マルコ福音書

   洗礼者ヨハネの出現

1章 1イエス・キリスト福音のはじめはこうである。
 2イザヤの預言に書かれている--「見よ、わたしはあなたに先駆ける使いを送る。彼はあなたの道を整えよう。3荒野に呼ぶものの声がする、主の道をそなえ、彼の行く手を直くせよ」と。
 4洗礼者ヨハネが荒野に現われ、罪のゆるしへの悔い改めの洗礼をとなえた。5するとユダヤ全地とエルサレム人すべてが彼のところに出かけて来て、おのが罪を告白しつつ彼からヨルダン川で洗礼を受けた。6ヨハネはらくだの毛を着、腰に皮の小袴(こばかま)をし、いなごと野蜜(のみつ)を食とした。7そしてのべ伝えた、「わたしより偉い方がのちに来られる。わたしはかがんでその靴のひもを解くにも値しない。8わたしはあなた方を水で洗礼したが、彼はあなた方を聖霊で洗礼しよう」と。

   イエスの受洗、荒野の試み

 9そのころ、イエスがガリラヤのナザレから来て、ヨルダンでヨハネから洗礼を受けられた。10水からあがられるおりしも、天が開いて、霊が鳩のように彼の上に下るのをごらんになった。11すると天から声がした、「あなたはわがいとし子、わがよみするもの」と。
 12そののち霊が彼を荒野に導いた。13彼は荒野に四十日間いて悪魔の試みにあわれた。イエスは獣といっしょであったが天使たちが仕えていた。

   伝道のはじめ、最初の弟子

 14ヨハネが捕われてのち、イエスはガリラヤへ来て神の福音を説いていわれた、15「時は満ち、神の国は近づいた。悔い改めて福音を信ぜよ」と。16ガリラヤ湖畔を行かれると、シモンとその兄弟アンデレが湖で網を打っているのが、お目にとまった。彼らは漁夫であった。17イエスはいわれた、「さあ、ついて来なさい。あなた方を人間の漁夫にしてあげよう」と。18彼らはただちに網を捨てて従った。19少し進むとゼベダイの子ヤコブとその兄弟ヨハネとが、これも舟で網を整えているのがお目にとまった。20そこですぐお招きになると、父ゼベダイを雇人(やといにん)ごと舟に残して、彼らはイエスのあとについて行った。

   カペナウムの会堂

 21彼らはカペナウムに着いた。さっそくイエスは安息日に会堂に入ってお教えになった。22人々は彼の教えにおどろいた。教えのさまが学者らのようでなく、権威あるもののようであったからである。23そのとき会堂の中にけがれた霊につかれた人がいて、叫んだ、24「ナザレのイエス、何のご用か。われらを滅ぼしにおいでか。わたしはあなたがだれか知っています。神の聖者です」と。25イエスはいましめられた、「黙れ。その人から出よ」と。26するとけがれた霊はその人をひきつけさせ、大声をあげて出て行った。27皆はおどろいて互いに問いあった、「これは何事か。新しい教えだ。権威がある。けがれた霊さえ、この人が命ずると従うとは」と。28彼の評判はたちまち至るところ、ガリラヤ周辺一帯にひろまった。

   シモンの姑らのいやし

 29イエスは会堂を出るとすぐシモンとアンデレの家へ行かれた。ヤコブとヨハネがお伴した。30シモンの姑(しゅうとめ)が熱病で寝ていた。彼らはすぐイエスに彼女のことをいった。31彼は進みより、手を取って起こされた。すると熱は去って、彼女は彼らに給仕した。
 32夕方になって日が沈むと、人々は病人や悪霊つきを皆彼のところへ連れて来た。33そして町じゅうが戸口に集まった。34彼はいろいろな病をわずらうものを大勢いやし、多くの悪霊を追い出された。そして、悪霊どもがイエスがだれかを知っていたので、ものいうことをおゆるしにならなかった。
 35あくる朝、まだ真暗なうちにイエスは起きてお出かけになり、人のいないところへ行ってそこで祈っておられた。36シモンとその仲間があとをつけて来て、37彼を見つけていう、「皆があなたをお探ししています」と。38彼はいわれる、「ほかの隣の町々に移って、そこでも福音を説こう。そのためにわたしは出て来たのだから」と。39そして彼は出かけて全ガリラヤの町々の会堂で福音を説き、悪霊を追い出された。

   らい者の清め

 40ひとりのらい者が彼のところに来てひざまずいて願った、「お心さえ向けばわたくしをお清めになれます」と。41イエスはあわれんで手をのばし、彼にさわっていわれる、「よろしいとも。清くおなり」と。42たちまちらいはとれて、彼は清まった。43イエスはきびしくいましめて彼をすぐ去らせていわれる、44「気をつけて、だれにも何もいわぬように。しかし行って体を祭司に見せ、モーセが命じたものをあなたの清めのためにささげよ、人々への証のために」と。45しかしその人は出て行くと、しきりに話して、このことをあからさまにしはじめたので、イエスはもはや公には町に入れず、町の外の人のいないところにおられた。しかし四方から彼のところに来る人が絶えなかった。

   中風のいやし

2章 1数日後、カペナウムに帰られると、家においでと知れわたった。2あまり大勢が集まったので、もはや戸口にも場所がなかったが、イエスは彼らに教えをのべておられた。3そこへ人々は四人にかつがせて中風やみをひとり連れて来た。4しかし群衆のためにイエスに近づけないので、彼のおられたところの屋根をはずして穴をあけ、中風やみの寝ている床をおろした。5イエスは彼らの信仰を見て中風やみにいわれる、「わが子よ、あなたの罪はゆるされます」と。6学者が何人かそこにすわっていて、心の中で考えた、7「この人はなぜこういうのか。けがしごとだ。神おひとりのほか、だれが罪をゆるせるか」と。8イエスは彼らがひそかにこう考えているのにすぐ霊で気づいて、彼らにいわれる、「なぜそのようなことを心の中で考えているのか。9中風やみに『あなたの罪はゆるされます』というのと、『起きて床を持ちあげて歩け』というのとどちらがやさしいか。10しかし、人の子が地上で罪をゆるす権威を持つことをあなた方に知らせよう」と。そして中風やみにいわれる、11「あなたにいう、起きて床を持ちあげて家にお帰り」と。12彼は起きてすぐに床を持ちあげて皆の前を出て行った。皆はおどろき、「こんなことはかつて見たことがない」といって神をたたえた。

   取税人と罪びとの招き

 13ふたたび彼は湖畔に出て行かれた。群衆が皆彼のところに来たのでお教えになった。14進んで行かれると、アルパヨの子レビが収税所にすわっているのを見受けて、彼にいわれる、「わたしについて来なさい」と。すると立って従った。15イエスが彼の家で食卓につかれると、多くの取税人や罪びとも彼や弟子たちと同席した。彼に従うものは多かったのである。16すると、パリサイ人の学者は彼が罪びとや取税人と食を共にされるのを見て、弟子たちにいった、「彼は取税人や罪びとと食を共にするのか」と。17イエスはそれを聞いて、彼らにいわれる、「医者を要するのは健康人ではなくて病人である。わたしが招きに来たのは、義人をではなく罪びとをである」と。

   断食問答

 18ヨハネの弟子たちとパリサイ人が断食していると、人々が来てイエスにいう、「なぜヨハネの弟子とパリサイ人の弟子は断食するのに、あなたの弟子は断食しませんか」と。19イエスはいわれた、「花むこが共にいる間、婚礼の客が断食できるか。花むこが共にいる間、断食はできない。20しかし花むこが彼らから取られる日が来よう。そうすればその日に彼らは断食しよう」と。21「だれも織りたての布で古い衣につぎをあてない。あてると、新しいつぎが古い布からやぶけて、裂け目は前よりひどくなる。22だれも新しい酒を古い皮袋には入れない。入れると、酒は皮袋を裂き、酒も皮袋もだめになる。新しい酒は新しい皮袋に!」。

   安息日の穂摘み

 23安息日に麦畑を通られたときのこと、弟子たちが道すがら穂を摘みはじめた。24パリサイ人らが彼にいった、「あのように、彼らはなぜ安息日にすまじきことをしているのですか」と。25彼はいわれる、「ダビデとお伴が何も持たなくて飢えたとき何をしたか、あなた方は読まなかったのか。26彼は大祭司アビヤタルのとき神の家に入って供えのパンを食べた。それを食べることは祭司たちだけにゆるされるのに、彼はそれをお伴にも与えた」と。27さらにいわれた、「安息日は人のためにあり、人が安息日のためにあるのではない。28それゆえ、人の子は安息日の主でもある」と。

   手なえのいやし

3章 1ふたたび会堂に入られると、手のなえた人がそこにいた。2人々は安息日にこの人をいやされるかどうかと見守っていた。それは彼を訴えるためであった。3彼は手のなえた人にいわれる、「立って真ん中に来なさい」と。4そして人々にいわれる、「安息日に善をなすのと悪をなすのと、いのちを救うのと殺すのと、どちらが正当か」と。彼らは黙っていた。5そこでイエスは怒りをもって人々を見まわし、彼らの心の頑(かたくな)なのをなげいて、その人にいわれる、「手をおのばし」と。すると手がなおった。6パリサイ人は出て行って、ヘロデの一味とともに彼をなきものにする相談をはじめた。

   名声と沈黙命令

 7イエスは弟子たちとともに湖へと立ち去られた。ガリラヤ出の大勢の群衆が従って行った。またユダヤ、8エルサレム、イドマヤ、ヨルダンのかなた、ツロ、シドンあたりからも、大勢の群衆が彼のなさることのすべてを耳にして、おそばに集まって来た。9そこで弟子たちに自分のため小舟を用意するよういいつけられた。それは群衆に押しつぶされぬためであった。10いやされた人が多く、わずらうものが皆彼にさわろうと押しよせたからである。11けがれた霊どもは、彼を見るとひれ伏して、「あなたは神の子」と叫ぶのであった。12イエスはご自身を公にせぬようにと、彼らをきびしくいましめられた。

   十二人の選び

 13それから山に上って、お望みの人々を呼ばれると、彼らはおそばに来た。14そこで十二人をお決めになった。彼の近くに置くため、またつかわして福音をのべ、15悪霊を追い出す権威を持たせるためであった。16すなわち十二人を決めて、シモンをペテロと名づけ、17ゼベダイの子ヤコブとヤコブの兄弟ヨハネとはボアネルゲ、すなわち雷の子らと名づけられた。18さらにアンデレとピリポとバルトロマイとマタイとトマスとアルパヨの子ヤコブとタダイと熱心党のシモンと19イスカリオテのユダ。これはイエスを売った人である。

   ベルゼブルと聖霊

 20家に帰られると、また群衆が集まったので、彼らは食事さえできなかった。21身うちのものがこれを聞いて、彼を押えに来た。人々がイエスは気がふれたといったからである。22エルサレムから下って来た学者も「イエスはベルゼブルにつかれている」とか、「悪霊の頭によって悪霊を追い出す」とかいった。
 23そこで彼らを呼んで、譬えで話された、「どうして悪魔が悪魔を追い出せよう。24王国が内輪で割れれば、その王国は立ちゆかない。25家が内輪で割れれば、その家は立ちゆかない。26悪魔が内輪もめして割れれば、それは立ちゆかずに滅びる。27強いものの家に入ってその持ちものを奪うには、まず強いものを縛らねばならない。縛ってからその家をかすめる。28本当にいう、人の子らのいろいろな罪も、どんなけがしごとをいっても、皆ゆるされよう。29しかし聖霊をけがすものは永遠にゆるされず、永遠の罪に処せられる」と。30これは「イエスがけがれた霊につかれている」と彼らがいったからである。

   真の身うち

 31彼の母と兄弟たちが来て、外に立ったまま人をやって彼を呼ばせた。32彼のまわりに群衆がすわっていて彼にいう、「あのように、あなたの母と兄弟姉妹が外であなたをたずねています」と。33イエスは答えられた、「だれがわが母と兄弟たちか」と。34そしてまわりにすわる人々を見まわしていわれる、「ここにわが母、わが兄弟たちがいる。35神のみ心を行なうものこそわが兄弟、姉妹、また母である」と。

   種まきの譬え

4章 1彼はふたたび湖畔で教えはじめられた。大勢の群衆が彼のところに集まって来たので、舟に乗って湖の上ですわられた。群衆はみな湖畔の陸にいた。2彼は多くのことを譬えで教えられ、教えのなかでこういわれた、3「聞け。種まきが種をまきに出かけた。4まくうちに、あるものは道ばたに落ち、鳥が来て食べた。5あるものは土の多くない岩地に落ち、土が深くないのですぐ芽を出したが、6日がのぼると焼けて、根がないので枯れた。7あるものは茨の間に落ち、茨がのびて押えつけたので実らなかった。8あるものはよい地に落ち、のびて育って実り、あるいは三十倍、あるいは六十倍、あるいは百倍の実がなった」と。9そしていわれた、「聞く耳あるものは聞け」と。

   譬えの説明

 10ひとりでおいでのとき、十二人とともに彼のまわりにいた人が譬えについておたずねした。11するといわれた、「あなた方には神の国の奥義が与えられている。しかし、あれら外の人々にはすべてが譬えで示される。12彼らが見に見ても見えず、聞きに聞いても悟らぬためである。さもないと、彼らは心を入れかえてゆるされよう」と。13また彼らにいわれる、「この譬えがわからないのか。それでどうしてすべての譬えがわかろう。14種まきはことばをまく。15道ばたのもの、それはことばがまかれてそれを聞くと、すぐ悪魔が来てまかれたことばを取り去る人である。16同じように、岩地にまかれたもの、それはことばを聞くとすぐよろこんで受けるが、17自分に根がなく、おざなりなので、ことばゆえの苦難や迫害がおこると、すぐつまずく人である。18ほかのもの、それは茨の中にまかれた人で、彼らはことばを聞くが、19この世のわずらいや富の惑わしやそのほかの欲が入って来てことばを押えて実らなくなる。20よい地にまかれたもの、それはことばを聞いて受け入れ、三十倍、六十倍、百倍の実を結ぶ人である」と。

   譬えの活用

 21また彼らにいわれた、「明りを持って来るのは枡の下や寝台の下に置くためであろうか。燭台の上に置くためではないか。22隠されたものは皆現わされるためであり、おおわれたものは皆明らかにされるためである。23聞く耳あるものは聞け」と。

 24また彼らにいわれた、「あなた方が聞くことに心せよ。自らはかる量りであなた方ははかられ、つけ加えられる。25持つものは与えられ、持たぬものは持っているものをも取られよう」と。

   種の譬え

 26またいわれた、「神の国はこのようである。ある人が地に種をまく。27夜昼寝起きするうち、種は芽生えて育つが、その人はわけを知らない。28地はひとりでに実を結ぶ。まず茎、次に穂、次に穂の中に熟した粒。29実りとなると、すぐ鎌を入れる。取入れ時が来たのである」と。

   からし種の譬え

 30またいわれた、「神の国をどうたとえようか。どんな譬えで示そうか。31それはからし種のようである。地にまかれるときはすべての種のうちでもっとも小さいが、32まかれると、のびてすべての野菜のうちでもっとも大きくなり、大きな枝を出して、その葉陰(はかげ)に空の鳥が巣を作れるほどになる」と。33人々の聞く力に応じて、イエスはこのような数多くの譬えでみことばを語られた。34譬えなしでは語られなかったが、おのが弟子たちには、人のいないときすべてを説き明かされた。

   嵐の制止

 35その日、夕方になると、弟子たちにいわれた、「向こう岸へ行こう」と。36彼らは群衆に別れて、舟にお乗りのままのイエスのお伴をした。ほかに何隻かの舟も同行した。37するとはげしい嵐がおこって、波が舟に打ち込み、はや舟いっぱいになるほどであった。38しかし彼自身は艫(とも)で枕をしてお眠りであった。弟子たちはお起こししていった、「先生、おぼれます。よろしいのですか」と。39お起きになって風をいましめて湖にいわれる、「黙れ、静かにせよ」と。すると風はやんで大凪(おおなぎ)になった。40彼らにいわれた、「なぜそんなに意気地なしか。信仰がないのはどうしたことか」と。41彼らは大いにおそれた。そして互いにいった、「この方はいったいどなただろう、風も湖も従うとは」と。

   悪霊と豚

5章 1やがて彼らは湖の向こう岸のゲラサ人の地に着いた。2イエスが舟からお降りになると、すぐ、けがれた霊につかれた人が墓から出て来て彼を迎えた。3この人は墓を住処(すみか)とし、もはやだれも彼を鎖でつなぐことはできなかった。4たびたび足かせや鎖でつないだが、鎖はちぎられ、足かせはこわされて、だれも彼を縛りえなかった。5そして夜昼いつも墓や山で叫んだり、石で自分を打ったりしていた。6ところで、遠くからイエスを見ると、駆けて来てひれ伏し、7大声で叫んでいう、「何のご用ですか、いと高き神の子イエスさま。お願いですからわたしを苦しめないでください」と。8これはイエスが「けがれた霊、この人から出よ」といわれたからである。9そして彼に問われた、「何という名か」と。彼はいう、「軍団(レギオン)と申します。大勢ですから」と。10そして、この地から追い出さないように、しきりにお願いした。
 11そこの山の中腹で豚の大群が草を食(は)んでいた。12それで霊どもは彼に願った。「われらを豚につかわしてその中に入らせてください」と。13おゆるしになると、けがれた霊は豚に入った。群れは二千匹ほどであったが、崖を下って湖になだれ込み、湖でおぼれた。14豚飼いらはのがれて町にも里にも知らせたので、人々が何がおこったかと見に来た。15人々はイエスのところに来て、軍団につかれていた人が着物を着て正気になってすわっているのを見ると、おそれおののいた。16目撃者は悪霊つきにおこったことや豚のことを彼らに物語った。17そこで彼らはイエスに自分たちの地方を出られるよう願った。18イエスが舟に乗られると、悪霊につかれていたものがお伴を願い出た。19しかしゆるさずにいわれた、「家に帰って身うちのものに主があなたをあわれんでなさったことのすべてを告げよ」と。20そこで彼は去って、イエスが彼になさったことすべてをデカポリスに伝えはじめた。皆がおどろいた。

   ヤイロの娘と長血の女

 21イエスが舟でふたたび向こう岸に渡られると、大勢の群衆が彼のところに集まって来た。彼は湖畔におられた。22そこへヤイロという名の一会堂司(つかさ)が来て、彼を見るとお足もとにひれ伏し、23ことばを重ねて願う、「わたしの小さな娘が死にそうです。いらしてお手をのせてください、救われて、いのち拾いしますように」と。24そこで同行された。大勢の群衆が従って行って彼に押しよせた。
 25十二年長血をわずらう女がいた。26多くの医者になやまされ、全財産を使いはたしたが、何にも役立たず、むしろ悪くなる一方であった。27イエスのことを聞いて群衆の中にまじって来て、うしろからお着物にさわった。28お着物にでもさわれば救われよう」と思ったからである。29するとすぐ血のもとが乾いて、病がなおったことを身で感じた。30イエスは自分の中から力が出て行ったのをすぐ感じて、群衆の中で振り返っていわれた、「だれがわたしの着物にさわったのか」と。31弟子たちがいった、「ごらんのとおり群衆があなたに押しよせているのに、『だれがわたしにさわったか』とおっしゃるのですか」と。32イエスはこのことをした女を見ようとあたりを見まわしておられた。33女は自分におこったことを知っておそれおののき、イエスのところに来てひれ伏し、真相をすべてお話しした。34彼はいわれた、「娘よ、あなたの信仰があなたを救った。安らかにお出かけなさい。病気しないで、いつも健やかで」と。
 35彼がまだお話しの最中に会堂司の家から人々が来ていった、「お嬢さまがなくなりました。どうしてなお先生をおわずらわしですか」と。36イエスはそういうのを聞いて会堂司にいわれる、「心配なく。ただ信ぜよ」と。37そして彼はペテロとヤコブの兄弟ヨハネのほかだれのお伴もゆるされなかった。38彼らは会堂司の家へ来た。人々がひどく泣き叫んでいる騒ぎをごらんになると、39中へ入っていわれる、「何を騒いで泣くのか。子は死んではいない。眠っているのだ」と。40しかし人々はイエスをあざ笑った。そこで彼は皆を外に出し、子の父と母とご自分のお伴といっしょに子のいるところにお入りになった。41そして子の手を取っていわれる、「タリタ、クミ」と。訳すと、「少女よ、あなたにいう、起きよ」である。42ただちに少女は立って歩きまわった、十二歳であったから。それを見るなり、人々はおどろきのあまりわれを忘れた。43彼はこのことをだれにも知らせぬよう彼らをきびしくいましめ、少女に食べ物を与えよといわれた。

   故郷のつまずき

6章 1彼はそこを去って、おのが郷(さと)へ行かれた。弟子たちがお伴した。2安息日になると会堂で教えはじめられた。多くの人々がそれを聞いておどろいていった、「この人はどこでこれを得たのだろう。この人に与えられた知恵は何だろう。その手でなされたこれらの奇跡はどうしてだろう。3この人は建築家で、マリヤの子でヤコブとヨセとユダとシモンの兄弟ではないか。姉妹たちはここでわれらのところにいるではないか」と。そして彼らはイエスにつまずいた。4そこで彼らにいわれた、「預言者はおのが郷と親戚と家以外でははずかしめられない」と。5そこでは何の奇跡も行なえず、ただわずかの病人に手を置いていやされただけであった。6彼は人々の不信におどろかれた。

   弟子の派遣

 それからまわりの村々をめぐってお教えになった。7十二人を呼んでふたりずつつかわすことをはじめられた。彼らにけがれた霊を押える権威を与え、8旅には杖一本のほか何も持たず、パンも袋も帯の中に金も持たず、9草鞋(わらじ)をはいて、肌着は二枚着ないよう指図された。10そしていわれた、「どこでもある家に入ったら、その地を去るまでその家にとどまりなさい。11しかし、ある地で、あなた方を迎えもせず、耳傾けもしなければ、そこを去るとき足の裏のちりを払いなさい、彼らへの証のために」と。12十二人は出かけて人々に悔い改めを説いた。13そして多くの悪霊を追い出し、多くの病人に油をぬっていやした。

   洗礼者の死

 14ヘロデ王がそれを聞いた。イエスの名がひろがったのである。人々はいった、「洗礼者ヨハネが死人の中から復活した。それゆえ彼の中に力がはたらいている」と。15ある人々は「エリヤ」といい、ある人々は「預言者のひとり」といった。16ヘロデはそれを聞いていった、「わたしが首をはねたあのヨハネが復活した」と。
 17このヘロデは使いにヨハネを捕えさせて牢に縛った。それは、彼の兄弟ピリポの妻ヘロデヤをめとったことからである。18すなわち、ヨハネがヘロデに、「あなたの兄弟の妻をめとるのはよくない」といったのである。19ヘロデヤは彼をうらんで、殺したく思っていたが、それはできなかった。20ヘロデがヨハネを正しく聖(きよ)い人と知り、彼をおそれ、また保護していたのである。ヘロデは彼に話を聞くと大いに戸惑ったが、なおかつよろこんで聞いでいた。21しかし、(ヘロデヤに)よい機会が来た。ヘロデが自分の誕生祝いに自分の高官や千卒長やガリラヤの名士たちを宴会に招いたとき、22ヘロデヤの娘が座に加わって舞をまい、ヘロデとお客たちをよろこばせた。王は娘にいった、「ほしいものがあればいいなさい、あげるから」と。23そして彼女に誓った、「ほしければわたしの国の半分までもあげよう」と。24そこで彼女は出て行って母にいった、「何をお願いしましょうか」と。母はいった、「洗礼者ヨハネの首を」と。25娘は入るが早いか王のもとに急ぎ、願った、「すぐわたしに下さいまし、洗礼者ヨハネの首を盆にのせて」と。26王は深く悲しんだが、誓いのためと客の手前とで断わりたくなかった。27そこですぐ王は衛兵をつかわして首を持って来るよう命じた。衛兵は行って牢の中で首をはねた。28そして首を盆にのせて持って来て娘に与え、娘はそれを母に与えた。29ヨハネの弟子たちはそれを聞くと、来てなきがらを引き取って墓に納めた。

   十二人の帰還と五千人のパン

 30さて使徒たちはイエスのところに集まって、したこと教えたことのすべてを報告した。31そこで彼らにいわれる、「さあ、あなた方だけで人里離れたところへ行って、しばらくお休みなさい」と。人の出入りが多くて彼らは食事の暇さえなかったのである。32彼らだけで人里離れたところへ舟で行った。33多くの人々が彼らの立ち去るのを見てそれと悟り、すべての町々からそこへ陸(おか)を走って来て、彼らよりも先に着いた。34彼は舟からあがって大勢の群衆を見、彼らが牧者のない羊のようなのをあわれんで、多くのことを教えはじめられた。35はや時もおそくなったので、弟子たちはおそばへ来ていった、「ここは人里離れたところで、はや時もおそくなりました。36彼らを解散させてください、まわりの里や村へ行って自分で何か食べ物を買うように」と。37彼は答えられた、「あなた方が彼らに食べ物を与えなさい」と。彼らはいった、「われらが出かけて二百デナリのパンを買って食べさせましょうか」と。38彼はいわれる、「いまパンがいくつあるか。見て来なさい」と。確かめて来ていう、「五つです。それに魚が二匹です」と。39そこで皆を組ごとに青草の上にすわらせるよう弟子たちに命じられた。40彼らは百人、五十人と列をなしてすわった。41彼はそのパン五つと魚二匹をとり、天を仰ぎ、感謝してパンを裂き、人々に配るよう弟子たちに与えられた。魚二匹も皆に分けられた。42皆は食べて満ち足りた。43くずを拾うと魚の残りも含めて籠十二にいっぱいであった。44パンを食べたものは男五千人であった。

   湖上のイエス

 45それからすぐ彼は弟子たちを強いて舟に乗らせ、向こう岸のベツサイダへ先に行かせて、自分で群衆を解散させておられた。46群衆に別れると、山へ行って祈られた。47夕方になると、舟は湖の真ん中であったが、彼はひとり陸におられた。48向かい風なので弟子たちが漕ぎなやむのを見て、午前三時ごろ、湖の上を歩いて彼らのところに来て、通りすぎようとされた。49弟子たちは彼が湖の上を歩かれるのを見て、幽霊と思って叫んだ。50皆が彼を見ておどろいたのである。しかし彼はすぐ彼らに話しかけて、「安心なさい、わたしです。こわがることはない」といわれた。51そして彼らのいる舟に乗られると、風はやんだ。彼らはすっかりおどろきいった。52彼らはパンのことをも悟らず、その心が頑であった。
 53渡り終えてゲネサレの地に着き、舟をつないだ。54彼らが舟からあがると、人々はすぐ彼と知って、55そのあたり至るところを駆けまわり、彼がおられると聞くところに病人を担架で運びはじめた。56そして村でも町でも里でも、彼の行かれるところはどこでも、病人を広場に置いて、お着物の裾にでもさわれるようお願いした。さわったものは皆なおった。

   洗わぬ手

7章 1パリサイ人と学者の数人がエルサレムから来て、彼のところに集まった。2そして彼の弟子たちにけがれた、すなわち洗わぬ手でパンを食べるものがあるのを見かけた。3パリサイ人はじめすべてのユダヤ人は先祖のいい伝えを守って手をよく洗わずには食事せず、4市場から帰って身を清めずには食事しない。そのほか杯や鉢や銅の器の洗いなど、守っているしきたりが多い。5それでパリサイ人と学者は彼に問うた、「なぜあなたの弟子は先祖の伝統に従って歩まずにけがれた手でパンを食べますか」と。6彼はいわれた、「イザヤがあなた方偽善者のことを預言したのは当たっている。いわく、『この民は口先でわたしを敬うが、その心はわたしから遠く離れている。7彼らのわたしへの礼拝はむなしい、人の定めを教えとしているから』と。8あなた方は神の掟を捨てて人のいい伝えを守っている」と。9またいわれた、「よくもあなた方は神の掟をさし置いて自分らのいい伝えを守ろうとしている。10モーセは『父母を敬え』といい、『父または母をののしるものは死に処せられる』ともいった。11しかるにあなた方はいう、『ある人が父または母に向かって、差しあげるはずのものはコルバン、すなわち供え物ですといえば、12その人にはもはや父または母に何ひとつさせない』と。13あなた方が引きついだ自分のいい伝えで神のことばを無にしている。なおこれに類したことをたくさんしている」と。
 14また彼は群衆を近くに呼んでいわれた、「皆わたしに耳傾けて理解せよ。15人の外から中へ入って人をけがせるものはない。人から出るものが人をけがす」と。16〔「聞く耳あるものは聞け」〕。17群衆に別れて家へ帰られたとき、弟子たちは譬えについておたずねした。18するといわれる、「あなた方までそれほど無理解か。すべて外から人に入るものは人をけがせないことがわからないか。19それは心には入らずに腹に入って、厠に出るから」と。こうして彼はすべての食べ物を清いとされた。20またいわれた、「人から出るものこそ人をけがす。21内から、すなわち人の心から悪心が出る。不身持(ふみもち)、盗み、殺人、22姦淫、貪欲、悪意、奸計(かんけい)、逸楽、妬み、悪口、倣慢(ごうまん)、ふしだら、23これらの悪はみな内から出て人をけがす」と。

   異邦の女

 24そこを立ってツロの地方へ行かれた。ある家に入って、だれにも知られたくないとお考えであったが、隠れておいでになれなかった。25ある女にけがれた霊につかれた娘があって、すぐ彼のことを聞きつけ、来てお足もとにひれ伏した。26この女は異邦人で、スロフェニキアの生まれであったが、娘から悪霊を追い出すようお願いした。27するといわれた、「まず子らを満腹させよ。子らのパンを取って小犬に投げ与えるのはよくない」と。28彼女は答えた、「主よ、それはそれでも、食卓の下の小犬も子どものパンくずを食べます」と。29彼はいわれた、「それほどいえるなら、お帰りなさい。娘さんから悪霊は出た」と。30彼女が家へ帰ると、子は床に寝ていて、悪霊は出ていた。

   開 け

 31それからイエスはツロの地方を去り、シドンを経、デカポリス地方を通ってガリラヤ湖へ行かれた。32人々は耳しいで言語障害の人を連れて来て手をお置きくださるようお願いする。33彼はその人ひとりを群衆から連れ出して、指を両耳に入れ、唾して舌にさわり、34天を仰いで溜息して彼にいわれる、「エパタ」と。開け、の意味である。35すると聞こえるようになり、すぐ舌のもつれがほどけて、普通に話した。36彼は人々にだれにもいうなと命じられた。しかし人々は命じられるとますます言いふらし、37並々ならぬおどろきぶりでいった、「あの方のなさったことは皆いい。耳しいが聞こえ、唖者が話すようになる」と。

   四千人のパン

8章 1そのころ、また大勢の群衆がいて何も食べ物を持たなかったので、彼は弟子たちを呼んでいわれる、2群衆がかわいそうだ。もう三日もわたしのところにいて食べ物を持たない。3空腹のまま家へ帰したら、途中で弱り切ろう。それに、なかには遠くからのものもある」。4弟子たちは答えた、「この荒野でどこからパンを手に入れてこの人々を満腹させえましょう」と。5彼らにたずねられた、「パンがいくつあるか」と。彼らはいった、「七つです」と。6そこで彼は群衆に地にすわるよう命じ、七つのパンを手にし感謝して裂き、群衆に配るように弟子たちに渡された。彼らは配った。7小さい魚も少しあった。それを祝福して、これも配るようにいわれた。8人々は食べて満腹した。余ったくずを拾うと、七籠あった。9それは四千人ほどであった。彼は人々を解散なさった。

   天からの徴

 10それからすぐ弟子たちと舟に乗ってダルマヌタの地方に行かれた。11するとパリサイ人が出て来て、議論をはじめ、天からの徴を求めた。彼を試みたのである。12彼は心に深く溜息をついていわれる、「なぜこの世代は徴を求めるのか。本当にいう、この世代に徴は与えられまい」と。13彼らに別れてまた舟に乗って向こう岸へ立ち去られた。

   パリサイ人のパン種

 14さて彼らはパンを持って来るのを忘れ、舟にはただ一つのパンしかなかった。15そこで彼は命じられた、「心せよ、パリサイ人のパン種とヘロデのパン種に注意せよ」と。16弟子たちはパンのないことを互いに話しあっていた。17それに気づいて彼はいわれる、「なぜパンのないことを話しあうか。まだわからないのか、悟らないのか。あなた方の心は頑になってしまったのか。18目があっても見えず、耳があっても聞こえないのか。覚えていないのか、19パン五つをわたしが五千人に裂いたとき、拾ったくずでいっぱいの籠がいくつあったか」と。彼らはいう、「十二でした」と。20「七つを四千人にのときは、拾ったくずでいっぱいの籠がいくつあったか」。彼らはいう、「七つでした」と。21そこで彼らにいわれる、「まだ悟らないのか」と。

   目しいのいやし

 22彼らはベツサイダに来ると、人々は目しいを連れて来て、さわっていただくようお願いした。23彼は目しいの手を取って村の外に連れ出し、両目に唾し、両手をその上に置いてたずねられた、「何か見えるか」と。24目しいは見あげていった、「人が見えます。木のようで、歩いているのがわかります」と。25そこでふたたび手を両目にあてられると、見えはじめてなおってき、何もかもはっきり見えるようになった。26そこで「村にも入るな」といって家に帰された。

   ペテロの告白、受難予告第一

 27イエスは弟子たちとピリポ・カイサリアの村々へと出で立たれた。道すがら彼は弟子たちにたずねられた、「人々はわたしのことを何といっているか」と。28彼らはいった、「洗礼者ヨハネと申します。エリヤ、あるいは預言者のひとり、というものもいます」と。29彼はたずねられた、「あなた方はわたしのことを何というか」と。ペテロが答えた、「あなたはキリストです」と。30彼は自分のことをだれにもいわぬよう弟子たちをいましめられた。
 31そして彼らに教えはじめられた、「人の子は苦しみを重ね、長老、大祭司、学者らに排斥され、殺されて、三日ののちに復活せねばならない」と。32しかもあからさまにこのことをいわれた。そこでペテロは彼をわきへ引いて制止しはじめた。33イエスは振り返り、弟子たちを見ながら、ペテロをいましめられた、「引きさがれ、悪魔よ。おまえは神のことをでなく人間のことを考えている」と。
 34そして群衆を弟子たちとともに呼びよせていわれた、「わたしについて来ようと思うものはだれでも、自分を捨てておのが十字架を負ってわたしに従え。35おのがいのちを救おうと思うものはそれを失い、わたしと福音のゆえにいのちを失うものはそれを救おう。36全世界をかち得ても、おのがいのちを取られれば何の役に立とう。37おのがいのちの代価に何を与ええようか。38この邪悪な罪の世でわたしとわがことばを恥じるものがあれば、人の子も、父の栄光を受けて聖なるみ使いらとともに来るときに、そのようなものを恥じよう」と。
     
9章 1そしていわれた、「本当にいう、ここに立つもののうち、神の国が権威をもって現われるまで死を味わわぬものがある」と。

   変 容

 2六日ののちイエスはペテロとヤコブとヨハネを連れて高い山へ上られた。彼らだけの内輪であった。すると彼らの目の前でイエスのお姿が変わり、3お着物が真白に輝きはじめ、世のどのさらし屋もできないほど白くなった。4そしてエリヤがモーセとともに彼らに現われてイエスと語りあっていた。5そこでペテロはイエスにいった、「先生、われらがここにいるのをさいわい、幕屋を三つ作りましょう、あなたに一つ、モーセに一つ、エリヤに一つ」と。6何といってよいかペテロは知らなかった。三人はおそれていたのである。7すると雲が出て彼らをおおい、加えて雲から声がした、「これはわがいとし子、彼に耳傾けよ」と。8その途端、あたりを見まわすと、もはやだれも見えず、ただイエスだけが彼らとともにおられた。
 9山をおりながら、人の子が死人の中から復活する時でなければ、彼らが見たことをだれにもいうな、と命じられた。10彼らはこのことばを守ったが、死人の中から復活するとは何であるかを互いに論じあった。11そして彼にたずねた、「なぜ学者はまずエリヤが来ねばならぬというのですか」と。12彼はいわれた、「まずエリヤが来て万物を改める。しかし、人の子について、『苦しみを重ねてはずかしめられる』と聖書にあるのはどうか。13わたしはいう、エリヤも来た。ただ、人々は思うままに彼をあしらった、彼について聖書にあるように」と。

   てんかんのいやし、受難予告第二

 14弟子たちのところへ行かれると、大勢の群衆が彼らをかこみ、学者らが彼らと論じているのを見受けられた。15群衆は皆すぐ彼を見つけ、おどろいて駆けよって来て歓迎した。16そこで彼らにたずねられた、「何を論じあっているのか」と。17群衆のひとりが答えた、「先生、息子をおそばに連れて来ました。唖者の霊につかれています。18霊がとりつくと、どこでも地に倒され、泡をふき、歯ぎしりして硬直します。お弟子たちに霊を追い出すようお願いしましたが、できませんでした」と。19彼は答えられた、「ああ不信の世よ、いつまでわたしはいっしょか。いつまであなた方を辛抱するのか。その子をお連れ」と。20人々は子を彼のところへ連れて来た。霊が彼を見るや否や、子をけいれんさせたので、子は地に倒れ、泡をふいてころげまわった。21彼は子の父にたずねられた、「こうなってからどれほどの時がたったか」と。父は答えた、「幼いころからです。22霊はこの子を片づけようとして、火の中、水の中へ何度も投げ込みました。もしできましたらわれらをあわれんでお助けを」と。23イエスはいわれた、「もしできましたら、か。信じるものには何でもできる」と。24その子の父はすぐ叫んだ、「信じます。不信のわたしにお助けを」と。25イエスは群衆が駆けよるのを見て、けがれた霊をいましめていわれた、「唖者と耳しいの霊よ、わたしが命ずる、この子から出よ、二度と入るな」と。26霊は叫んでひどく麻痺させて出て行った。子は死んだようになったので、多くの人が「死んだ」といった。27しかしイエスがその手を取って起こされると、立ちあがった。28家にお帰りになると、弟子たちがそっとおたずねした、「なぜわれらに霊が追い出せなかったのですか」と。29彼はいわれた、「この類(たぐい)のものは祈りによるほか決して追い出せない」と。
 30彼らはそこを出てガリラヤを通った。しかし彼はそれが人に知れることを望まれなかった。31それは、「人の子は人々の手に渡され、人々は彼を殺し、彼は殺されて三日ののちに復活しよう」と弟子たちに教えておられたからである。32彼らはこのことがわからなかったが、たずねることをおそれていた。

   小さいものたち

 33彼らはカペナウムに来た。家に入って弟子たちにおたずねになった、「道すがら何を論じあったか」と。34彼らは黙っていた。道すがらだれか一番偉いか論じあっていたからである。35彼はすわって十二人を呼んでいわれる、「先頭を切りたいものは、皆のしんがりで皆の僕(しもべ)になれ」と。36そしてひとりの子どもの手を取って一座の真ん中に立たせ、抱いていわれた、37「わが名のゆえにこのような子のひとりを迎えるものはわたしを迎えている。わたしを迎えるものはわたしをでなくて、わたしをおつかわしの方をお迎えしている」と。
 38ヨハネは彼にいった、「先生、われらについて来ないものであなたのみ名によって悪霊どもを追い出すのを見ました。しかしわれらについて来ないのでやめさせようとしました」と。39イエスはいわれた、「やめさせることはない。わが名を用いて奇跡を行ないながら、すぐわたしを悪くはいえまい。40われらにさからわぬものはわれらの味方である。
 41キリストの弟子だからとあなた方に一杯の水を飲ませるものは、本当にいう、決して報いにもれまい。42しかしこれら信ずる小さいもののひとりをつまずかせるものは、大きな臼を首にかけられて海に投げ込まれたほうがその人にとってましである。43もし手があなたをつまずかせるなら、切り捨てよ。両手があって地獄の消えぬ火に入るより、片手でいのちに入るほうがよい45もし足があなたをつまずかせるなら、切り捨てよ。両足があって地獄に投げ込まれるより、片足でいのちに入るほうがよい。47もし目があなたをつまずかせるなら、えぐり出せ。両目があって地獄に投げ込まれるより、片目で神の国に入るほうがよい。48地獄では、蛆(うじ)は絶えず、火は消えない。49人はみな火で塩づけにされよう。50塩はよいもの。しかし塩に塩気がなくなれば、何で味をつけよう。あなた方のうちに塩を持て、そして互いに平和であれ」と。

   離婚問答

10章 1そこを立ってユダヤの地方とヨルダンの向こう岸に行かれると、群衆がまたおそばに集まって来たので、またいつものようにお教えになった。2するとパリサイ人が近よって、夫は妻を離縁してよいかとたずねた。彼を試みたのである。3彼は答えられた、「モーセはあなた方に何と命じたか」と。4彼らはいった、「モーセは離縁状を書いて離縁することをゆるしました」と。5イエスはいわれた、「モーセはあなた方が頑なためにこのような掟を書いた。6しかし創造のはじめから神は人を男と女とに造られ、7それゆえに人は父と母とを離れて、8ふたりがひとつ体となる。したがってもはやふたりでなくひとつ体である。9神がひとつ軛(くびき)に結ばれたものを人が離すべきでない」と。10家でまた弟子たちがこのことについておたずねした。11彼らにいわれる、「妻を離縁してほかの女をめとるものは妻に対して姦淫する。12妻が夫を離縁してほかの男と結ばれても姦淫する」と。

   子どもの祝福

 13人々がおそばに子どもらを連れて来た。さわっていただくためである。しかし弟子たちは彼らをとがめた。14イエスはそれを見ていきどおっていわれた、「子どもらをよこしなさい。邪魔をしないで。神の国はこんな人たちのものである。15本当にいう、神の国を子どものように受け入れねば決してそこに入れまい」と。16そして子どもらを抱き、手を置いて祝福された。

   金持について

 17彼が旅に出ようとされると、ひとりの人が駆けて来てひざまずいてたずねた、「よい先生、永遠(とこしえ)のいのちを継ぐには何をすべきですか」と。18イエスはいわれた、「なぜわたしのことを『よい』というのか。神おひとりのほかによい方はない。19あなたは掟を知っているはず。いわく、『殺すな、姦淫するな、盗むな、偽証するな、奪い取るな、父と母とを敬え』と」。20その人はいった、「先生、それなら皆若い時から守っています」と。21イエスは彼をじっと見て愛着を感じていわれた、「ひとつあなたに欠けている。行って持ちものを皆売って貧しい人々に与えよ。そうすれば天に宝を得よう。それから来てわたしに従いなさい」と。22彼はこのことばに顔を曇らせ、悲しんで立ち去った。大金持であったからである。
 23イエスはあたりを見て弟子たちにいわれる、「金持が神の国に入るのはなんとむずかしかろうことか」と。24弟子たちはこのことばにおどろいた。イエスはふたたびいわれる、「子どもらよ、神の国に入るのはなんとむずかしいことか。25らくだが針の穴を通るほうが、金持が神の国に入るよりはやさしい」と。26彼らはますますおどろいて互いにいった、「それならだれが救われえよう」と。27イエスは彼らを見つめていわれる、「人にはできないが、神はおできになる。神は全能にいますから」と。
 28ペテロが彼にいいだした、「ごらんのとおりわれらはすべてを捨ててあなたに従っています」と。29イエスはいわれた、「本当にいう、わたしのため、福音のために、家、兄弟、姉妹、母、父、子、畑を捨てたものはだれでも、30今この世では、迫害とともにではあるが、百倍の家、兄弟、姉妹、母、子、畑を受け、来世では、永遠のいのちを受ける。31しかし最初のものが最後になり、最後のものが最初になることが多い」と。

   受難予告第三

 32彼らはエルサレムへと上る道すがらであった。先頭に立たれたのはイエスで、彼らはおじけ、従うものはおそれていた。彼はまた十二人を呼んで、ご自身におころうとすることを話しはじめられた、33「いよいよ、われらはエルサレムへ上る。人の子は大祭司や学者に引き渡され、彼らは死に定めて異邦人に引き渡し、34異邦人はあざけり、唾し、鞭打って殺そう。そして彼は三日ののちに復活しよう」と。

   ゼベダイの子ら

 35ゼベダイの子らヤコブとヨハネがおそばに来ていった、「先生、お願いです。われらが望むものをかなえてください」と。36彼はいわれた、「望みはなにか」と。37彼らはいった、「あなたの栄光の中に、われらのひとりを右に、ひとりを左にすわらせてください」と。38イエスはいわれた、「あなた方は求めるものをわきまえない。わたしが飲む杯を飲み、わたしが受ける洗礼を受けることができるか」と。39彼らはいった、「できます」と。イエスはいわれた、「あなた方はわが飲む杯を飲み、わが受ける洗礼を受けよう。40しかしわが右と左の座はわたしが与えるものではなく、(神に)定められた人々のものである。41ほかの十人がこれを耳にして、ヤコブとヨハネのことを怒りはじめた。42そこでイエスは彼らを呼んでいわれる、「あなた方が知るように、この世では民の頭と思われる人々が支配し、偉い人々が権力をふるう。43しかしあなた方の間ではそれは当たらない。あなた方の間では、偉くなりたいものは召使いになれ。44一番上になりたいものは皆の僕になれ。45人の子が来たのは仕えられるためでなく、仕えるため、多くの人のあがないとしておのがいのちを与えるためである」と。

   エリコの目しい

 46彼らはエリコに来る。彼と弟子たちとかなりの群衆がエリコを出ると、目しいの物乞いテマイの子バルテマイが道ばたにすわっていた。47彼はナザレのイエスだと聞くと叫びだしていった、「ダビデのみ子、イエスさま、おあわれみを」と。48多くの人がたしなめて黙らせようとしたが、ますます「ダビデのみ子、おあわれみを」と叫びつづけた。49イエスは立ちどまっていわれた、「あれを呼べ」と。人々か目しいを呼んでいう、「安心せよ。起きよ。お呼びだ」と。50目しいは上着を脱ぎ捨て、躍りあがってイエスのおそばに来た。51イエスは彼にいわれた、「何をしてもらいたいのか」と。目しいはいった、「先生、目が見えますように」と。52イエスはいわれた、「お帰り。あなたの信仰があなたを救った」と。彼はすぐ目が見えるようになって、道中お伴をした。
     
11章 1彼らがエルサレムに近づいて、オリブ山のベテパゲとベタニアに来ると、彼は弟子をふたりつかわされる。そのときいわれるには、2「あの向かいの村へ行きなさい。村に入るとすぐ、まだだれも乗らない子ろばがつないであるのが見えよう。それを解いて連れて来なさい。3もし、『なぜそうするのか』という人があれば、『主のご用です、すぐまたここにお返しになります』といいなさい」と。4ふたりが行くと、外の通りに、戸につながれた子ろばがあったので、それを解いた。5そこに立っていた人たちがいった、「子ろばを解いて何をするのか」と。6ふたりがイエスがいわれたとおりに答えると、そのままにしてくれた。7ふたりが子ろばをイエスのところに連れて来て、自分らの着物を上にかけると、イエスはそれに乗られた。8多くの人が自分らの着物を道に敷いた。あるものは野原から切ってきた小枝を敷いた。9そして先に行くものも、うしろにつくものも叫んだ、「ホサナ。祝福あれ、主のみ名によっておいでの方10祝福あれ、来たるべきわれらの父ダビデの国。いと高き所にホサナ」と。
 11彼はエルサレムに来て宮に入った。イエスはすべてを見まわってから、はや時もおそくなったので、十二人とベタニアへと出て行かれた。

  いちじくの木、宮清め

 12あくる日、彼らがベタニアから出てくると、イエスは空腹であった。13葉のあるいちじくの木を遠くから見て、何かあろうとそこに行かれた。しかしそこへ行かれると、葉のほかに何もなかった。いちじくの季節でなかったのである。14そこで木にいわれた、「これから永遠にだれもおまえの実を食べないように」と。弟子たちはそれを聞いていた。
 15彼らはエルサレムに来た。彼は宮に入り、宮で物を売るものや買うものを追い出しはじめ、両替屋の台や、鳩を売るものの椅子を倒された。16そして器を持って宮を通り抜けるのをおゆるしにならなかった。17そして彼らを教えていわれた、「『わが家はすべての国の人の祈りの家と呼ばれるべきである』と書いてあるではないか。しかるにあなた方はそれを強盗の巣にしてしまった」と。18大祭司と学者はそれを聞いて、どうして彼を殺そうかと考えていた。群衆が皆その教えに魅せられていたので、彼をおそれたのである。19夕方になると、イエスらは町を出て行った。
 20翌朝早く、彼らは通りがかりにいちじくの木が根元から枯れているのを見た。21ペテロは思い出して彼にいう、「先生、ごらんください、お呪いになったいちじくの木が枯れています」と。22イエスは答えられた、「神を信ぜよ。23本当にいう、だれでも、この山に向かって、立って海に飛び込め、といって、心に疑わず、いうことが成ると信ずるものは、そのとおりかなえられよう。24それゆえわたしはいう、祈り求めるものは皆得たと信ぜよ、そうすればそのとおりかなえられよう。25立って祈っているとき、だれかにうらみがあればゆるせ。天にいますあなた方の父があなた方の過ちをおゆるしになるためである」と。26〔もしあなた方がゆるさねば、天にいますあなた方の父もおゆるしになるまい〕。

   権威問答

 27彼らはまたエルサレムに来た。彼が宮の中をお歩きのとき、大祭司、学者、長老らがおそばへ来て、28彼にいった、「何の権威であのようなことをするのか。だれがああする権威を与えたのか」と。29イエスはいわれた、「ではひとつたずねよう。それに答えれば、何の権威でわたしがああするかをいおう。30ヨハネの洗礼は天からであったか、人からか。答えよ」と。31彼らは内輪で論じあった、「もし天からといえば、『なぜ彼を信じなかったか』といおうし、32人から、といおうか」と。しかし彼らは群衆をおそれた。皆がヨハネを本当に預言者と思っていたからである。33そこで彼らはイエスに答えた、「知らない」と。イエスはいわれる、「それなら何の権威でああするか、わたしもいわない」と。

   悪い農夫の譬え

12章 1イエスは譬えで彼らに話しだされた、「ある人がぶどう園を作って、垣をめぐらし、搾り場をしつらえ、物見やぐらを建て、ぶどう作りに貸して旅立った。2収穫の時に、ぶどう作りからぶどう畑の実の分け前を受け取るために、ひとりの僕をつかわした。3すると僕をつかまえてなぐり、無一文で帰した。4もうひとりの僕をつかわすと、それをも頭をなぐって侮辱した。5もうひとりをつかわすと、それをも殺した。ほかの大勢の僕をも、あるいはなぐり、あるいは殺した。6まだひとりいた。おのがいとし子であった。『わが子なら敬おう』といってその最後のものをつかわした。7ぶどう作りは互いにいった、『これは相続人だ。さあ、殺そう。そうすれば相続財産はわれらのものだ』と。8そして捕えて殺し、ぶどう園の外に投げ出した。
 9ぶどう園の主人はどうするであろうか。来てぶどう作りを殺し、ぶどう園をほかの人々にまかせよう。10あなた方は聖書にこうあるのを読まなかったか--『家造りが捨てた石、それが隅の土台石になった。11これは主のなさったこと、われらの目には不思議である』と」。12彼らは自分らにあてつけて譬えを話されたことを知って、彼を捕えようとしたが、群衆をおそれた。それで、彼をそのままにして立ち去った。

   納税問答

 13数人のパリサイ人とヘロデ党の人々がことばじりをとらえるよう彼のところにつかわされた。14彼らは来ていう、「先生、あなたは真実で、だれであろうと気がねなさらぬことをわれらは知っています。あなたは人の顔色をうかがわず、真実に神の道をお教えです。皇帝(カイサル)に税を納めてよいですか、よくないですか。納めるべきでしょうか、否(いな)でしょうか」と。15彼らの偽善を見ていわれた、「なぜわたしを試すのか。デナリ銀貨を持って来て見せなさい」と。16彼らが持って来るといわれる、「この像はだれのか、そしてこの銘は」と。彼らはいった、「皇帝のです」と。17イエスはいわれた、「皇帝のものは皇帝に、神のものは神に返せ」と。彼らはイエスにおどろきいった。

   復活問答

 18サドカイ人がおそばに来た。復活はない、という人々である。彼らは問うた、19「先生、モーセはわれらのために書きました、『兄が死んで妻を残して子がない場合、弟がその妻をめとって兄の子孫を生かすように』と。20七人の兄弟があって、長男が妻をめとり、子を残さずに死に、21次男がそれをめとって子を残さずに死に、三男もそうで、22七人とも子を残さず、最後に妻も死にました。23復活に際して、彼らが復活すると、妻はだれのになるでしょうか、七人とも彼女をめとりましたが」と。24イエスはいわれた、「あなた方がそんなまちがいをしているのは聖書も神の力も知らないからではないか。25死人の中から復活するときは、めとりもとつぎもせず、天にあるみ使いのようである。26死人が復活するについては、モーセの書の柴のくだりで、神が彼にいわれたのを読まなかったか、『われはアブラハムの神、イサクの神、ヤコブの神』と。27神は死者の神でなく生者の神である。あなた方のまちがいははなはだしい」と。

   最大の掟

 28学者のひとりが彼らの議論を聞き、イエスの立派なお答えぶりを見て、おそばに来てたずねた、「すべての掟のうちでどれが第一ですか」と。29イエスは答えられた、「第一はこれである。『聞け、イスラエル、われらの神なる主はただひとりの主にいます。30あなたの神なる主を愛するに、心をつくし、魂をつくし、思いをつくし、力をつくせ』。31第二はこれである、『隣びとを自らのように愛せよ』。これらにまさる掟はほかにはない」と。32学者はいった、「ご立派です、先生。『神はただひとりにいまし、彼のほかに神はない』とおっしゃるのは真理です。33『神を愛するに、心をつくし、知性をつくし、力をつくし、憐びとを自らのように愛せよ』とはどの燔祭(はんさい)やいけにえにもまさっています」と。34イエスは思慮深く答えたのを見て、彼にいわれた、「あなたは神の国から遠くない」と。もはやだれもあえて問うものはなかった。

   ダビデの子問答

 35答え終えて宮で教えておられるとき、イエスはいわれた、「学者が『キリストはダビデの子』というのはどういうわけか。36ダビデ自身聖霊によっていった、『主がわが主にいわれた、わが右にすわれ、あなたの敵をあなたの足の下に置くまで』と。37ダビデ自身がキリストを主というのに、それをダビデの子とはどうしてか」と。大勢の群衆がよろこんで彼に耳傾けていた。

   学者批判

 38教えのなかでこういわれた、「学者に心せよ、彼らは長い衣を着て歩くことや、広場であいさつされることや、39会堂での上席や食事での上座を好む。40やもめの家を食いつぶし、長い見せかけの祈りをする。あの人たちは人一倍きびしい裁きを受けよう」と。

   レプタふたつ

 41イエスは賽銭箱の向かいにすわって、群衆が賽銭箱に金を入れる様を見ておられた。大勢の金持がたくさん入れていた。42そこへひとりの貧しいやもめが来て、レプタ銅貨ふたつ、すなわち一コドラント入れた。43彼は弟子たちを呼んでいわれた、「本当にいう、あの貧しいやもめは賽銭箱に入れただれよりも多く入れた。44皆はあり余る中から入れたのに、彼女は乏しい中から持っていたすべて、生活費全部を入れたから」と。

   人の子来臨の徴

13章 1を出て行かれるとき、弟子のひとりが彼にいう、「先生、ごらんください、なんという石、なんという建築でしょう」と。2イエスはいわれた、「これらの大きな建築を見ているのか。石は積まれたままで置かれず、ひとつ残らずくずれ落ちよう」と。
 3オリブ山で宮のほうを向いておすわりのとき、ペテロとヤコブとヨハネとアンデレとが内輪でたずねた、4「それがおこるのはいつですか、すべてが成就しようとするとき、どんな徴がありますか、おっしゃってください」と。5イエスは話しはじめられた、「だれにも迷わされぬよう気をつけよ。6多くの人が現われて、わが名をかたって『われはそれ』といい、多くの人を迷わそう。7戦いのひびきや戦いのうわさを聞くときに、あわてるな。それはおこらねばならぬが、まだ最後ではない。8民は民に、国は国に立ち向かおう。あちこちに地震があり、飢饉があろう。これらは陣痛のはじめである。9あなた方はみずからに気をつけよ。あなた方は裁判所に引き渡され、会堂で打たれよう。わたしゆえに総督や王の前に立たされて彼らへの証とされよう。10まずすべての民に福音が説かれねばならぬ。11あなた方が引き渡されて連れて行かれるとき、何を話そうかと気をもむな。そのときに授かることを話しなさい。話すものはあなた方でなくて聖霊である。12兄弟は兄弟を、父は子を死へと引き渡し、子らは両親にさからって殺そう。13あなた方はわが名のゆえに皆から憎まれよう。最後まで耐え忍ぶものこそ救われよう。

   来臨の様相

 14しかし忌むべき破壊者が立ってはならぬところに立つのを見たら(読者は悟れ)そのときユダヤにいるものは山にのがれよ。15屋根の上にいるものは下におりて家に入って何かを取り出そうとするな。16畑にいるものは上着を取りに引き返すな。17その日気の毒なのは身重の女と乳のみ子を抱く女。18それが冬おこらぬよう祈れ。19それらの日には苦難があろう。それは神が創造されたその創造のはじめから今までなかったほどで、またこれからも決してないほどのものである。20主がその日々を短くされねば、だれも救われまい。しかし、神の選びによって選ばれた人々のために、神はその日々を短くしてくださった。
 21そのとき『見よ、ここにキリストが』『見よ、あそこに』というものがあっても信ずるな。22偽キリストら、偽預言者らが現われて、徴や不思議を行なって、あわよくば選ばれた人々を迷わそうとする。23あなた方は気をつけよ。あなた方にはすべてを予告しておく。
 24その日には、こんな苦難ののち、日は暗く、月は光を放たず、25星は天から落ち、もろもろの天体が揺り動かされよう。26そのとき人々は人の子が多くの力と栄光とをもってに乗って来るのを見よう。27そのとき人の子は天使をつかわして、地の果てから天の果てまで、四方から、選ばれた人々を集めよう。

   その日その時

 28いちじくの木の譬えを学べ。枝がやわらいで葉が出ると、夏か近いと知る。29同様にあなた方も、これらのことがおこるのを見たら、人の子が戸口に近いと知れ。30本当にいう、これらすべてがおこらぬうちはこの世代は決して過ぎ去らない。31天と地は過ぎ去ろうが、わがことばは過ぎ去らない。32その日その時はだれも知らない。天のみ使いたちも子も知らず、父だけが知りたもう。33気をつけよ。目覚めてあれ。あなた方はその時がいつか知らないから。34ちょうど旅に出た人のようである。家を出、僕らに権限を与えてめいめいに仕事をあてがい、門番には目を覚ましておれ、といいつける。35それゆえ目を覚ましておれ。あなた方は家の主人がいつ帰るか、夕方か、夜中か、一番鶏か、夜明けか、を知らないから。36主人が突然帰って来て、あなた方が眠っているのを見ないようにせよ。37わたしがあなた方にいうことは、すべての人々にいうのである。目を覚ましておれ」と。

   陰謀、香油、背き

14章 1過越と種なしパンの祭りまで二日になった。大祭司と学者らはどんな計略で彼を捕えて殺そうかともくろんでいた。2彼らはいった、「祭りの間はやめよう、民の乱があるといけない」と。
 3彼はベタニアでらい者シモンの家におられた。食卓におつきのとき、ひとりの女が混りけのない、ごく高価なナルドの香油を入れた壺を持って来て、壺をこわして香油を彼の頭に注ぎかけた。4何人かが怒って互いにいった、「なんのために香油をむだ使いしたのか。5この香油は三百デナリ以上に売れて貧しい人々に施せたのに」と。そして女をとがめた。6イエスはいわれた、「構わずに。なぜ彼女を困らせるか。わたしによいことをしてくれたのに。7貧しい人々はいつもあなた方といっしょにいるから、すきなときによいことをしてやれる。しかしわたしはいつもいっしょではない。8この女は力の限りをした。あらかじめ葬りにそなえてわが体に油をぬってくれた。9本当にいう、世界じゅう福音が説かれるところ、この女のしたことも記念して語られよう」と。
 10十二人のひとりイスカリオテのユダは、彼を引き渡そうとして大祭司らのところへと出て行った。11彼らは聞いてよろこび、金を与える約束をした。それで、ユダはいかなる機会にイエスを引き渡そうかと考えていた。

   最後の食事

 12種なしパンの祭りの初日、過越の羊がほふられる日、弟子たちは彼にいう、「過越の食事の支度に出かけますが、どこをお望みですか」と。13するとイエスはこういって弟子ふたりをつかわされた、「町へ行きなさい。すると水瓶をかついだ男に出会おう。そのあとについて行きなさい。14どこでもその男が入る家の主人に告げなさい、『先生の仰せです、弟子たちといっしょに過越の食事をする部屋はどこか』と。15すると主人は席を整えて用意した二階座敷へ案内してくれよう。そこでわれらのために支度しなさい」と。16そこで弟子たちは出かけて町へ行くと、彼がいわれたとおりであったので、過越の食事を支度した。
 17夕方になると、彼は十二人を連れて来られる。18彼らが席について食事していると、イエスはいわれた、「本当にいう、あなた方のひとりで、わたしと食を共にするものがわたしを引き渡そう」と。19彼らは悲しくなって、「わたしではありますまい」とひとりひとり彼にいいはじめた。20イエスはいわれた、「十二人のひとり、わたしといっしょに同じ鉢にパンをひたすものだ。21人の子は聖書にあるとおりに去り行く。あわれなのは人の子を引き渡すその人。生まれなければよかったのに」と。
 22彼らが食事しているとき、彼はパンを取り、祝福して裂き、彼らに与えていわれた、「お受けなさい、これはわが体です」と。23杯を取り、感謝して彼らにお与えになると、皆がその杯から飲んだ。24すると彼らにいわれた、「これは多くのもののために流すわが契約の血である。25本当にいう、神の国で新しいのを飲むその日まで、ぶどうの木にできたものをわたしはもう決して飲むまい」と。

   ペテロのつまずきの預言

 26彼らは讃美歌をうたってからオリブ山へ出かけた。27イエスは彼らにいわれる、「あなた方は皆つまずこう。聖書にある、『わたしは羊飼いを打つ。羊は散らされよう』と。28しかしわたしは復活してのちあなた方に先立ってガリラヤへ行こう」と。29ペテロは彼にいった、「皆がつまずいてもわたしは別です」と。30イエスは彼にいわれる、「本当にいう、きょう今夜、にわとりが二度鳴く前にあなたは三度わたしを否もう」と。31ペテロは力をこめていった、「たとえごいっしょに死なねばならずとも、決して否みますまい」と。皆も同じことをいった。

   ゲツセマネ

 32彼らはゲツセマネという名のところに来た。彼は弟子たちにいわれる、「わたしが祈る間ここにすわっていなさい」と。33そして、ペテロとヤコブとヨハネを連れて行かれた。すると、おそれ、おののきはじめられた。34彼らにいわれる、「わたしの心は悲しみをこえて、死ぬほどだ。ここを離れず、目を覚ましていなさい」と。35なお少し進んで地に伏し、できればこのが自分を通りすぎるように祈って36いわれた、「アバ、父上、あなたはなんでもおできです。このをわたしからお取りのけください。しかしわが意でなく、あなたのみ心を」と。37それから来て、彼らが眠っているのを見ると、ペテロにいわれる、「シモン、眠っているのか、ほんの一時間も目を覚ましていられないのか。38目を覚まして祈りなさい、誘惑に陥らないように。心ははやるが、体は弱い」と。39それからまた離れて同じことばで祈り、40また来て見ると、彼らは眠っていた。まぶたが重かったのである。彼らは何とお答えすべきかもわからなかった。41三度目に来て、彼らにいわれる、「まだ眠っているのか、休んでいるのか。よろしい。時は来た。見よ、人の子は罪びとの手に引き渡される。42起きよ、行こう。見よ、わたしを引き渡すものが近づいた」と。

   捕 縛

 43まだ彼が話しておられる最中に、早くも十二人のひとりのユダが現われる。剣や棒を持った群衆がいっしょであった。大祭司、学者、長老からつかわされたのである。44イエスを引き渡すものは、「わたしが口づけするのがその人だ。捕えて、しかるべく引いて行け」と合図しておいた。45来るや否やおそばに近よって、「先生」といって口づけした。46人々は彼に手をかけて捕えた。47そばに立っていたあるひとりが剣を抜いて大祭司の僕に切りつけ、その片耳を落とした。48イエスは人々にいわれた、「強盗に向かうかのように剣や棒を持ってつかまえに来たのか。49わたしは日ごとあなた方のところにいて宮で教えていたのに、捕えなかった。しかしそれは聖書が成就するためである」と。50すると皆が彼を捨てて逃げ去った。51ある若者が素肌に亜麻布を巻きつけてついて来ていた。人々が捕えようとすると、52亜麻布は置いて素肌で逃げ去った。

   最高法院の審問

 53彼らがイエスを大祭司のところへ引いて行くと、大祭司、長老、学者が皆集まって来た。54ペテロは遠くから彼について大祭司の中庭まで入り、下役らといっしょにすわって火にあたっていた。55大祭司らと法院(サンヘドリン)全体がイエスを死刑にするために不利な証言を探したが見当たらなかった。56彼に不利なように多くの人が偽証をしたが、それらの証言は矛盾した。57数人が立って彼に不利な偽証をしていった、58「われらはこの人が、『自分は手で造ったこの宮をこわして、手で造らぬ別の宮を三日で建てよう』というのを聞いた」と。59しかしこの場合も彼らの証言は合わなかった。60そこで大祭司は真ん中に立ってイエスに問うた、「この人たちがそちらに不利な証言をしているのに、何も答えないのか」と。61彼は黙りつづけ、何もお答えにならなかった。ふたたび大祭司が問うた、「そちらは讃むべき方のみ子、キリストか」と。62イエスはいわれた、「わたしはそれである。あなた方は見よう、人の子が大能者の右にすわって天の雲とともに来るのを」と。63大祭司は衣を裂いていう、「もはやなんで証人が要ろう。64あなた方はけがしごとをお聞きである。どう思われるか」と。満場一致で死刑に当たる罪と決めた。65数名が彼に唾し、目隠しして打ち、「だれか当てよ」といった。下役らは彼を平手打ちにして引きとった。

   ペテロの否定

 66ペテロは下の中庭にいたが、大祭司の下女のひとりが来て、67ペテロが火にあたっているのを見かけ、彼にじっと目をすえていう、「あなたもあのナザレ人といっしょでした、あのイエスと」と。68彼は否んでいった、「知らない、わからない、あなたのいうことは」と。そして前庭へ出て行った。69すると下女が彼を見て、そこにいる人々に、またいい出した、「この人はあの一味です」と。70彼はまた否んだ。しばらくして、そばにいる人々がペテロにいった。「本当にあの一味だ。そちらもガリラヤ人だから」と。71彼は呪って誓いはじめた、「あなた方のいうその人をわたしは知らない」と。72するとすぐ、二度目ににわとりが鳴いた。そこでペテロは、「にわとりが二度鳴く前に三度わたしを否もう」とイエスがいわれたことばを思い出した。そして泣きくずれた。

   ピラトの審問

15章 1明け方早く大祭司らは長老と学者と法院全体と会議をし、イエスを縛って引いて行って、ピラトに引き渡した。2ピラトは彼に問うた、「あなたはユダヤ人の王か」と。彼は答えられた、「あなたはそれをいう」と。3大祭司らは多くのことを訴えた。4ピラトはまた彼に問うた、「何も答えないのか。見よ、あれほど訴えているではないか」と。5しかしイエスはもはや何もお答えにならなかった。それはピラトがおどろくほどであった。
 6祭りのたびに総督は民が願い出る囚人ひとりをゆるしていた。7暴動のとき殺人をしてつながれていた暴徒の中にバラバというものがあった。8群衆が上って来て、いつもするように、と願いはじめた。9ピラトは彼らに答えた、「ユダヤ人の王をゆるしてもらいたいのか」と。10彼は大祭司らが妬みからイエスを引き渡したことを知っていたのである。11しかし大祭司らはバラバのほうをゆるしてもらうよう群衆をそそのかした。12ピラトはまた彼らにいった、「あなた方がユダヤ人の王という人をどうしようか」と。13彼らはまた叫んだ、「十字架につけよ」と。14ピラトは彼らにいった、「何の悪をしたのか」と。彼らはますます叫んだ、「十字架につけよ」と。15ピラトは群衆を満足させるためにバラバをゆるしてやり、イエスを鞭打ってから、十字架につけるよう引き渡した。
 16兵士らは官邸すなわち総督公舎の中へ彼を引いて行き、全部隊を集めた。17彼らは紫の衣を彼に着せ、茨の冠を編んでかぶせた。18そして「ユダヤ人の王万歳」と喝采しだした。19そして葦で頭をたたき、唾し、ひざまずいて拝んだ。20こうしてなぶってから、紫の衣を脱がせて、もとの着物を着せた。そして十字架につけるために外へ引き出した。

   十字架

 21アレクサンデルとルポスとの父でシモンというクレネ人が田舎から来て通りかかったので、イエスの十字架を無理に負わせる。22彼らはイエスをゴルゴタというところ(訳すと骸骨の所)へ連れて行く。23彼らは薬を混ぜたぶどう酒を与えたが、お受けにならなかった。24彼らはイエスを十字架につける。そして、彼の着物を分けあい、だれがどれを取るかとくじを引いた。25十字架につけたのは朝の九時であった。26捨札(すてふだ)には「ユダヤ人の王」と書いてあった。
 27そして彼とともにふたりの強盗を、ひとりを右に、ひとりを左に、十字架につけた。28〔かくて、「彼は不法のもののひとりに数えられた」とある聖書は成就した〕。29道行く人々は頭を振りながら彼をけがしていった、「はあ、宮をこわして三日で建てる人、30十字架からおりて自分を救え」と。31同じように、大祭司らも学者といっしょに互いにたわむれあっていった、「あれは人を救ったが自分は救えない。32キリスト、イスラエルの王、今十字架からおりよ。それを見たら信じよう」と。ともに十字架につけられたものどもも彼をののしった。

 33正午になると全地が闇になって三時までつづいた。34三時に、イエスは大声で叫ばれた、「エロイ、エロイ、ラマ、サバクタニ」と。訳すと、「わが神、わが神、なぜわたしをお見捨てですか」である。35そばに立っていた人の何人かがそれを聞いていった、「見よ、エリヤを呼んでいる」と。36ひとりが駆けて来て、すっぱいぶどう酒を海綿に含ませ、葦の先につけて彼に飲ませようとしていった、「待て、エリヤがおろしに来るかどうか見ていよう」と。37イエスは大声を出して息絶えられた。38宮の幕が上から下まで真二つに裂けた。39百卒長が彼と向かいあってそばに立っていたが、このように息絶えられるのを見ていった、「本当にこの方は神の子であった」と。40女たちもいて、遠くから見守っていた。その中にはマグダラのマリヤ、小ヤコブとヨセの母マリヤサロメもいた。41彼女らはイエスがまだガリラヤにおられたとき、お伴をしてお世話していた。このほか彼とともにエルサレムへ上った女たちも多くいた。

   埋 葬

 42はや夕方になった。準備日(そなえび)、すなわち安息日の前日であったので、43令名ある議員で神の国を待ち望んでいたアリマタヤ出のヨセフが来て、おくせずピラトのところに入ってイエスのお体を求めた。44ピラトはもうなくなったかといぶかり、百卒長を呼んで、なくなってから時がたったかどうかたずねた。45百卒長からそうと聞くと、なきがらをヨセフに渡した。46ヨセフは亜麻布を買い、彼をおろして亜麻布で巻き、岩から掘り抜いてあった墓に横たえ、墓の入口に石をころがしておいた。47マグダラのマリヤとヨセの母マリヤは彼が納められた場所を見ていた。

   復活の朝

16章 1安息日が終わると、マグダラのマリヤとヤコブの母マリヤとサロメとが香油を買った。彼にぬりに行くためであった。2そして、週の初めの日の朝、ごく早く、日の出のころ彼女らは墓に行く。3そこで互いにいった、「だれが墓の入口から石をころがしてくれるでしょうか」と。4目をあげると、石がころがしてあるのが見えた。石ははなはだ大きかった。5墓に入ると、白い衣を着た若者が右にすわっているのを見て、おどろきいった。6彼はいう、「おどろくことはない。あなた方は十字架につけられたナザレ人イエスを探しているが、彼は復活なさった。ここにはいらっしゃらない。見よ、お納めした場所はここだ。7さあ、出かけて行って、弟子たち、ことにペテロにいいなさい、『彼はあなた方に先立ってガリラヤへ行かれる。あなた方に彼がいわれているように、そこでお目にかかれよう』と」。8彼女らはふるえてわれを失っていたので墓から出て逃げ去った。だれにも何もいわなかった、おそろしかったのである。

   復活と昇天

 9週の第一日の朝早く彼は復活してまずマグダラのマリヤに現われられた。前に七つの悪霊を追い出していただいた女である。10彼女はお伴していた人々か泣き悲しんでいるところへ行って知らせた。11しかし、彼が今生きておられて、彼女がお見受けしたことを聞いても、彼らは信じなかった。12そののち、彼らのうちのふたりが田舎へ歩いているとき、別の姿でお現われになった。13ふたりも行って残りの人々に知らせたが、この人たちは信じなかった。14そののち、十一人が食事しているときに現われて、彼らの不信と頑さをお責めになった。復活された彼をお見受けした人々を彼らが信じなかったからである。15彼らにいわれた、「行って全世界のすべての人に福音を伝えよ。16信じて洗礼されるものは救われ、信ぜぬものは裁かれよう。17信じたものにはこのような徴が伴おう--わが名によって悪霊を追い出し、新しいことばを話し、18蛇をつかみ、毒を飲んでも害されず、病者に手を置けばいやされよう」と。19主〔イエス〕はこう彼らに語ったのち天に挙げられて神の右におすわりになった20弟子たちは出かけて至るところに福音を説いた。主はともに働き、伴う徴をもって彼らのことばの証拠とされた。

   異本に

〔女たちは命じられたことのすべてをペテロたちに手短に伝えた。そののち、イエスご自身も、永遠の救いの聖なる朽ちない音信(おとずれ)を、彼らを通じて東から西まで送られた。〕