これはイエスがどんな死に方で死ぬべきかを示していわれたことばの成就するためであった。
 33ピラトはまた総督邸に入り、イエスを呼んでいった、「あなたはユダヤ人の王か」と。34イエスは答えられた、「自分からそういうのか、ほかの人々がわたしのことをあなたにそういったのか」と。35ピラトは答えた、「わたしがユダヤ人だというのか。あなたの民と大祭司があなたをわたしに引き渡したのだ。何をしたのか」と。36イエスは答えられた、「わが王国はこの世のものではない。もしわが王国がこの世のものであったら、わたしの手下はわたしをユダヤ人に渡すまいと戦ったろう。本当にわが王国はここにはない」と。37ピラトはいった、「それならやはり王なのか」と。イエスは答えられた、「あなたはわたしが王だといっている。わたしは真理について証するためにこの世に生まれ、そのためにこの世に来た。真理につくものは皆わが声を聞く」と。38ピラトはいう、「真理とは何か」と。
 こういってピラトはふたたびユダヤ人のところへ出て行っていう、「わたしはこの人に何の罪も認めない。39あなた方には、過越にひとりをゆるす慣例がある。それで、ユダヤ人の王をゆるしてやろうか」と。40彼らは叫んだ、「この人でなく、バラバを」と。バラバは強盗であった。

   ピラトの努力

19章 1そこでピラトはイエスを引き取り、鞭で打たせた。2兵卒らは茨で冠を編んで彼の頭にのせ、紫の衣を着せた。3そして彼のところに来ては「ユダヤ人の王、万歳」といって平手で打った。
 4またもやピラトは外に出て人々にいった、「見よ、この人をあなた方の前に引き出す。わたしは彼に何の罪も認めないことをわかってもらいたい」と。5イエスは茨の冠をかむり、紫の衣を着て出て来られた。ピラトがいう、「見よ、この人だ」と。6大祭司と手下とはイエスを見ると、「十字架に、十字架に」と叫んだ。ピラトは彼らにいった、「あなた方が彼を引き取って十字架につけよ。わたしは彼に何の罪も認めない」と。7ユダヤ人は答えた、「われらには律法があります。律法によれば死刑は動きません、自分を神の子としたのですから」と。
 8ピラトはそのことばを聞くと、ますますおそれた。9そしてまた総督邸に入ってイエスにいう、「あなたはどこの出か」と。イエスは何の答えもされなかった。10そこでピラトはいう、「わたしに何もいわないのか。わたしにはそちらをゆるす権威もあり、十字架につける権威もある」と。11イエスは答えられた、「あなたは天から与えられねばわたしに対して何の権威もない。それゆえわたしをあなたに売ったものの罪はあなたのよりも重い」と。12それを聞いてピラトは彼をゆるそうと努めたが、ユダヤ人は叫んだ、「これをゆるせば、あなたは皇帝(カイサル)の味方でない。自分を王とするものは皆皇帝(カイサル)の敵である」と。
 13ピラトはこれらを聞いて、イエスを外に引き出し、石だたみ--ヘブライ語でガバタ--と呼ばれるところで裁判席についた。14それは過越の準備の日で、時は正午ごろであった。彼はユダヤ人にいう、「見よ、あなた方の王だ」と。15彼らは叫んだ、「片づけよ、片づけよ、十字架につけよ」と。ピラトは彼らにいう、「あなた方の王をわたしが十字架につけるのか」と。大祭司らは答えた、「われらには皇帝(カイサル)のほかに王はありません」と。16そこでピラトは十字架につけるようイエスを彼らに引き渡した。

   十字架

 17彼らはイエスを引き取った。イエスはみずから十字架を負って、いわゆるされこうべのところ--ヘブライ語でゴルゴタ--へと出て行かれた。18そこで彼らはイエスを十字架につけた。そしてほかのふたりがあちらとこちらにイエスを真ん中にしていっしょにつけられた。19ピラトは捨札(すてふだ)を書いて十字架に添えた。「ナザレ人イエス、ユダヤ人の王」と書いてあった。20この捨札を読んだユダヤ人は多かった。イエスが十字架につけられたところは都に近かったからである。捨札はヘブライ語、ラテン語、ギリシア語で書いてあった21すると、ユダヤ人の大祭司らがピラトにいった、「『ユダヤ人の王』でなくて、『この人は、わたしはユダヤ人の王、といった』と書いてください」と。22ピラトは答えた、「わたしが書いたものは書いたもの」と。

   兵卒と女たち

 23兵卒はイエスを十字架につけると、彼の上着を取って四切れに分け、兵卒のおのおのに一切れずつあてがった。下着もそうしようとしたが、下着は縫い目なしで、上からすっかり一枚織りであった。24そこで互いにいった、「これは裂くまい。だれのものになるか、くじを引こう」と。これは聖書が成就するためである。いわく、「彼らは互いにわが衣を分け、わが着物にくじを引いた」と。兵卒はこれをしたのである。
 25イエスの十字架のそばに母と母の姉妹・クロパの妻マリヤとマグダラのマリヤが立っていた。26イエスの母とそばに立っていた愛弟子とを見て、母にいわれる、「母上、ここにあなたの子が」と。27ついでその弟子にいわれる、「ここにあなたの母上が」と。このときからその弟子は彼女をおのが家に迎えた。

   死

 28こののち、イエスは、もはやすべてが終わったことを知って、聖書が成就するように、「渇く」といわれる。29すっぱいぶどう酒を満たした器がそこに置いてあった。彼らはそのすっぱいぶどう酒を含ませた海綿をヒソプにつけてイエスの口ヘと差し出した。30すっぱいぶどう酒を受けると、イエスは「事は終わった」といわれた。そして、頭を垂れて息を引き取られた。
 31さて、その日は準備日(そなえび)であったので、ユダヤ人は安息日に死体を十字架上に残したくなかった。その安息日は大切な日であった。そこで脛を折って死体をおろすようピラトに願った。32そこで兵卒らが来て、イエスとともに十字架につけられた第一のものの脛を折り、もうひとりのものもそうした。33イエスのところに来ると、すでになくなったのを見て、脛は折らず、34兵卒のひとりが槍でその脇を突いた。するとすぐ血と水が出た。35目撃者がそれを証している。その証は真である。彼はいうことが真であることを知っている。この証はあなた方も信ずるためである。36これらは聖書が成就するためにおこったことである、いわく、「彼の骨はくだかれまい」と。37また別のところにいわく、「彼らはその突き刺したものを見よう」と。

   埋 葬

 38こののち、アリマタヤ出のヨセフが--彼はユダヤ人をはばかってひそかにイエスの弟子であったが--イエスの体を引き取りたいと願い出た。ピラトがゆるすと、来て体を引き取った。39ニコデモも来た。前に夜イエスのもとに来た人である。彼は没薬(もつやく)沈香(じんこう)の混ぜたものを百リトラほど持参した。40彼らはイエスの体を受け取り、ユダヤ人の埋葬の習慣どおり、香料を加えて亜麻布で包んだ。41彼が十字架につけられたところには園があった。園にはまだだれも納められたことのない新しい墓があった。42ユダヤ人の準備日であったし、墓が近くにあったので、そこにイエスをお納めした。

   墓の前

20章 1週の第一日に、マグダラのマリヤが朝早く、まだ暗いうちに墓に来て、墓から石が移されているのを見た。2そこで走ってシモン・ペテロとイエスの愛されたもうひとりの弟子のところへ来ていう、「主が墓から移されました。どこに置かれたかわかりません」と。3そこでペテロともうひとりの弟子は出かけて墓に行った。4ふたりは並んで走っていたが、ひとりの弟子がペテロを走り越して、先に墓に来た。5かがむと亜麻布が置いてあるのが見えた。しかし中には入らなかった。6つづいてシモン・ペテロも来た。彼は墓に入り、亜麻布が置いてあるのを見た。7頭にかけた手拭も見たが、それは亜麻布といっしょには置いてなく、それだけでひとところにまるめてあった。8そこへ先に墓に来たもうひとりの弟子も入って、それを見て、信じた。9彼は死人の中から復活されねばならぬ」という聖書のことばが、彼らにはまだわからなかったのである。10それで彼らはまた家路についた。

   マグダラのマリヤヘの出現

 11マリヤは墓の外に立って泣いていた。泣きながら、墓にかがみ込むと、12白い装いの天使がふたり、ひとりはイエスの体が置かれていたところの頭のほうに、ひとりは足のほうにすわっているのが見えた。13彼らはマリヤにいう、「女の人、なぜ泣くのか」と。彼女はいう、「わが主が移されて、どこに置かれたかわからないからです」と。14こういいながらうしろを向くと、イエスが立っておられるのが見えた。しかしそれがイエスとは気づかなかった。15イエスは彼女にいわれる、「女の人、なぜ泣くのか。だれを探しているのか」と。彼女は園丁と思っていう、「あなた、もしあなたがあの方をお運びでしたら、どこにお置きかおっしゃってください。わたしがお引き取りします」と。16イエスが彼女にいわれる、「マリヤ」と。彼女は振り向いてヘブライ語でいう、「ラボニ(訳せば先生)」と。17イエスはいわれる、「わたしにさわるな。まだ父のところに上っていないから。わが兄弟たちのところへ行って、『わたしは、わが父であなた方の父、わが神であなた方の神のところへ上る』と告げよ」と。18マグダラのマリヤは弟子たちのところへ行って、主を見たこと、これらを主がいわれたことを告げた。

   弟子たちへの出現

 19その日、すなわち週の第一日が夕方になって、弟子たちのいるところにはユダヤ人をおそれて戸に鍵がかけてあったが、イエスは入って彼らの真ん中に立ち、「ごきげんよう」といわれる。20こういいながら手と脇とをお見せになった。弟子たちは主を見てよろこんだ。21イエスはまたいわれた、「ごきげんよう。父がわたしをおつかわしのように、わたしもあなた方をつかわす」と。22こういいながら彼らに息を吹きかけていわれる、「聖霊を受けよ。23人の罪はあなた方がゆるせばゆるされ、ゆるさねばそのまま残ろう」と。

   トマスの告白、福音書の目的

 24十二人のひとりでデドモ(二子)ことトマスは、イエスが来られたとき彼らといっしょにいなかった。25それでほかの弟子たちが、「われらは主にお目にかかった」といったが、彼はいった、「その手に釘跡を見なければ、わが指を釘跡にさし込まねば、わが手をその脇にさし込まねば、わたしは決して信じまい」と。26八日ののち、弟子たちはまた家にいた。トマスもいっしょであった。戸に鍵がかけてあるのにイエスは来て真ん中に立っていわれた、「ごきげんよう」と。27それからトマスにいわれる、「あなたの指をここに出し、わが手を見よ。あなたの手を出してわが脇に入れよ。不信はやめて信ずるものになれ」と。28トマスは答えた、「わが主よ、わが神よ」と。29イエスはいわれる、「わたしを見たから信ずるのか。さいわいなのは見ないで信ずる人々!」と。
 30このほかイエスはこの本には書いてない多くの徴を弟子たちの前でなさった。31しかしこれらを書いたのは、あなた方がイエスはキリストで神の子であると信ずるため、信ずるものがみ名によっていのちを受けるためである。

   ガリラヤ湖での出現

21章 1こののち、イエスはテベリア湖でふたたび自らを弟子たちに現わされた。その様子はこうであった。2シモン・ペテロと、デドモことトマスと、ガリラヤはカナの出のナタナエルと、ゼベダイの子らと、ほかのふたりの弟子がいっしょにいた。3シモン・ペテロが彼らにいう、「わたしは漁に行く」と。彼らはいう、「われらもいっしょに行く」と。彼らは出かけて舟に乗った。しかしその夜は何もとれなかった。4もう夜明けになるころ、イエスが岸に立っておられた。しかし弟子たちはそれがイエスとは知らなかった。5イエスは彼らにいわれる、「子どもたち、食べ物はあるのか」と。彼らは答えた、「いいえ」と。6彼はいわれた、「舟の右がわに網を打ちなさい。獲物があろう」と。彼らが網を打つと、魚が多くて、もはや網を引きあげえなかった。7イエスの愛された弟子がペテロにいう、「主だ」と。シモン・ペテロは、「主だ」と聞くと、裸であったので、上着をまとって湖に飛び込んだ。8しかしほかの弟子たちは、魚の網を引きながら舟で行った。陸からあまり離れず、二百ペキュスであった。9陸にあがって見ると、炭火がおこしてあって、魚がのせてあり、パンがあった。10イエスは彼らにいわれる、「今とった魚をすこし持って来なさい」と。11シモン・ペテロがあがって網を陸へ引くと百五十三匹もの大きな魚でいっぱいであった。こんな大漁でも網は裂けなかった。12イエスはいわれる、「さあ、朝飯になさい」と。弟子はだれも「あなたはどなたで」とあえてたずねなかった。主であることを知っていたからである。13イエスは来てパンを取って彼らに与えられた。魚もそうされた。14イエスが死人の中から復活して弟子たちに現われられたのはこれではや三度目である。

   ペテロとヨハネヘの預言

 15さて、食事が終わると、イエスはシモン・ペテロにいわれる、「ヨハネの子シモン、この人たちの愛以上にわたしを愛するか」と。彼はいう「はい、主よ、わたしがあなたを愛することはご存じです」と。イエスはいわれる、「わが小羊を飼いなさい」と。16二度目にまたいわれる、「ヨハネの子シモン、わたしを愛するか」と。彼はいう、「はい、主よ、わたしがあなたを愛することはご存じです」と。イエスはいわれる、「わが羊を養いなさい」と。17三度目にいわれる、「ヨハネの子シモン、わたしを愛するか」と。ペテロは、イエスが三度目にも、「わたしを愛するか」といわれたので、悲しくなって、いった、「主よ、あなたはすべてがおわかりです。わたしがあなたを愛することはご存じです」と。イエスはいわれる、「わが羊を飼いなさい。18本当にいう、あなたは若かったころ、自分で帯をしめて行きたいところへ行った。年をとると、両手をのばして、他人に帯をしめられ、行きたくないところへ連れられよう」。19こういわれたのは、ペテロがどんな死に方をして神を栄化するかを示すためであった。こう話してから彼にいわれる、「わたしに従え」と。20ペテロが振り返ると、イエスの愛弟子が従うのが見えた。夕食のとき、イエスの胸にもたれて、「主よ、あなたを売るのはだれですか」といったのはこの弟子である。21彼を見てペテロはイエスにいう、「主よ、あの人はどうなるのですか」と。22イエスはいわれる、「わたしがまた来るまで彼を生かしておきたくとも、それはあなたに関係ない。あなたはわたしに従え」と。23それで、兄弟たちの間にこの弟子は死なないといううわさがひろまった。イエスは「死なない」といわれたのではない。「わたしがまた来るまで彼を生かしておきたくとも、それはあなたに関係ない」といわれたのである。

   あとがき

 24これらを証して書いたのはこの弟子である。われらはその証が真であることを知っている。25イエスはこのほかにも多くのことをなさった。それらをひとつひとつ書けば、世界もそれが書かれた本を置けないと思う。