マタイ福音書

   イエスの系図

1章 1アブラハムの子ダビデの子 イエス・キリスト系図2アブラハムはイサクの父、イサクはヤコブの父、ヤコブはユダとその兄弟らの父、3ユダはタマルによるパレスとザラの父、パレスはエスロンの父、エスロンはアラムの父、4アラムはアミナダブの父、アミナダブはナアソンの父、ナアソンはサルモンの父、5サルモンはラハブによるボアズの父、ボアズはルツによるオベデの父、オベデはエッサイの父、6エッサイはダビデ王の父であった。ダビデはウリヤの妻によるソロモンの父、7ソロモンはレハベアムの父、レハベアムはアビヤの父、アビヤはアサの父、8アサはヨサパテの父、ヨサパテはヨラムの父、ヨラムはウジヤの父、9ウジヤはヨタムの父、ヨタムはアハズの父、アハズはヒゼキヤの父、10ヒゼキヤはマナセの父、マナセはアモンの父、アモンはヨシヤの父、11ヨシヤはバビロン追放のころエコニヤとその兄弟らの父となった。12バビロン追放ののち、エコニヤはサラテルの父、サラテルはゾロバベルの父、13ゾロバベルはアビウデの父、アビウデはエリヤキムの父、エリヤキムはアゾルの父、14アゾルはサドクの父、サドクはアキムの父、アキムはエリウデの父、15エリウデはエレアザルの父、エレアザルはマタンの父、マタンはヤコブの父、16ヤコブはマリヤの夫ヨセフの父であり、彼女からキリストといわれるイエスがお生まれになった。
 17すなわち代をあわせるとアブラハムからダビデまで十四代、ダビデからバビロン追放まで十四代、そしてバビロン追放からキリストまで十四代である。

   ヨセフとマリヤ

 18イエス・キリストの生誕はこうであった。母マリヤはヨセフと婚約していたが、彼らがいっしょになる前に、聖霊で身ごもったことがわかった。19夫ヨセフは正しい人で、彼女をさらしものにすることを欲せず、ひそかに彼女と別れたく思った。20彼がこのことを考えているころ、見よ、主の使いが夢の中に彼に現われていった、「ダビデの子ヨセフよ、おそれずなんじの妻マリヤを迎えよ、彼女が宿すものは聖霊によるから。21彼女は男の子を生もう。彼の名をイエスとつけよ、彼こそその民をもろもろの罪から救おうから」と。22これらすべてがおこったのは、預言者によって主がいわれたことの成就されるためであった。いわく、23見よ、おとめが身ごもって男の子を生み、人々は彼の名をインマヌエルと呼ぼう」と。訳せば、「神われらとともに」の意味である。24ヨセフは眠りから覚めて主の使いが彼に命じたようにし、彼の妻を迎えた。25しかし彼女が男の子を生むまでは彼女と相知らなかった。そして彼の名をイエスとつけた。

   東方の賢者たち

2章 1イエスはユダヤのベツレヘムヘロデ王のときお生まれになったが、見よ、東方から賢者たちエルサレムへ来て、いう、2「お生まれになったユダヤ人の王はどこにおられるか。われらは彼の星を東方で見たので、彼を拝みに来ました」と。3それを聞いてヘロデ王はうろたえた。全エルサレムもそうであった。4彼は民の大祭司と学者らすべてを集めてたずねた、「どこにキリストがお生まれになるのか」と。5彼らは答えた、「ユダヤのベツレヘムにです。預言者によってこのように書かれています、6『なんじユダの地のベツレヘムよ、なんじはユダの司(つかさ)たちのうちでいと小さきものでは決してない、なんじからこそ指導者が現われて、わが民イスラエルを牧するであろうから』と」。
 7そこでヘロデはひそかに賢者たちを呼んで星の現われた時を聞きただした。8そして彼らをベツレヘムへつかわそうとしていった、「出かけて幼子(おさなご)をくまなくたずね、見つけ次第わたしに知らせなさい。わたしも訪れて彼を拝みましょう」と。9王のいうことを聞いて彼らは出かけた。すると見よ、彼らが東方で見た星が彼らに先立ち、幼子のいるところの上まで行って止まった。10彼らはその星を見て大よろこびによろこんだ。11そして家に入って幼子が母マリヤとともにあるのを見、伏して彼を拝んだ。そして宝の箱を開いて、こがね、乳香(にゅうこう)没薬(もつやく)を贈り物としてささげた。
 12そしてヘロデのもとに帰るなと夢にお告げを受け、別の道からおのが国へと立ち去った。

   エジプトを経てナザレへ

 13彼らが帰り去ったとき、見よ、主の使いが夢の中でヨセフに現われていう、「起きて幼子と母を伴い、エジプトにのがれよ。そしてなんじに(ふたたび)いうまでそこにとどまれ、ヘロデが幼子を探して殺そうとしているから」と。14彼は起きて、夜のうちに幼子と母を伴ってエジプトへ立ち去った。15そしてそこにヘロデの死までとどまった。それは預言者によって主がいわれたことの成就するためであった、「エジプトからわが子を呼んだ」と。16そこでヘロデは賢者たちにだまされたと知って大いに怒った。そして人をつかわし、賢者たちから聞きただした時にもとづいて、ベツレヘムとその地方全体にいた二歳以下の男の子を皆殺しにさせた。17そこで預言者エレミヤによることばは成就した、18「声がラマに聞こえた、それは大きななげきと叫びであった。ラケルはその子らを思って泣き、慰められようとしなかった、子らはもはやいなかったから」と。
 19ヘロデが死んだとき、見よ、主の使いが夢の中でエジプトのヨセフに現われていう、20「起きて幼子と母を伴い、イスラエルの地に行け、幼子のいのちをうかがうものどもは死んだから」と。21彼は起きて幼子と母を伴い、イスラエルの地に入った。22しかしアケラオが父ヘロデにかわってユダヤを治めると聞いてそこに行くことをおそれ、夢にお告げを受けてガリラヤ地方に立ち去った。23そしてナザレという町に来て居を定めた。それは預言者たちのことば「彼はナザレ人と呼ばれよう」が成就するためであった。

   洗礼者ヨハネの出現

3章 1そのころ洗礼者ヨハネが現われ、ユダヤの荒野で教えを説いていう、2「悔い改めよ、天国が近づいたから」と。3彼こそ預言者イザヤにこういわれた人である、「荒野に呼ぶものの声がする。主の道をそなえ、彼の行く手を直くせよ」と。4彼ヨハネはらくだの毛の衣を着、腰に皮の小袴(こばかま)をし、食べ物はいなごと野蜜(のみつ)であった。5そこでエルサレムと全ユダヤとヨルダン周辺一帯から人が彼のところに出かけて来て、6おのが罪を告白してヨルダン川で彼から洗礼を受けた。7多くのパリサイ人サドカイ人が洗礼のところへ来るのを見てヨハネは彼らにいった、「まむしの子らよ、だれが来たるべき怒りからのがれることを教えたか。8悔い改めにふさわしい実を結べ。9そしてわれらには父なるアブラハムがあると心の中にいおうと思うな。あなた方にいうが、神はこれらの石からアブラハムに子をおこしたもう。10すでに斧は木の根に置かれている。よい実を結ばぬ木はみな切りとられて火に投げ込まれよう。11わたしはあなた方を悔い改めのために水で洗礼する。しかしわが後に来るものはわたしより偉く、わたしはその靴をお脱がせする資格もない。彼はあなた方を聖霊と火で洗礼なさろう。12彼は箕(み)をその手にし、その脱穀場を清め、麦をその倉に納め、籾殻(もみから)を消えぬ火で焼きつくされよう」。

   イエスの受洗

 13そこにイエスがガリラヤから現われてヨルダン川のヨハネのもとに来られた。受洗のためであった。14彼はしきりにとめていう、「わたしこそあなたから受洗すべきですのに、あなたがわたしのもとに来られるのですか」と。15イエスは彼に答えられた、「そういわずに。こうして、すべてのを満たすのはわれらにふさわしいから」と。そこでヨハネはゆずった。16受洗してイエスはただちに水からあがられた。すると見よ、天が開け、神の霊がのように下って彼の上に来るのをごらんになった。17すると見よ、天から声がしていう、「これこそわがいとし子、わがよみするもの」と。

   荒野の試み

4章 1そこでイエスは荒野へと霊に導かれた。悪魔に試みられるためであった。2四十日四十夜断食し、ついに飢えられた。3試みるものが彼に近づいていった、「もし神の子なら、これらの石にパンになれといいなさい」と。4答えていわれた、「聖書にいわく、『パンだけで人は生きるのではなく、神の口から出るすべてのことばによる』と」。5そこで悪魔は彼を聖都へ連れ行き、宮の屋根に立たせて彼にいう、6「もし神の子なら、あなた自身を下に投げなさい。聖書にいわく、『彼はなんじのために天使たちを動かし、彼らは手のうちになんじを支えよう、なんじが足を石に打ちつけないように』と」。7イエスはいわれた、「聖書にまたいわく、『なんじの神である主を試みるな』と」。8また悪魔は彼をいと高き山に連れ行き、世のすべての王国とその繁栄を彼に示していった、9「もし伏してわれを拝むならば、これらすべてをなんじに与えよう」と。10そこでイエスはいわれる、「サタン、消えてうせよ。聖書にいわく、『なんじの神である主を拝み、彼ひとりに仕えよ』と」。11そこで悪魔が彼を去ると、見よ、天使たちが近づいて彼に仕えていた。

   ガリラヤ伝道のはじめ

 12彼はヨハネが捕われたと聞いてガリラヤに退かれた13そしてナザレを去ってカペナウムに居を定められた。そこはゼブルンとナフタリの地方で湖畔であった。14これは預言者イザヤのことばが成就されるためであった。いわく、15「ゼブルンの地、ナフタリの地、海沿いの道、16ヨルダン川のかなた、異邦人のガリラヤ、闇に座す民は偉大な光を見た。死の陰の里に座すものどもに光がのぼった」。
 17そのころから、イエスは教えをひろめはじめていわれた、「悔い改めよ、天国が近づいたから」と。
 18ガリラヤ湖畔を歩まれたとき、ふたりの兄弟、ペテロことシモンとその兄弟アンデレがお目にとまった。彼らが湖に網を打っているときであった。彼らは漁夫であった。19彼らにいわれた、「さあ、ついて来なさい。あなた方を人間の漁夫にしてあげよう」と。20彼らはただちに網を捨てて彼に従った。21そこから進んで行くとほかのふたり兄弟、ゼベダイの子ヤコブとその兄弟ヨハネがお目にとまった。父ゼベダイと舟の中で網を整えているところであった。そこで彼らを招かれた。22彼らはただちに舟と父とを残して彼に従った。
 23そして全ガリラヤをめぐって、彼らの諸会堂で教え、み国の福音をのべ、民のあらゆる病とあらゆるわずらいをいやされた。24そして彼のうわさは全シリアに行きわたった。そして人々は彼のところに病人を皆連れて来た。彼らはいろいろな病や痛みになやまされていた。悪鬼につかれたもの、てんかんのもの、中風のものであって、彼は彼らをいやされた。25そして大勢の群衆がガリラヤ、デカポリス、エルサレム、ユダヤおよびヨルダン川の向こうから彼に従った。

   さいわいな人々

5章 1群衆がお目にとまったので彼は山に上られた。彼がすわられると弟子たちがみもとに来た。2そこで口を開いて彼らを教えられた、いわく、
 3さいわいなのは霊に貧しい人々
  天国は彼らのものだから。
 4さいわいなのは悲しむ人々、
  彼らは慰められようから。
 5さいわいなのはくだかれた人々、
  彼らは地を継ごうから。
 6さいわいなのは義に飢え渇く人々、
  彼らは満ち足らわされようから。
 7さいわいなのはあわれみの人々、
  彼らはあわれまれようから。
 8さいわいなのは心の清い人々、
  彼らは神を見ようから。
 9さいわいなのは平和をつくる人々、
  彼らは神の子と呼ばれようから。
 10さいわいなのは義のゆえに迫害される人々、
  天国は彼らのものであるから。
 11人々がわたしゆえにあなた方をののしり、迫害し、うそをついてあらゆる悪口をいうとき、あなた方はさいわいである。12よろこび、歓呼しなさい、あなた方の褒美が天にたくさんあるから。このように人々はあなた方より前の預言者たちをも迫害したのである。

   地の塩、世の光

 13あなた方は地の塩である。しかし塩がきかなくなったら、何で塩づけしよう。もはや何も役立たず、外に投げ捨てられて人に踏まれるほかはない。14あなた方は世の光である。山の上にある町は隠されえない。15人は明りをつけて枡の下にでなく燭台の上に置く。それは家にあるものすべてを照らす。16このようにあなた方の光が人の前に照るようにせよ、人があなた方のよいわざを見て天にいますあなた方の父をたたえるために。

   律法の完成

 17律法または預言書をこわすためにわたしが来たと思ってはならない。わたしが来たのはこわすためでなく全うするためである。18本当にいう、天と地が過ぎ行くまで、万物が成就するまで一点一画も律法から過ぎ行かない。19これらの掟のいと小さいものひとつでも破り、そのように人を教えるものは、天国でいと小さいものといわれ、それを行ない教えるものは天国で偉大といわれよう。20わたしはいう、あなた方の義が学者とパリサイ人のそれにまさらねば決して天国に入れまい、と。

   殺人と怒り

 21あなた方も聞いたように、昔の人々にいわれている、『殺すな、殺すものは裁きにあおう』と。22しかしわたしはあなた方にいう、すべて兄弟を怒るものは裁きにあおう。兄弟に愚かものというものは最高法院(サンヘドリン)にかけられよう。痴(し)れ者というものは火の地獄(ゲヘナ)に投げ込まれよう。23祭壇に供え物をするとき、そこで兄弟があなたをうらんでいることを思い出したら、24そこで祭壇の前に供え物を置いて、まず去って兄弟と和し、それから供え物をしに来なさい。25あなたの告訴人と早く和解しなさい、彼とともになお道行くうちに。さもないと、告訴人はあなたを裁き人に、裁き人は下役に渡し、あなたは牢に投げ込まれよう。26心からあなたにいう、最後の一コドラントまで払わないかぎり決してそこから出られまい、と。

   不義と離婚

 27あなた方が聞いたように、『姦淫するなかれ』といわれている。28しかしわたしはあなた方にいう、『すべて欲望をもって女を見るものは彼の心のうちですでに彼女を犯したのである』と。29もし右の目があなたを迷わすならば、それを取り出して投げ捨てよ。体の一部を失っても全身がゲヘナに投げ込まれないほうがよい。30また、もし右の手があなたを迷わすならば、それを切り取って投げ捨てよ。体の一部を失っても全身がゲヘナに投げ込まれないほうがよい。31またいわれている、『妻と離婚するものは雑縁状を渡せ』と。32しかしわたしはあなた方にいう、『すべて不身持のこと以外でその妻と離婚するものは彼女に姦淫をさせるし、離婚された女をめとるものは姦淫を犯す』と。

   誓うな

 33また、あなた方が聞いたように、昔の人々にいわれている、『偽り誓うな、あなたの誓いを主に果たせ』と。34しかしわたしはあなた方にいう、いっさい誓うな、天にかけても、神のみ座であるから。35地にかけても、神の足台であるから。エルサレムにかけても、大君(おおぎみ)の都であるから36あなたの頭にかけても誓うな、髪一本白くも黒くもできないから。37あなた方のことばは然(しか)り然り、否(いな)否であれ、これら以上のことは悪から出ている。

   さからうな

 38あなた方が聞いたようにこういわれている、『目には目、歯には歯』と。39しかしわたしはあなた方にいう、悪者にさからうな。あなたの右の頬を打つものには、ほかの頬をも向けよ。40あなたを訴えて下着を取ろうとするものには上着をも取らせよ。41あなたに一ミリオン行くよう強いるものにはともに二ミリオン行け。42求めるものには与え、借りたく思うものを拒むな。

   敵を愛せ

 43あなた方が聞いたようにこういわれている、『隣びとを愛し、敵を憎め』と。44しかしわたしはあなた方にいう、『敵を愛し、迫害者のために祈れ』と。45かくてこそ天にいますあなた方の父の子らになれよう。父は悪人にも善人にも日をのぼらせ、義者にも不義者にも雨を降らせたもう。46自分を愛するものを愛したとて何の褒美を得よう。取税人さえもそれくらいはするではないか。47あなた方の兄弟にだけあいさつしたとて、何の格別のことをしたのか。異教徒さえもそれくらいはするではないか。48それゆえ、あなた方は天にいます父が全くいますように全くあれ。

   施しと祈り

6章 1心せよ、あなた方は義を行なうとき、人々に見られるために彼らの目の前でするな。さもないと、天にいますあなた方の父のもとで報いを得られまい。2施しをするとき、偽善者が人々にほめられるために会堂や道でするように自分の前でラッパを吹くな。本当にいう、彼らはその報いを得ている。3あなたが施しをするとき、右手のすることを左手に知らすな、4あなたの施しが隠れたところにあるように。さらば隠れたところに見たもうあなたの父は報いたまおう。5また、祈るとき、偽善者のごとくであるな。彼らは会堂や町角に立って祈りたがるが、それは人々に見せるためである。本当にいう、彼らはその報いを得ている。6あなたが祈るときは部屋に入って戸を閉じ、隠れたところにいますあなたの父に祈れ。さらば隠れたところに見たもうあなたの父は報いたまおう。7祈るとき異邦人のようにしゃべるな。彼らは多言によって聞かれると思っている。8彼らにならうな。あなた方の父なる神は、求めぬ先に要るものを知りたもうから。

   主の祈り

 9それゆえあなた方は次のように祈りなさい。
  天にいますわれらの父上、
  あなたのみ名が聖められますように。
 10あなたのみ国が来ますように。
  あなたのみ心が行なわれますように、
  天のように地にもまた。
 11われらのその日の糧(かて)をきょうもお与えください。
 12われらの罪をおゆるしください。われらも罪を犯した
   人をゆるしましたから。
 13われらを試みにあわせず、悪者からお守りください。
 14もし人々の罪をゆるすならば、天の父はあなた方をもゆるされよう。15もし人々をゆるさねば、あなた方の父も罪をゆるされまい。

   断 食

 16断食するとき、偽善者のように暗い顔をするな。彼らは顔を見ぐるしくして、断食しているのが人々に目立つようにする。本当にいう、彼らはその報いを得ている。17あなたが断食するときは、頭に油をつけ、顔を洗い、18断食しているのが人々に目立たず、隠れたところにいますあなたの神に見られるようにせよ。そうすれば隠れたところに見たもうあなたの父が報いたまおう。

   宝を天に

 19あなた方のために宝を地につむな。そこではしみや虫が損ない、盗人が入り込んで取る。20あなた方のために宝を天につめ。そこではしみも虫も損なわず、盗人が入り込んで取らない。21あなたの宝のあるそのところにあなたの心もある。22体の光は目である。あなたの目が澄んでいれば全身が明るい。23あなたの目が暗ければ全身が暗い。あなたの内の光が暗ければ、その暗さはどれほどであろう。24だれもふたりの主には仕ええない。ひとりを憎んで他を愛するか、ひとりに頼って他を軽んずるかである。あなた方は神とマモンと両方には仕ええない。

   空の鳥、野の花

 25それゆえあなた方にいう。何を食べようかといのちのことを、何を着ようかと体のことを心配するな。いのちは食べ物に、体は着物にまさるではないか。26空の鳥を見よ。まかず、刈らず、倉にしまわないが、しかも天にいますあなた方の父が養いたもう。あなた方は彼らよりはるかにまさるではないか。27心配によってあなた方のだれが寿命をちょっとでも延ばせるか。28また、着物について何を心配するのか。野の花がどう育つか、つぶさに見よ。苦労せず、紡ぎもしない。29しかしわたしはあなた方にいう、繁栄の極みでのソロモンさえそのひとつほどに着飾れなかった。30きょう盛り、あす炉に投げ込まれる野の草をも神はこれほど装いたもう。ましてあなた方を、ではないか、信仰の小さい人たちよ。31それゆえ、何を食べよう、何を飲もう、何を着ようとかといって心配するな。32これらすべては異邦人も求めている。天にいますあなた方の父はこれらすべてが要(い)ることを知りたもう。33まず彼の国と義を求めよ。そうすればこれらすべてがあなた方につけたされよう。34あすのため心配するな。あすのことはあす自体が心配しよう。一日にとってはその日の苦労で十分である。

   裁くな

7章 1裁くな、裁かれないために。2あなた方がひとを裁くように自らも裁かれ、ひとをはかるように自らもはかられる。3なにゆえ兄弟の目にあるちりが見えて、あなたの目にある梁(はり)に気づかないか。4どうして兄弟に向かって、あなたの目からちりを取ってあげよう、といえるか、相変わらずあなたの目に梁があるのに!5偽善者よ、まず自らの目から梁を取れ。見えたうえで兄弟の目からちりを取るようにせよ。6聖なるものを犬にやるな。真珠を豚の前に投げ与えるな。さもないと、彼らはそれを足で踏みつけ、向き直ってあなた方を噛み裂こう。

   求めよ

 7求めよ、さらば与えられよう。たずねよ、さらば見いだそう。戸をたたけ、8さらば開かれよう。すべて求めるものは受け、たずねるものは見いだし、戸をたたくものには開かれる。9あなた方のうちにおのが子がパンを求めるのに石を与え、10魚を求めるのに蛇を与える人があろうか。11そのように、あなた方が悪人であってもおのが子らによいものを与えることを知るならば、まして天にいますあなた方の父は求めるものによいものを与えられよう。12それゆえすべて自分にしてもらいたいことは、あなた方もそのように人々にせよ。それが律法であり預言書である。

   狭い門、偽預言者

 13狭い門から入れ、滅びに至る道は大きく広く、そこから入る人が多いから。14いのちに至る門は狭く、道は細く、それを見いだす人は少ない。
 15(にせ)預言者に気をつけよ、彼らは羊の衣を着て来るが、内側は強盗の狼である。16彼らのでわかる。茨(いばら)からぶどうが、あざみからいちじくが取れようか。17そのように、よい木は皆よい実を結び、悪い木は悪い実を結ぶ。18よい木に悪い実がなることはできず、悪い木によい実がなることもできない。19よい実を結ばぬ木は皆切られて火に投げ込まれる。20それゆえ、彼らの実でわかる。

   「主よ主よ」というもの

 21天国に入るのは、わたしに『主よ主よ』というだれでもではなく、天にいますわが父のみ心を行なうものである。22多くの人がかの日にわたしにいおう、『主よ主よ、あなたの名でわれらは預言し、あなたの名で悪霊を追い出し、あなたの名で多くの奇跡をしたではありませんか』と。23そのときわたしは彼らに宣言しよう、『わたしはあなた方を知らない。不法をはたらくものはわたしを離れよ』と。

   岩の上か砂の上か

 24だれでもこれらわがことばを聞いてそれを行なうものは、おのが家を岩の上に建てた賢い人にたとえられよう。25雨が降り、川が流れて来、風が吹いてその家に当たっても倒れなかった。岩の上に基礎があったからである。26だれでもこれらわがことばを聞いてそれを行なわないものは、おのが家を砂の上に建てた愚かな人にたとえられよう。27雨が降り、川が流れて来、風が吹いてその家に当たると、倒れた。そしてその倒れ方はひどかった」。
 28そして、イエスがこれらのことばを終えられたとき、群衆は彼の教えにおどろいた。29それは、彼らを教えること権威あるもののごとくであり、彼らの学者らのごとくでなかったからである。

   らい者の清め

8章 1彼が山をおりられると多くの群衆が従った。2するとひとりのらい者が近よって彼に伏していった、「主よ、お心さえ向けばわたくしをお清めになれます」と。3そこでイエスは手をのばして彼にさわっていわれる、「よろしいとも、清くおなり」と。たちまちらい病は清くなった。4イエスはいわれる、「気をつけて、だれにもいわないように。ただ行って体を祭司に見せ、モーセが命じたささげものをしなさい、人々への証(あかし)のために」と。

   百卒長

 5彼がカペナウムに入られると、百卒長が彼のところに来て6願っていう、「主よ、わが子が中風で家に寝ています、ひどく苦しんでいます」と。7いわく、「わたしが行ってなおしてあげよう」と。8百卒長は答える、「主よ、わが屋根の下に来ていただく資格はありません。ただことばでおっしゃってください。すればわが子はいやされましょう。9それはわたくしも権威に服する人間で、わたくしの下に兵卒がいます。これに『行け』といえば行き、かれに『来い』といえば来、僕(しもべ)にこれをせよといえばします」。10聞いてイエスはおどろき、従う人々にいわれた、「本当にいう、こんな信仰はイスラエルのうちでも見たことがない。11わたしはあなた方にいう、多くの人が東と西から来てアブラハムとイサクとヤコブとともに天国の宴につこう。12しかし(いわゆる)み国の子らは外の闇に投げ出されよう。そこではなげきと歯ぎしりがあろう」。13そしてイエスは百卒長にいわれた、「お帰り、あなたが信じたようになるように」と。すると子はちょうどそのときいやされた。

   ペテロの姑

 14そして、イエスはペテロの家へ来られて、その姑(しゅうとめ)が熱病で伏しているのを見られた。15彼がその手にふれられると、熱は去った。そこで彼女は起きて彼に給仕した。16夕になったので彼のところに悪霊つきが大勢連れて来られた。そこで彼は諸霊をことばで追い出し、すべて病むものをいやされた。17これは預言者イザヤによっていわれたことの成就するためであった、いわく、「彼はわれらの弱さを身に受け、われらの病を負うた」と。

   イエスヘの信従

  18イエスは、囲む群衆を見ると、指図して向こう岸へ去ろうとされた。19するとひとりの学者が近づいていった、「先生、どこへでもお供します」と。20そこでイエスは彼にいわれる、「狐には穴があり、空の鳥には巣がある。しかし人の子には枕するところがない」と。21いまひとりの弟子が彼にいった、「主よ、おゆるしください、まずわが父を葬りに行くことを」と。22イエスは彼にいわれる、「わたしに従いなさい。死人に自分たちの死人を葬らせておきなさい」と。

   嵐の制止

 23彼が舟に乗られると、弟子たちが従った。24すると見よ、大嵐が海におこり、舟は波をかぶるに至った。しかし彼は眠っておられた。25そこで彼らは近づいて彼を起こしていう、「主よ、お助けを、おぼれます」と。26するといわれる、「何と臆病な君たちか、信仰の小さい人たちよ」と。そこで立ちあがって風と海とをたしなめられると、大凪(おおなぎ)になった。27人々はおどろいていう、「これはどういう人か、風も海も従うとは」と。

   悪霊と豚

 28彼が向こう岸のガダラ人の国へ来られると、墓から出て来たふたりの悪霊つきが彼を出迎えた。彼らがあまりものすごいのでだれもその道を通れなかった。29すると見よ、彼らは叫んでいう、「何のご用ですか、神の子よ。まだ時でないのにここに来て、われらを苦しめるおつもりですか」と。30彼らから離れたところに多くの豚の群れが飼われていた。31悪霊は彼を呼んでいう、「もしわれらを追い出されるなら、豚の群れへつかわしてください」と。32そこでいわれる、「行け」と。彼らは出て行って豚に入った。すると見よ、群れ全体が崖を下って湖になだれ込み、水の中で死んだ。33豚飼いたちはのがれた。彼らは町へ行って、すべてのこと、ことに悪霊つきに関することを告げた。34すると見よ、町じゅうが出かけてイエスに会いに来、彼を見ると、彼らの地方を去られるよう願った。

   中風のいやし

9章 1そこで彼は舟に乗って湖を渡り、おのが町へ来られた。2すると見よ、床についた中風やみを運んで来た人々がある。イエスは彼らの信仰を見て中風やみにいわれた、「安心なさい、わが子よ、あなたの罪はゆるされます」と。3すると数名の学者が心の中でいった、この人はけがしごとをいう、と。4イエスは彼らの心を見抜いていわれる、「何ゆえ心の中に悪を考えるか。5『あなたの罪はゆるされる』というのと、『起きて歩め』というのと、どちらがやさしいか。6しかし人の子が地上で罪をゆるす権威を持つことをあなた方に知らせよう」と。そこで中風やみにいわれる、「起きてあなたの床をあげて家にお帰り」と。7すると彼は起きて家へと立ち去った。8それを見た群衆は畏敬し、そのような権威を人々に与えたもうた神をたたえた。

   取税人と罪びとの招き

 9イエスはそこを去るとマタイという人が収税所にすわっているのを見受けて、彼にいわれる、「わたしについて来なさい」と。すると立って従った。10イエスがで食卓につかれると、見よ、多くの取税人と罪びとが来てイエスと弟子たちと同席した。11するとパリサイ人が見て弟子たちにいった、「なぜあなた方の先生は取税人や罪びとと食をともにするのか」と。12彼は聞いていわれた、「医者を要するのは健康人ではなくて病人である。13出かけて学びなさい、『わが欲するはあわれみでいけにえではない』とは何か、を。わたしが招きに来たのは義人をではなく罪びとをである」と。

   断食問答

 14そのころ彼のところにヨハネの弟子が来ていう、「なぜわれらとパリサイ人は断食するのに、あなたの弟子は断食しないのか」と。15そこでイエスは彼らにいわれる、「花むこがともにいる間、婚礼の客は悲しめようか。花むこが取られる日が来よう。そのときには彼らは断食しよう。16だれも織りたての布で古い衣につぎをあてない。つぎは衣からやぶけて、裂け目は前よりひどくなる。17新しい酒を古い皮袋に入れる人もない。さもないと皮袋は裂け、酒はこぼれて皮袋は使えなくなる。新しい酒は新しい皮袋に入れるもの。すればともに長持ちする」と。

   司の娘と長血の女

 18こう彼らに話しておられるところへ、見よ、ひとりのが来て、ひれ伏していう、「娘がいま死にました。しかしいらしてお手を置いてくだされば生き返るでしょう」と。19イエスは立ちあがって彼について行かれた。弟子たちもいっしょであった。20すると見よ、十二年長血の女が近よって、うしろからお着物の裾にさわった。21彼女はひそかに思っていた、「お着物の裾にさえさわれば救われよう」と。22イエスは振り向き、彼女を見ていわれた、「安心なさい、娘よ、あなたの信仰があなたを救った」と。すると女はそのときから救われた。23イエスは司の家へ来て笛吹きや騒ぐ群衆を見るといわれた、24「立ち去りなさい。少女は死んだのではなく眠っているのだ」と。彼らはイエスをあざ笑った。25群衆が外へ出されると彼は入って少女の手をお取りになった。すると少女は起きあがった26このうわさがその土地一帯にひろまった。

   目しいと唖者

 27そこを去るイエスにふたりの目しいがついて来て叫んだ、「われらをあわれんでください、ダビデのみ子!」と。28家に入られると目しいたちが近よったのでイエスがいわれる、「わたしにそれができると信ずるか」と。彼らはいう、「はい、主よ」と。29そこで彼らの目にさわっていわれる、「あなた方の信仰どおりになれ」と。30すると目があいた。イエスは彼らをいましめていわれる、「気をつけて、だれにも知らせるな」と。31しかし外へ出ると彼らはイエスのことをその地一帯にいいふらした。
 32彼らが外に出ると、見よ、悪霊つきの唖者が連れて来られた。33悪霊は追われて唖者は話しはじめた。群衆はおどろいていう、「いまだかつてイスラエルにこのようなことは見られなかった」と。34しかしパリサイ人はいった、「彼は悪霊の頭によって悪霊を追い出す」と。

   牧者のない羊

 35そしてイエスはすべての町々村々をめぐり、その会堂で教え、み国の福音を伝え、すべての病とすべてのわずらいをいやされた。36群衆を見てあわれまれたが、それは彼らが牧者のない羊のごとく疲れて見捨てられていたからである。37そこで弟子たちにいわれる、「取入れは多く、働き手は少ない。38取入れの主に彼の取入れのための働き手を送るよう祈りなさい」と。

   十二人の選びと派遣

10章 1そして十二弟子を呼びよせて、けがれた霊を追い出し、すべての病すべてのわずらいをいやす権威を与えられた。2十二弟子の名はこうである。まずペテロことシモンとその兄弟アンデレ、ゼベダイの子ヤコブとその兄弟ヨハネ、3ピリポとバルトロマイ、トマスと取税人マタイ、アルパヨの子ヤコブとタダイ、4熱心党のシモンと彼を裏切ったイスカリオテのユダ。
 5イエスは次の指図をしてこれら十二人をつかわされた。「異邦人の道に出かけるな、サマリア人の町に入るな。6むしろイスラエルの家のうせた羊へ行け。7行って天国は近づいたと告げよ。8病むものをいやし、死人を起こし、らい者を清め、悪鬼を追い出せ。ただで受けたから、ただで与えよ。9懐中に金も銀も銅も用意するな。10道中に旅行袋も、着替えの肌着も、靴も杖も持つな。働き人はなりわいへの資格があるから。11入る町や村でだれかそこでの適当な人をたずね、出発までそこにとどまれ。12家に入るとき、その家の平和を祈れ。13家がふさえばあなた方の平安は必ずその家にのぞみ、ふさわねば平安はあなた方にもどろう。14あなた方を迎えもせず、あなた方のことばを聞きもしないならば、その家や町から出かけるとき足のちりを払い落とせ15本当にいう、裁きの日にはソドムとゴモラの地のほうが、まだしもその町よりは凌ぎやすかろう。

   迫害の予告

 16見よ、わたしがあなた方をつかわすのは羊を狼の中へも同然。それゆえ賢いこと蛇のよう、純なこと鳩のようであれ。17人々に気をつけよ。彼らはあなた方を裁判所に引き渡し、彼らの会堂で鞭打とうから。18そしてわたしゆえに司や王たちへと連行されよう。それは彼らと異邦人への証のためである。19彼らがあなた方を引き渡すとき、いかにまたは何を語ろうと心配するな。語るべきことはそのときに授けられよう。20語るのはあなた方でなく、あなた方のうちに語る父の霊である。21兄弟は兄弟を、父は子を死に渡そう、子は親にそむいて彼らを殺そう。22あなた方はわが名のゆえに皆から憎まれよう。しかし終わりまで耐える人、彼こそ救われよう。23その町で迫害されれば別の町にのがれよ。本当にわたしはいう、あなた方がイスラエルの町々をめぐりつくさぬうちに人の子は来よう24弟子は師にまさらず、僕は主人にまさらない。25弟子は師に、僕は主人にひとしくなれば十分。家長がベルゼブルと呼ばれるなら、家族はなおさらである。

   おそれず言え

 26それゆえ彼らをおそれるな。包まれたもので現われぬはなく、隠れたもので知られぬはない。27わたしが闇の中で話すことを光の中でいえ。耳うちされたことを屋上でのべよ。28体を殺して魂を殺しえぬものをおそれるな。むしろ、ゲヘナで魂も体も殺せるものをおそれよ。29雀は二羽一アサリオンで売られるではないか。しかしその一羽もあなた方の父のゆるしなしには地に落ちない。30あなた方の頭の髪さえもすべて数えられている。31それゆえおそれるな。あなた方は多くの雀よりまさっている。32だれでもわたしを人々の前で認めるものはわたしも天にいます父の前で認めよう。33だれでもわたしを人々の前で否むものはわたしも天にいます父の前で否もう。

   平和と十字架

 34わたしが来たのは地に平和をもたらすためとあなた方は思うな。わたしが来たのは平和をではなく剣をもたらすためである。35わたしが来たのは、人を父から、娘を母から、嫁を姑から離すためである。36人の敵はおのが家人である。37父や母をわたし以上に愛するものはわたしにふさわない。むすこや娘をわたし以上に愛するものは、わたしにふさわない。38おのが十字架を受け取ってわたしに従わないものは、わたしにふさわない。39おのがいのちを得るものはそれを失い、わたしゆえにおのがいのちを失うものはそれを得よう。40あなた方を迎えるものはわたしを迎え、わたしを迎えるものはわたしをつかわされた方を迎える。41預言者を預言者として迎えるものは預言者としての報いを受けよう。義人を義人として迎えるものは義人としての報いを受けよう。42そして、これら小さいもののひとりに弟子として冷たい水一杯を飲ませるものは、本当にいう、決して相応な報いにもれまい」。

   洗礼者とイエス

11章 1イエスは十二弟子に指示し終えられると、そこを去って彼らの町々で教えかつ説かれた。
 2ヨハネは牢でキリストのみわざを聞き、おのが弟子をつかわして彼にいった、3「あなたこそ来たるべきものか、あるいはほかのものをわれらは侍つべきか」と。4答えてイエスはいわれた、「行ってあなた方が見聞きすることをヨハネに告げなさい。5目しいは見、足なえは歩み、らい者は清まり、耳しいは聞こえ、死人はよみがえり、貧者は福音に接する。6さいわいなのはわたしにつまずかぬ人!」と。
 7使いが去ると、イエスは群衆にヨハネについて話しだされた、「何を見にあなた方は荒野に出たのか。風にそよぐ葦か。8そのほか何を見に出かけたのか。柔らかいものを着た人か。見よ、柔らかいものをまとった人なら王宮にいる。9そのほか何のために出かけたのか。預言者を見にか。しかり、わたしはいう、(あなた方が見たのは)預言者以上のものである。10彼について書かれてある、『見よ、わたしは使いをやってあなたに先駆けさせる。彼はあなたの前に道をそなえよう』と。11本当にいう、女から生まれものの中で洗礼者ヨハネ以上のものは現われなかった。しかし天国で最小のものも彼以上である。12洗礼者ヨハネの時から今まで、天国は力ずくで攻め立てられ、力ずくのものがそれをかち得る。13すべての預言者や律法が預言したのはヨハネまでである。14あなた方が受け入れる気なら、彼こそ来たるべきエリヤである。15耳あるものは聞け。16この世代を何にたとえようか。子どもが広場にすわって互いに呼びあうのに似る。17われらが笛を吹いたのにあなた方は踊らず、哀歌をうたったのにあなた方はなげかなかった。18ヨハネが来て食べも飲みもしなかったので、彼は悪霊につかれている、と人々はいい、19人の子が来て食べ飲みすると、大食漢、酒飲み、取税人、罪びとの友と人々はいう。しかし知恵の正しさはそのわざによって示される」。

   悔い改めへの招き

 20そのころのこと、彼の奇跡がもっとも多くなされた町々が悔い改めなかったのを責めはじめられた。21「呪われよ、コラジン、呪われよ、ベツサイダ。もしツロとシドンでおまえらのところでなされた奇跡がなされたなら、彼らはずっと前にぼろを着て灰の中で悔い改めたろう。22加えていうが、ツロとシドンのほうが裁きの日にはおまえらより罰が軽かろう。23おまえカペナウムよ、天にまであげられようか、否、地下にまで下されよう。もしソドムでおまえのところでなされた奇跡がなされたなら、それは今日まで残ったろう。24加えていうが、ソドムの地のほうが、裁きの日にはおまえより罰が軽かろう」。

   神を知るものの軛

 25そのころイエスはいわれた、「感謝します、天と地の主にいます父上、これらのことを知者や賢者に隠して幼子にあらわされましたことを。26しかり、父上、それはあなたのみ心でした――27すべては父上からわたしにゆだねられている。父上のほか子を知るものはなく、子と、子が父上をあらわそうとするもののほか、父上を知るものはない。28すべて疲れたもの、重荷を負うものは、わたしのところに来たれ。休ませてあげよう。29わたしは柔和で高ぶらないから、わが軛(くびき)を取ってわたしに学びなさい。そうすれば心にいこいを得よう。30わが軛はやさしく、わが荷は軽いから」と。

   安息日の穂摘み

12章 1そのころイエスは安息日に麦畑を通り抜けられた。弟子たちはひもじかったので麦穂を摘んで食べはじめた。2それを見てパリサイ人が彼にいった、「あのように、あなたの弟子たちは安息日にしてならぬことをしています」と。3イエスはいわれた、「ダビデとお伴がひもじかったとき何をしたか読まなかったのか。4どうして彼は神の家に入って供えのパンを食べたか、それは祭司だけは別として、ダビデにもお伴にもゆるされぬことであったのに。5律法で読まなかったか、祭司は宮で安息日を犯しても罪に問われないことを。6わたしはいうが、宮以上のものがここにいる7もしあなたが、わが欲するはあわれみでいけにえでない、が何のことか知っていたら、罪のないものを責めなかったろう。8人の子は安息日の主であるから」と。

   手なえのいやし

 9そこから移って彼らの会堂に入られた。10すると見よ、片手のなえた人がいた。彼らは問うた、「安息日にいやしがゆるされますか」と。彼を訴えるための問いであった。11彼はいわれた、「あなた方のだれかが羊を一匹持っていて、それが安息日に穴に落ちれば、それを捕えて引きあげないか。12人が羊にまさることはいかほどか。それゆえ安息日にいいことをして結構」と。13そこでその人にいわれる、「手をお伸ばし」と。彼は伸ばした。それはいま一方の手のようによくなった。14パリサイ人は外へ出て、彼をなきものにする相談をした。

   名声と沈黙命令

 15イエスはそれを知って立ち去られた。彼に従った人々は多く、彼はそのすべてをいやされた。16そして彼のことを公にせぬよういましめられた。17これは預言者イザヤのことばが成就するためであった。いわく、18見よ、わがえらびの僕、わが心よろこぶいとしのもの、わが霊を彼に置こう。彼は諸国民に裁きを告げよう。19彼は争いも叫びもせず、だれも通りで彼の声を聞くまい。20そこなわれた葦を彼は折らず、くすぶる燈心を消しもすまい、裁きを勝利に導くまでは。21諸国民は彼の名に望みをかけよう」と。

   ベルゼブルと聖霊

 22そのとき目しいで唖者の悪霊つきが連れられて来たので、それをなおされると、唖者が口をきき、目が見えた。23群衆は皆おどろいていった、「これはダビデの子ではないか」と。24しかし、パリサイ人はそれを聞いていった、「悪霊の頭ベルゼブルに頼らずにこの人が悪霊を追い出せるはずはない」と。25彼らの考えを見抜いていわれた、「内輪もめする王国はすべて滅び、内輪もめする町や家もすべて立たない。26もし悪魔が悪魔を追い出すなら、内輪もめしているから、どうしてその王国は立ちゆこう。27もしわたしがベルゼブルによって悪霊を追い出すなら、あなた方の子らは何によって追い出すか。それゆえ彼らこそあなた方の裁き人になろう。28もしわたしが神の霊によって悪霊を追い出す(という)なら、神の国はあなた方にのぞんでいる。29強いものの家に入ってその持ちものを奪うにはまず強いものをしばらねばならない。しばってからその家をかすめる。30わたしといっしょでないものはわたしに反対し、わたしとともに集めぬものは散らす。31それゆえいうが、人の罪やけがしはすべてゆるされようが、霊をけがすのはゆるされない。32人の子にさからうことをいってもゆるされようが、聖霊にさからうことをいえばこの世でも来世でもゆるされない。
 33木がよければその実はよく、木が悪ければその実は悪い。木はその実でわかる。34まむしの末よ、悪いくせによいことがいえるか、心があふれて口に出るから。35よい人はよい倉からよいものを出し、悪い人は悪い倉から悪いものを出す。36わたしはいうが、人の話すむなしいことばはすべて裁きの日にその勘定を取られよう。37あなたはみずからのことばで義とされ、みずからのことばで罪とされようから」と。

   ヨナの徴、七人の霊、真の身うち

 38そこで何人かの学者とパリサイ人がいった、「先生、あなたの(しるし)を見せてください」と。39彼は答えられた。「悪と不信の世代は徴を求めるが、預言者ヨナの徴のほか徴はこの世代に与えられまい。40ヨナが三日三夜大魚の腹の中にいたように、人の子も三日三夜地のふところにいよう41ニネベの人々は裁きの時にこの世代とともに立ちあがってそれを罪しよう。ヨナの宣教に人々は悔い改めたが、見よ、ヨナ以上のものがここにいる。42南の女王は裁きの時にこの世代とともに現われてそれを罪しよう。彼女は地の果てからソロモンの知恵を聞きに来たが、見よ、ソロモン以上のものがここにいる。
 43けがれた霊が人から出ると、水のない荒地を通って休み場を求めるが、見つからない。44そこでいう、『出て来たわが家にもどろう』と。もどると空家で、清め整えられていた。45そこで出かけて自分より悪いほかの七つの霊を連れて入り込んでそこに住む。その人ののちの様は前よりも悪くなる。この悪の世代もそのようになろう」と。
 46まだ彼が群衆に話しておられるとき、見よ、彼の母と兄弟が外に立っていて彼に話したがっていた。47だれかがいった、「あなたの母上と兄弟方が外に立っていて話したがっています」と。48イエスはいわれた、「だれがわが母でだれがわが兄弟か」と。49そして弟子たちに手を向けていわれた、「これがわが母、わが兄弟。50天にいますわが父のみ心を行なうものこそわが兄弟、姉妹また母である」と。

   種まきの譬え

13章 1その日イエスは家を出て湖畔にすわっておられた。2そこにあまり多くの群衆が集まったので彼は小舟に乗ってすわられた。群衆は皆岸に立っていた。3彼は多くのことを譬えで語られた、「見よ、種まく人が種まきに出かけた。4まくうちに、あるものは道ばたに落ちて、鳥が来て食べた。5あるものは土の多くない岩地に落ちて、土が深くないのですぐ芽を出したが、6日がのぼると焼けて、根がないので枯れた。7あるものは茨の間に落ちて、茨がのびて押さえつけた。8あるものはよい地に落ちて、あるいは百倍、あるいは六十倍、あるいは三十倍の実がなった。9耳あるものは聞け」と。
 10弟子たちが彼のところへ来ていった、「なぜ譬えで彼らにお話しになりますか」と。11彼は答えられた、「あなた方には天国の奥義を知ることがゆるされているが、彼らにはゆるされていない。12持つものは与えられてあり余り、持たぬものは持っているものも取られよう。13それゆえわたしは彼らに譬えで語る。『見て見えず、聞いて聞こえず、悟らず』である。14イザヤの預言は彼らに成就する、いわく、『あなた方は聞きに聞いても決して悟るまい、見に見ても決してわかるまい。15この民の心はにぶり、耳は遠くなり、目は閉じているから。そうでなければ、彼らは目で見、耳で聞き、心で悟り、立ちかえって、わたしが彼らをいやすであろう』と。
 16しかしあなた方の目は見、耳は聞くからさいわいである。17本当にいう、多くの預言者と義人はあなた方が見ているものを見たく思っても見られず、あなた方が聞いているものを聞きたく思っても聞けなかった。
 18それゆえあなた方は種まきの譬えを聞きえよう。19み国のことばを聞いて悟らないと、悪者が来て心にまかれたものをうばう。これは道ばたにまかれたものである。20岩地にまかれたもの、それはことばを聞いてすぐよろこんでそれを受けるが、21自らの中に根がなくて長つづきせず、ことばゆえに苦しみや迫害がおこると、すぐつまずく。22茨の中にまかれたもの、それはことばを聞いても世のわずらいや富の惑わしがことばを押さえて実らなくなる。23よい地にまかれたもの、それはことばを聞いて悟るもので、たしかに実を結んで、あるいは百倍、あるいは六十倍、あるいは三十倍になる」と。

   毒麦とからし種とパン種

 24もうひとつの譬えを彼らに示していわれた、「天国は自らの畑によい種をまく人に似る。25人々が眠っているうちに敵が来て麦の間に毒麦をまいていった。26苗がのびて実ると、毒麦も現われた。27僕たちが来て家主(いえあるじ)にいった、『ご主人、ご自分の畑にまかれたのはよい種のはずですのに、毒麦はどこから来たのですか』と。28彼はいった、『敵のしわざだ』と。僕たちはいう、『それならわたしたちが行って毒麦を集めましょうか』と。29彼はいう、『いや、毒麦を集めれば麦もいっしょに抜きかねない。30両方とも取入れまで育つにまかせよ、取入れのとき取入れ人にいおう、まず毒麦を集めて、束にして焼け、そして麦をわが倉に集めよ』」と。
 31もうひとつの譬えを彼らに示していわれた、「天国はある人がつまんで自らの畑にまいたからし種に似る。32種という種のうちもっとも小さいが、育つと、野菜のうちでもっとも大きくなり、木になり、空の鳥が来て枝に巣くうほどになる」と。
 33もうひとつの譬えを彼らにいわれた、「天国はパン種に似る。女の人がそれを取って三サトンの粉に入れると、みな醗酵した」と。
 34これらすべてをイエスは譬えで群衆に語られた。譬えなしでは彼らに何も語られなかった。35これは預言者によることばの成就するためである。いわく、「譬えでわが口を開き、世のはじめからの奥義を語ろう」と。36そこで群衆に別れて家に入られた。弟子たちが彼のところに来ていうには、「畑の毒麦の譬えのご説明を」と。
 37答えていわれる、「よい種をまくものは人の子、38畑は世、よい種はみ国の子らである。毒麦は悪の子らで、39それをまいたものは悪魔である。取入れは世の終わりで、取入れ人はみ使いである。40毒麦が集められて火で焼かれる、そのように世の終わりもなろう。41人の子は彼の使いをやって彼の王国からすべてのつまずきと不法者を取り去り42彼らを燃える炉に投げ入れる。そこではなげきと歯ぎしりがあろう。43そのとき義人は彼らの父の国で日のごとく輝こう。耳あるものは聞け。

   宝と真珠と網

 44天国は畑に隠された宝に似る。人がそれを見つけて隠し、よろこんで出かけて全財産を売ってその畑を買う。
 45また、天国はよい真珠を探す商人に似る。46高価な真珠ひとつを見つけ、出かけて全財産を売ってそれを買った。
 47また、天国は海に投げてあらゆる種類の魚をとる網に似る。48網が満ちると岸に引きあげ、人々はすわってよいのは器に入れ、悪いのは外に投げる。49世の終わりにもそのようになろう。み使いがきて義人の中から悪人を分け、50彼らを燃える炉に投げ入れる。そこではなげきと歯ぎしりがあろう。51あなた方はこれらがわかったか」。彼らは「はい」と答える。52彼はいわれた、「それゆえ天国に学ぶ学者はだれでも、自分の倉から新しいものと古いものとを取り出せる家主に似る」と。

   故郷のつまずき

 53イエスはこれらの譬えを話し終えられてそこを去られた。54そして郷に来て会堂で人々を教えられた。彼らはおどろいていった、「この人はこの知恵と力をどこから得たのか。55この人は建築家の子ではないか、母はマリヤで兄弟はヤコブやヨセフやシモンやユダではないか。56姉妹は皆われらのところにいるではないか。これらのことすべてをどこから得たのだろう」と。57そして彼につまずいた。イエスはいわれた、「預言者はおのが郷(くに)や家以外でははずかしめられない」と。58彼らの不信のゆえにそこでは多くの奇跡をなさらなかった。

   洗礼者の死

14章 1そのころ領主ヘロデがイエスのうわさを聞いて2家来にいった、「これは洗礼者ヨハネだ。あれが死人の中から復活したからこそ彼の中に力がはたらいている」と。3それはこうである。ヘロデが兄弟ピリポの妻ヘロデヤのことでヨハネを捕えてしばり、牢に入れた。4それは、ヨハネが彼に、「あの女をめとるのはよくない」といったからである。5ヘロデは彼を殺したく思いつつも彼を預言者とあがめる群衆がこわかった6ヘロデの誕生祝いにヘロデヤの娘が皆の中でおどったのが彼の気に入った。7そこで彼は誓って、望みのものを彼女に与える約束をした。8彼女は母にそそのかされて、「洗礼者ヨハネの首をここで盆にのせてわたしにください」という。9王は悲しんだが、誓いと客との手前それを与えよと命じ、10人をやって牢でヨハネの首をはねさせた。11首は盆にのせて持って来られて少女に渡された。彼女はそれを母に持って行った。12ヨハネの弟子が来て死体を引き取って葬り、イエスのところへ行って告げた。

   五千人のパン

 13これを聞いてイエスはひとりそこを去って舟で人里遠くへ行かれた。群衆はそれを聞いて町々から徒歩で彼に従った。14舟からあがると多くの群衆が見えた。そこで彼らをあわれみ、その中の病人をいやされた。15夕になると弟子たちが彼のところに来ていった、「ここは人里遠く、もう時もおそくなりました。群衆を解散させて、村々に行って自分の食べ物を買わせてください」と。16イエスは彼らにいわれた、「行くに及ばない。あなた方が彼らに食べ物を与えなさい」と。17弟子たちはいう、「ここにはパン五つと魚二匹しかありません」と。18彼はいわれた、「それをわたしのところに持って来なさい」と。19そして群衆に草の上にすわるように命じ、パン五つと魚二匹をとり、天を仰いで感謝し、パンを裂いて弟子たちに与えられた。弟子たちはそれを群衆に与えた。20皆が食べて満ち足りた。余りのくずを拾うと、十二の籠に満ちた。21食べた人は女こどもを別にして五千人ほどであった。

   湖上のイエス

 22それからすぐ弟子たちを強いて舟に乗せ、彼が群衆を解散させる間に向こう岸へ先に行くようにされた。23彼は群衆を解散させてから自分だけ山に上って祈られた。夕方になってもひとりでそこにおられた。24舟はすでに陸から数スタデオも離れていて、向かい風のため波になやまされていた。25夜明けの三時すぎに彼は湖の上を歩いて彼らのところへ来られた。26弟子たちは彼が湖の上を歩かれるのを見ると、おどろいて、幽霊だといい、おののいて叫んだ。27イエスはすぐに語りかけられた、「安心なさい、わたしだ、こわがることはない」と。28ペテロは答えた、「主よ、あなたなら、わたしに命じて水の上を歩いてそこまで行かせてください」と。29彼はいわれた、「来なさい」と。そこでペテロは舟からおりて水の上をイエスのほうへ歩いて行った。30しかし風を見ておそれ、沈みかけたので叫んだ、「主よ、お助けを」と。31ただちにイエスは手をのべて彼をつかんでいわれる、「小信もの、なぜ疑ったか」と。32彼らが舟にあがると、風は凪いだ。33舟の中のものはひれ伏して彼にいった、「本当にあなたは神の子です」と。
 34湖を渡って彼らはゲネサレの地に来た。35彼と知ってそこの人々は周辺の地にくまなく人をつかわしたので、人々は病人を皆彼のところに連れて来た。36そして彼の着物の裾にだけでもさわらせてもらうよう願った。さわったものは皆いやされた。

   洗わぬ手

15章 1そのころパリサイ人や学者がエルサレムからイエスのところへ来ていう、2「なぜあなたの弟子は先祖のいい伝えを破るのですか、パンを食べるとき手を洗わないとは」と。3彼は答えられた、「あなた方にしても、自分のいい伝えだからとて神の掟を破るのはなぜか。4神はいわれた、『父と母を敬え』と。また、『父または母をののしるものは死刑』と。5しかしあなた方はいう、『父または母に、あなたがわたしから当てがわれているものは供え物です、というものは6父または母を敬わなくてもよい』と。かくて、あなた方は自らのいい伝えのゆえに神のことばを無にする。7偽善者よ、イザヤがあなた方について預言したのは当たっている、いわく、8この民は口でわたしを敬うが、心はわたしから遠い。9彼らはわたしを拝んでもむなしい。彼らが教えとするのは人間の掟であるから』」と。
 10群衆を呼んでいわれた、「聞いて悟れ、11口に入るものは人をけがさず、口から出るものこそ人をけがす」と。12そこへ弟子たちが来ていう、「パリサイ人がおことばを聞いてつまずいたのをご存じですか」と。13彼は答えられた、「天のわが父がお植えでない作物は皆抜かれる。14彼らにかまうな。彼らは目しいを案内する目しいである。目しいが目しいを案内すると両方とも穴に落ちよう」と。
 15ペテロがいった、「譬えを説明してください」と。16彼はいわれた、「あなた方さえもまだわからないのか。17すべて口に入るものは、腹に入って厠に落とされることを知らないのか。18口から発するものは心から出るので、それが人をけがす。19悪意、殺人、姦淫、不義、盗み、偽証、けがしごとは心から出る。20これらが人をけがすので、洗わぬ手で食べることは人をけがさない」と。

   異邦の女

 21イエスはそこを去ってツロとシドンの地方に退かれた。22すると見よ、そのあたりの出のカナンの女が来て叫んだ、「あわれんでください、主よ、ダビデのみ子よ、娘が悪霊になやんでいます」と。23しかし彼からはひとこともお答えがなかった。弟子たちが来てお願いした、「この女をどけてください。叫んでつけて来ますから」と。24彼は答えられた、「わたしがつかわされたのはイスラエルの家のうせた羊にだけである」と。25彼女は来てイエスにひれ伏していう、「主よ、お助けを」と。26彼はいわれた、「子のパンを取って犬に投げるのはよくない」と。27彼女はいった、「主よ、ごもっともですが、犬も主人の食卓から落ちるくずを食べます」と。28そこでイエスは答えられた、「女の人、あなたの信仰は大きい。望みがかなえられるように」と。するとそのときから彼女の娘はなおった。

   湖畔のいやしと四千人のパン

 29そこを去ってイエスはガリラヤ湖畔へ来て山に上ってそこにすわられた。30多くの群衆が足なえ、不具の人、目しい、唖者、そのほか多くの病人を連れてイエスのところへ来て、お足もとに置いたのでそれをいやされた。31唖者が語り、不具の人がなおり、足なえが歩き、目しいが見るのを見て群衆はおどろき、イスラエルの神を讃美した。
 32イエスは弟子たちを呼びよせていわれた、「群衆が気の毒だ。わたしのところに三日もいるのに、食べものがない。空腹のままでは帰したくない。途中で力つきるといけないから」。33弟子たちはいう、「こんなに大勢の群衆が満腹するほどのパンを、このさびしいところでどこから手に入れましょう」。34イエスはいわれる、「そこにパンが幾つあるか」。彼らはいった、「七つ、それに小魚が少しです」と。35彼は群衆に地面にすわるよう命じ、36七つのパンと魚を取り、感謝して裂き、弟子たちに与えられると、弟子たちは群衆に与えた。37皆が食べて満腹した。余りのくずを拾うと、七つの籠が満ちた。38食べた人は女こどもは別として四千人であった。39イエスは群衆を解散させて舟に乗り、マガダンの地方へ行かれた。

   天からの徴

16章 1パリサイ人とサドカイ人が来て、イエスを試すために天からの徴を彼らに示すよう請うた。2彼は答えられた、「〔夕になるとあなた方はいう、『お天気だ、空が焼けているから』と。3そして朝には、『きょうは嵐だ、空が曇って焼けているから』と。空の様子を見わけることを知って時の徴がわからないのか〕。4悪い背信の世代は徴を求めるが、ヨナの徴のほか徴は与えられまい」と。イエスは彼らから立ち去られた。
 5向こう岸に渡るとき弟子たちはパンを持って来るのを忘れていた。6イエスは彼らにいわれた、「心がけて、パリサイ人とサドカイ人のパン種を警戒せよ」と。7彼ら同士いいはじめた、「われわれがパンを持って来なかったからだ」と。8気づいてイエスはいわれた、「なぜあなた方同士でパンのないことを話しあうか、小信もの、9まだわからないのか、五千人のためのパン五つでいく籠拾ったか、覚えていないのか。10四千人のためのパン七つでいく籠拾ったか。11あなた方にいったのはパンのことではないのがなぜわからないのか。パリサイ人とサドカイ人のパン種を警戒せよ」と。12そこで、弟子たちは彼がパン種でなくてパリサイ人とサドカイ人の教えを警戒するよういわれたことがわかった。

   ペテロの告白、受難予告第一

 13イエスはピリポ・カイサリアの地方に来られたとき、弟子たちに問われた、「人々は人の子を何というか」と。14彼らはいった、「あるものは洗礼者ヨハネ、あるものはエリヤ、他のものはエレミヤとか預言者のひとりといいます」。15彼らにいわれる、「あなた方はわたしを何というか」と。16シモン・ペテロが答えた、「あなたはキリスト、生ける神の子です」と。17イエスは答えられる、「ヨナの子シモン、あなたはさいわいだ、血肉でなく天のわが父がそれをあなたに示されたから。18わたしもあなたにいう。『あなたはペテロ(岩)で、わたしはこの岩の上にわが教会(エクレシア)を建てる。黄泉(よみ)の門もそれに打ち勝てない。19わたしはあなたに天国の鍵を与える、あなたが地で縛ることは天でも縛られ、あなたが地でゆるすことは天でもゆるされよう』と」。20それから弟子たちに彼がキリストであるとだれにもいわぬよういましめられた。
 21それ以来イエス・キリストは、弟子たちに、エルサレムへ行って、長老、大祭司、学者から手痛く苦しめられ、殺されて、三日目に復活せねばならぬことを示しはじめられた。22ペテロは彼をかたわらに引いて、制止しはじめた、「主よ、とんでもない、決してそんなことはなりません」と。23彼は振り返ってペテロにいわれた、「サタン、引きさがれ。おまえはわがつまずき。おまえは神のことをでなく、人間のことを考えている」と。24それからイエスは弟子たちにいわれた、「わたしにつこうと思うものは、おのれを捨てておのが十字架を負い、それからわたしに従え。25おのがいのちを救おうと思うものはそれを失い、わがゆえにおのがいのちを失おうと思うものはそれを得よう。26全世界をかち得てもおのがいのちをとられれば何の役に立とう。おのがいのちの代価に何を与えようか。27人の子が父の栄光を受けて天使とともに来るであろうとき、めいめいにその行ないによって報いよう28本当にいう、ここに立つもののうち、人の子が彼の国に来るのを見るまで死を味わわぬものがある」と。

   変 容

17章 1六日ののちイエスはペテロとヤコブとその兄弟ヨハネを連れ、彼らだけで高い山に上られた。2すると彼らの目の前でイエスの姿が変わり、顔は日のように輝き、着物は光のように白くなった。3すると見よ、モーセとエリヤが彼らに現われてイエスと話していた。4ペテロがイエスにいった、「主よ、われらがここにいるのはよいことです。お望みなら、ここに幕屋を三つ作りましょう、一つをあなたに、一つをモーセに、一つをエリヤに」と。5ペテロがなお語るうちに、見よ、光る雲が彼らをおおい、加えて雲の中から声がした、いわく、「これはわがいとし子、わが心にかなうもの、彼に耳傾けよ」と。6それを聞いて弟子たちは地に倒れ伏し、おそれおののいた。7イエスは近より、彼らに手を触れていわれた、「起きよ、おそれるな」と。8彼らが目をあげると、イエスひとりのほかだれも見えなかった。
 9山をおりながら、イエスは彼らに命じられた、「人の子が死人の中から復活するまで、見たことをだれにもいうな」と。10すると弟子たちは彼にたずねた、「それなら、学者がまずエリヤが来るはずというのはなぜですか」と。11彼は答えられた、「エリヤが来てすべてを整えよう12しかしわたしはいう、エリヤはすでに来た。しかし人々は彼を認めず、思うままに彼をあしらった。そのように人の子も彼らに苦しめられよう」と。13そこで弟子たちは洗礼者ヨハネのことをいわれたと悟った。

   てんかんのいやし、受難予告第二

 14彼が群衆のところへ来られると、ひとりが近づいてひざまずいていった、15「主よ、わが息子をあわれんでください。てんかんで苦しんでいます。火の中や水の中へたびたび倒れます。16それで、あなたのお弟子たちのところへ連れて来ましたが、なおせませんでした」と。17イエスは答えられた、「不信で曲がった世代よ、わたしはいつまでいっしょか、いつまで辛抱するのか。その子をここにお連れ」と。18イエスが子をしかりつけられると、悪魔が去り、子はそのときからいやされた。19そこで弟子たちがイエスのところへそっと来ていった、「なぜわれわれは悪霊を追い出せなかったのですか」と。20彼はいわれる、「あなた方の小信のため。本当にいう、からし種ほどの信仰があれば、この山にここからあそこに移れといえば移り、あなた方にできないことはなかろう」と。
 22ガリラヤのうちをめぐりつつ、イエスは彼らにいわれた、「人の子は人々の手に渡されて23殺され、三日目に復活しよう」と。彼らの悲しみは深かった。

   宮の納金

 24彼らがカペナウムに来ると、宮の納金の徴収者がペテロのところに来ていった、「あなた方の先生は宮の納金を納めないのか」と。25彼はいう、「お納めになる」と。ペテロが家に入るとイエスのほうから話しかけられた、「シモン、どう思うか、地の王たちは税や貢をだれから取るか。自らの子たちからか、他人の子たちからか」と。26「他人の子たちからです」と答えると、イエスはいわれる、「それなら、子たちは無税だ。27しかし、彼らをつまずかせぬために、湖へ行って釣針を投げ、かかった最初の魚をとれ。その口を開くとスタテル銀貨が見つかろう。それを取って、わたしとあなたの分として彼らに与えよ」と。

   小さいものたち

18章 1そのとき弟子たちがイエスのところに来ていった、「天国で最大なのはだれですか」と。2するとひとりの子どもを呼んで彼らの間に置いていわれた、3「本当にいう、転身して子どものようにならなければ天国には入れない。4この子のように自らへりくだるものこそ天国で最大である。5わが名のゆえにこのような子ひとりを受けるものはわたしを受ける。6わたしを信ずるこれら小さい人のひとりをつまずかせるものは、臼を首にかけて海の深みにおぼれた方がいい。7つまずきのあるこの世はわざわいだ。つまずきは必ず来る。しかし、わざわいなのはつまずきのもとになる人!
 8もし手か足があなたをつまずかせるなら、切って投げ捨てよ。片手片足でいのちに入るほうが両手両足で永遠の火に投げ込まれるよりはいい。9もし目があなたをつまずかせるなら、えぐり出して投げ捨てよ。片目でいのちに入るほうが両目で火の地獄(ゲヘナ)に投げ込まれるよりはいい。10心がけて、これらの小さいもののひとりを軽んじないようにせよ。わたしはいう、彼らには(守り)天使があって、天にいますわが父のお顔をいつも見ている。11〔人の子はうせたものを救いに来た〕。
 12あなた方はどう思うか。ある人に羊が百匹あって、その一匹が道に迷ったら、九十九匹を山に置いたまま迷ったのを探しに行かないか。13そしてそれが見つかったら、わたしはいう、この一匹のほうが迷わなかった九十九匹よりうれしい。14そのように、これら小さいもののひとりが滅びるのは、あなた方の天の父のみ心ではない。

   兄弟の罪

 15兄弟が罪を犯したら、行って、あなたと彼だけの間でさとしなさい。彼が聞けば、あなたは兄弟をかち得たのだ。16彼が聞かなければ、あなたとともに一人か二人を連れよ。万事二人か三人の証によって定まる17彼らにもさからうなら、集まりにいえ。集まりにもさからうなら、異邦人や取税人とみなしなさい。18本当にいう、あなた方が地で縛ることはみな天でも縛られ、地でゆるすことはみな天でもゆるされよう。19なおわたしはいう、あなた方のうち二人が心を合わせて地上で願うことはみな天のわが父によってなされよう。20二人、三人とわが名で集まるところ、そこにわたしは彼らの仲間としている」と。

   悪い僕の譬え

 21そこでペテロが近よっていった、「主よ、わが兄弟がわたしに罪を犯したとき、何度ゆるしてやりましょうか。七度までですか」と。22イエスは彼にいわれる、「わたしはいう、『七度までといわず、七度の七十倍まで』と。
 23それゆえ天国をたとえると、王が僕たちと金勘定しようとするに似る。24勘定しはじめると、一万タラント借りのある僕が連れて来られた。25返せないので、主人は自分も妻も子も持ちものすべてを売って返すよう命じた。26僕はひれ伏していった、『しばしご猶予を。皆お返ししましょう』と。27僕の主人はあわれんで彼をゆるし、借りを帳消しにしてやった。28その僕が出かけて、自分に百デナリ借りのある仲間に会うと、彼を捕え、のどをしめて、『借りを返せ』といった。29仲間はひれ伏していった、『しばしご猶予を。お返ししますから』と。30しかし承知せず、訴えに行って仲間が借りを返すまで牢に入れた。31仲間の僕たちは出来事を見てはなはだ悲しみ、行って、主人に一部始終を話した。32そこで主人は彼を呼んでいう、『この悪い僕、おまえが頼んだから、あの借りをみな帳消しにしてやったのに! 33わたしがおまえをあわれんだように、おまえも仲間をあわれむべきではなかったのか』と。34主人は怒って、借りをみな払うまで彼を獄吏(ごくり)に渡した。35このように天のわが父もあなた方になさろう、もしめいめいが心から兄弟をゆるさないならば」と。

   離婚間答

19章 1イエスがこれらの話を終えられたときのこと、ガリラヤを去ってヨルダンの向こうのユダヤ地方へ来られた2多くの群衆が彼に従い、彼はその地方で彼らの病をいやされた。
 3パリサイ人が彼を試みに来ていった、「何かの理由があればおのが妻を離縁してもよろしいか」と。4彼は答えられた、「あなた方は読んだことがないのか、創造主(つくりぬし)ははじめに彼らを男と女に造られたこと5それゆえ人は父母を離れて妻につき、ふたりは一体となるべきことを。6したがってもはやふたつでなくひとつの体である。神が結ばれたものを人が離すべきではない」と。7彼らはいう、「モーセが離縁状を渡して離縁することを命じたのはなぜですか」と。8彼らにいわれる、「モーセはあなた方が頑(かたくな)なので妻を離縁することをゆるしたので、事ははじめからそうではなかった。9わたしはいう、不品行のゆえでなく妻を離縁してほかの女をめとるものは姦淫をすることになる」と。10弟子たちは彼にいう、「もし人と妻とのことがそのようならば、結婚しないほうがよろしい」と。11彼はいわれた、「恵まれた人は別として、すべての人がこのことばを受け入れうるのではなく、12母の胎からの生まれつきの独身があり、人から独身にされたものがあり、また天国のゆえに自らを独身にしたものがある。このことを受け入れうるものは受け入れよ」と。

   子どもの祝福

 13そのころ、人々がイエスのところへ子どもを連れて来て、手を置いて祈っていただこうとしたのを弟子たちがとがめた。14イエスはいわれた、「子どもはそのままに。彼らがわたしのところへ来るのを妨げるな。天国はこのような人たちのものである」と。15彼らに(祝福の)手を置いて、そこを去られた。

   金持について

 16すると見よ、イエスのところへ来た人があり、「先生、永遠(とこしえ)のいのちを得るには、どんなよいことをすべきですか」といった。17彼はいわれた、「なぜよいことについてわたしにたずねるのか、よい方はただひとりである。いのちに入りたければ、掟を守れ」と。18彼はいう、「どの掟ですか」と。イエスはいわれた、「殺すな、姦淫するな、盗むな、偽証するな、19父母を敬え、隣(となり)びとを自らのごとく愛せよ」と。20若者はいう、「それらは皆守っています。何がまだ足りないのでしょう」と。21イエスはいわれた、「全くありたければ、行って持ちものを売って貧しい人々に与えよ。そうすれば天に宝を得よう。そのうえで来てわたしに従いなさい」と。22若者はそのことばを聞いて、悲しみながら去った。財産が多かったからである。
 23イエスは弟子たちにいわれた、「本当にいう、金持が天国に入るのはむずかしい。24繰り返すが、らくだが針の穴を通るほうが金持が神の国へ入るよりはやさしい」と。25それを聞いて弟子たちははなはだおどろいていう、「それならだれが救われえよう」と。26イエスは彼らを見つめていわれた、「これは人にはできないが、神にはすべてがおできになる」と。
 27そこでペテロが答えていった、「このとおりわれらはすべてを捨ててあなたに従いました。いったい何がわれらに与えられますか」と。28イエスは彼らにいわれた、「本当にいう、新生のとき人の子が栄光の座につくと、あなた方わたしに従うものも十二の王座についてイスラエルの十二の族(やから)を裁こう。29わが名のゆえに家や兄弟姉妹や父母や子や畑を捨てたものは、みな何倍もの報いを受け、永遠のいのちを継ごう。30最初のものが最後になり、最後のものが最初になることが多かろう。

   ぶどう作りの譬え

20章 1天国をたとえるとこうである。家の主人が朝早く出かけて、ぶどう畑に労務者をやとった。2労務者と一日一デナリの約束ができて彼らをぶどう畑にやった。3九時ごろ出て行って、市場に別の労務者らが働かずに立っているのを見て、4いった、『あなた方もぶどう畑に行きなさい。しかるべきものを払おう』と。彼らは行った。5また正午ごろにも三時ごろにも出かけて同じようにした。6五時ごろ出かけると、ほかのが立っているのでいう、『なぜあなた方は一日じゅう働かずにここに立っているのか』と。7彼らはいう、『だれもわれわれを雇ってくれなかったからです』と。彼はいう、『あなた方もぶどう畑に行きなさい』と。8夕になるとぶどう畑の主人が番人にいう、『労務者を呼んで報酬を払いなさい、最後のものからはじめて最初のものへ』と。9五時ごろのものが来て一デナリずつもらった。10最初のものが来て、もっともらえようと思ったが、彼らも一デナリずつもらった。11もらったとき彼らは家の主人に不平をいった、12『この最後のものは一時間しただけなのに、あなたは一日中の負担と暑さに耐えたわれらと同じになさる』と。13主人は彼らのひとりに向かっていった、『友よ、わたしは何もあなたに不正をしていない。一デナリと約束したではないか。14あなたの分を取ってお帰り。わたしがしたくてこの最後の人にあなたと同じだけ与えるのだ。15わたしのもので、わたしのしたいことをしていけないのか。それとも、わたしはよいのにあなたの目が悪いのか』と。16このように、最後のものが最初に、最初のものが最後になろう」。

   受難予告第三、ゼベダイの子ら

 17イエスは、いよいよエルサレムに上るにあたって、十二人だけを連れ、道すがら彼らにいわれた、18「いよいよわれらはエルサレムへ上る。人の子は大祭司や学者に渡される。彼らはわたしを死刑にし、19異邦人に渡し、あざけり、鞭打ち、十字架につけよう。そしてわたしは三日目によみがえろう」と。20そのときゼベダイの子らの母が子らとともに彼のところへ来てひれ伏し、何かを願おうとした。21彼はいわれた、「何をお望みですか」と。彼女はいう、「あなたのみ国で、わがふたりの子のひとりが右に、ひとりが左にすわるようお命じください」と。22イエスは答えられた、「あなた方は求めるものをわきまえない。いったいわたしが飲むべき杯を飲むことができるのか」と。彼らはいう、「できます」と。23彼はいわれる、「あなた方はわが杯を飲もう。しかしわが右とわが左にすわることはわたしが与えるものではなく、わが父によってそなえられた人々のものである」と。24それを聞いて十人はふたりの兄弟のことを怒った。25イエスは彼らを呼びよせていわれた、「あなた方の知るように、異邦人の間では長(おさ)たちが人々をおさめ、偉い人たちが力を持つ。26あなた方の間ではそうあってはならない。あなた方の間で偉くなりたければあなた方の召使いになれ。27あなた方の間で一番になりたければあなた方の僕になれ、28ちょうど人の子のように。彼が来たのは仕えられるためではなく、仕えて、多くの人のあがないとしておのがいのちを与えるためである」。

   エリコの目しい

 29彼らがエリコを出ると多くの群衆が彼に従った。30すると見よ、ふたりの目しいが道ばたにすわっていて、イエスのお通りを聞いて叫んだ 「主よ、あわれんでください、ダビデのみ子よ」と。31群衆はたしなめて黙らせようとしたが、彼らはますます大声で叫んだ、「主よ、あわれんでください、ダビデのみ子よ」と。32イエスは立ちどまって彼らを呼んでいわれた、「何をしてもらいたいのか」と。33彼らはいう、「主よ、目をあけてください」と。34イエスがあわれんで目にさわられると、彼らはただちに見えるようになって、彼に従った。

   エルサレム入り

21章 1彼らがエルサレムに近づいてオリブ山ベテパゲに来たとき、イエスはふたりの弟子をつかわしていわれた。2「向こうの村へ行くと、すぐにろばと子ろばがつながれているのが見えよう。それを放して連れて来なさい。3何かいう人があったら、『主のご用』といいなさい。すぐ渡してくれよう。4これは預言者のいったことが成就するためである。いわく、5『語れ、シオンの娘に、なんじの王が来たもう。彼は柔和でろばに乗り、荷うまの子である子ろばに乗る』と」。6弟子たちは出かけてイエスが命じられたとおりにし、7ろばと子ろばを連れて来た。そして、彼らが着物をその上にひろげると、イエスはそれに乗られた。8大勢の群衆が自らの着物を道に敷いた。あるものは木の枝を切って道に敷いた。9群衆は先に行くものもあとにつくものも叫んでいう、「ダビデの子にホサナ。主の名によって来たるものに祝福あれ。いと高きところにホサナ」と。10彼がエルサレムに入られると町じゅうがどよめいていう、「これはだれなのか」と。群衆はいった、11「これは預言者イエス、ガリラヤはナザレのお方」と。

   宮清め

 12イエスは宮に入って宮で物を売り買いするものを皆追い出し、両替屋の台や鳩屋の椅子を倒された。そして彼らにいわれる、13「『わが家は祈りの家と呼ばれるはず』と聖書にあるのに、あなた方はそれを強盗の巣にする」と。14宮で目しいや足なえが彼に近よって来たので彼らをいやされた。15祭司長や学者が彼のなさった驚異的なことと、子どもが宮で「ダビデの子にホサナ」と叫ぶのを見ていきどおり、16彼にいう、「彼らが何といっているか聞こえますか」と。イエスはいわれる、「聞こえるとも。『幼子と乳のみ子の口に讃美をそなえたもうた』とあるのを読んだことがないのか」と。17イエスは彼らを去り、町から出でベタニヤに行き、そこに泊まられた。

   いちじくの木

 18朝早く都へもどられるとき、彼(イエス)は飢えられた。19そのとき一本のいちじくの木を道ばたに見受けてそのほうに行かれたが、葉のほか何も見えなかったので、それにいわれる、「もはや永久におまえには実が出来ないように」と。するとたちまちいちじくは枯れた。20それを見て弟子たちはおどろいていう、「どうしてたちまちいちじくが枯れたのですか」と。21イエスは答えていわれる、「本当にいう、もしあなた方が信仰を持って疑わなければ、いちじくのことを行なえるばかりか、この山に向かって、『立ちあがって海に入れ』といってもそうなろう。22すべて祈りのうちに信じて求めるものは受けるであろう」と。

   権威問答

 23彼が宮へ行って教えておられると、大祭司と民の長老らが来ていう、「なんの権威でこれらをしますか。だれがあなたにこのような権威を与えましたか」と。24イエスは答えられた、「わたしもあなた方にひとつ聞きたいことがある。それをわたしにいうなら、わたしもあなた方になんの権威でこれらをするかをいおう。25ヨハネの洗礼はどこから来たか、天からか人からか」と。彼らは互いに話しあった、「もしわれらが天からといえば、なぜ彼を信じなかったかと彼はいおう。26もし人からといえば、群衆がおそろしい、皆がヨハネを預言者としているから」と。27そこで彼らはイエスに答えた、「知りません」と。彼もいわれる、「わたしもなんの権威でこれらをするかをあなた方にいわない」と。

   ふたりの子の譬え

 28「あなた方はどう思うか。ふたりの子を持つ人があって、はじめの子のところに来ていった、『子よ、きょうぶどう園に行って働きなさい』と。29答えて『はい』といったが行かなかった。30次の子のところへ来て同じようにいった。答えて、『いやです』といったが、あとで悔いて出かけた。31ふたりのうちどちらが父のみ心をなしたか」。彼らはいう、「次の子です」と。イエスはいわれる、「本当に、取税人と遊女はあなた方に先んじて神の国へ入ろう。32ヨハネが義の道をもってあなた方のところへ来たが、あなた方は彼を信ぜず、取税人と遊女は彼を信じた。あなた方はそれを見ながら、あとで悔いて彼を信じようとしなかったから」と。

   悪い農夫の譬え

 33「もうひとつ譬えを聞きなさい。ある人が主人としてぶどう園を作り、垣をめぐらし、中に酒ぶねを掘り、見張り台を建てて、農夫に賃貸しして旅に出た。34実りの季節が近づいたので、実をとらせに僕を農夫のところへつかわしたが、35農夫らは僕を捕えて、ひとりは叩き、ひとりは殺し、ひとりは石打ちした。36またはじめのより大勢の僕をつかわしたが、彼らは同じようにあしらった。37ついに自分の子をつかわした、『わが子なら彼らは敬おう』といいながら。38農夫らは子を見て互いにいった、『彼は跡継ぎだ。さあ殺して遺産をとろう』と。39そして彼を捕えてぶどう園の外へ投げ出して殺した。40ぶどう園の主人が来たとき、この農夫らをどうしようか」。41彼らはいう、「奴らをむごく殺して、ぶどう園をほかの農夫らに賃貸しし、季節に実を納めさせましょう」と。42イエスは彼らにいわれる、「聖書の中で読んだことがないか、『家造りの捨てた石こそ隅の土台石になった。これ主のなしたもうたこと、われらの目には不思議である』と。43それゆえいうが、神の国はあなた方から取られて、格好な実を結ぶ異邦人に与えられよう。44〔この石の上に倒れる人はくだけ、この石は落ちて人を粉々にしよう〕」。45祭司長とパリサイ人は彼の譬えを聞いて、イエスが彼らのことをいわれるのを悟った。46そして彼を捕えようとしたが、彼らは群衆をおそれた。群衆がイエスを預言者としたからである。

   王子の婚宴の譬え

22章 1イエスは語りつづけ、ふたたび譬えで彼らにいわれた、2「天国をたとえると、子のための婚宴をそなえる王に似る。3彼は僕をつかわして婚宴に招かれたものを呼ばせたが、彼らは来ようとしなかった。4また別の僕をつかわしていった、『招かれたものに告げなさい、見よ、わが食事はでき、わが牛と肥し飼いの家畜はほふられ、すべてがそろいました。婚宴においでください』と。5しかし彼らは無関心に立ち去った。ひとりはおのが畑に、ひとりは商いに、6あとのものは僕を捕えて虐待して殺した。7王は怒って兵をつかわして人殺しを滅ぼし、彼らの町を焼いた。8そして僕にいう、『婚宴はそなわったが招かれたものはふさわなかった。9町の大通りへいって人を見つけ次第、みな婚宴に招け』と。10そこで僕は通りへ出かけて、見つけたものはみな悪いものもよいものも呼んだ。そして婚宴の間は客で満ちた。11王が客を見に入ると、そこに婚礼の服をつけぬ人が目にとまった。12王はいう、『友よ、どうして君は婚礼の服をつけずにここへ入ったか』と。彼は黙した。13そこで王は召使いにいった。『彼の足と手を縛って外の闇へ投げ出せ』と。そこではなげきと歯ぎしりがあろう。14召されるものは多いが、選ばれるものは少ない」。

   納税問答

 15そこでパリサイ人は立ち去って、イエスをことばでわなにかける相談をまとめた。16そしておのが弟子たちをヘロデ党の人々とともに彼につかわしていわせた、「先生、わたしたちにはよくわかります。あなたは誠実な方で、神の道を真実な形で教え、だれにも気がねされません。人の顔つきをうかがわれないからです。17ところでおっしゃってください、どうお思いですか、皇帝(カイサル)に税を納めてよいのですか、いけませんか」と。18イエスは彼らの悪意を知っていわれた、「なぜわたしを試みるのか、偽善者ども。19税に使う硬貨を見せなさい」と。彼らはデナリ銀貨を手渡した。20そこでいわれる、「この像はだれのか、そしてこの銘は」。21彼らはいう、「皇帝のです」。するといわれる、「皇帝のものは皇帝に、神のものは神に返せ」と。22彼らはそれを聞いておどろき、彼を残して立ち去った。

   復活問答

 23その日サドカイ人が彼のところに来て、復活はないといい、彼に問うた、24「先生、モーセがいいました、『もし人が子なしで死ねば、弟が兄よめをめとって兄弟に子孫をもうけよ』と。25わたしたちのところに七人の兄弟がありました。長男がめとって死に、子なしなので妻を弟にのこしました。26同様に次男も三男も、七人とも死に、27皆のあとで妻が死にました。28復活に際して、女は七人のどれの妻になりましょうか。皆が彼女をめとりました」と。29イエスは答えていわれる、「あなた方はまちがっている、聖書も神の力も知らないから。30復活に際してはめとりもとつぎもせず、天のみ使いのようである。31死人の復活について、神がいわれたことを読まないか、32わたしはアブラハムの神、イサクの神、ヤコブの神』と。彼は死者の神でなく生者の神である」と。33それを聞いた群衆は彼の教えにおどろきいった。

   最大の掟

 34パリサイ人は、イエスがサドカイ人を黙らせたと聞いていっしょに集まった。35そしてそのうちのひとりの律法家が彼を試みて問うた、36「先生、掟のうちでどれが最大ですか」と。37彼はいわれた、「『なんじの神である主を愛すること心いっぱい、魂いっぱい、意志いっぱいにせよ』、38これが最大で第一の掟である。39第二のもそれに似る。『なんじの隣びとを自らのごとく愛せよ』。40このふたつの掟に律法と預言のすべてがかかっている」と。

   ダビデの子問答

 41集まっているパリサイ人にイエスは問われる、42「キリストについてあなた方はどう思うか、だれの子か」と。彼らはいう、「ダビデの子です」と。43彼はいわれる、「それなら、ダビデが霊にあふれてキリストを主というのはなぜか。ダビデはいう、44『主がわが主キリストにいわれた、なんじの敵をなんじの足下にわたしが置くまで、わが右に座せ』と。45もしダビデが彼を主と呼ぶならば、どうして彼の子か」と。46するとだれもひとことも彼に答えられず、まただれもその日からあえて彼に問おうとはしなかった。

   学者とパリサイ人批判

23章 1そこでイエスは群衆と弟子たちに語られた、2「学者とパリサイ人らはモーセの座を占めている。3それゆえ彼らがあなた方にいうことはすべて行ない、また守れ。しかし彼らのわざにはならうな。彼らは言って行なわぬから。4彼らは重荷をからげて人々の肩に置き、自らはそれを指一本で動かそうともしない。5彼らのするわざはすべて人に見られるためである。彼らは経札(きょうふだ)を幅広くし上着の総(ふさ)を大きくする。6彼らが好むのは食事での上座、会堂での上席、7広場であいさつされること、人々から先生(ラビ)と呼ばれることである。8あなた方は先生と呼ばれるな。あなた方の先生はひとりであなた方は皆兄弟である。9地上のものを父と呼ぶな。あなた方の天の父はひとりにいます。10導師と呼ばれるな。あなた方の導師はキリストひとりである。11あなた方の最大のものは僕であれ。12自らを高めるものは低められ、自らを低めるものは高められよう。

   学者とパリサイ人の偽善

 13わざわいなのはあなた方、偽善の学者とパリサイ人。天国を人々の前に閉ざしてあなた方も入らず、入ろうとする人々も入らせない。14〔わざわいなのはあなた方、偽善の学者とパリサイ人。やもめの家々を食いつくし、うわべで多くを祈る。受ける裁きは大きかろう〕。15わざわいなのはあなた方、偽善の学者とパリサイ人。海や陸をめぐってひとりの改宗者を得ようとし、得ればそれをあなた方に倍する地獄の子にする。16わざわいなのはあなた方、目しいの指導者。あなた方はいう、『宮にかけて誓うものは問題ないが、宮の黄金にかけて誓うものは義務を負う』と。17愚かものよ、目しいよ、黄金と黄金を聖める宮とどちらが大切か。18またいう、『祭壇によって誓うものは問題ないが、その上のささげものによって誓うものは義務を負う』と。19目しいよ、ささげものとささげものを聖める祭壇とどちらが大切か。20ゆえに、祭壇によって誓うものは、祭壇とその上のものすべてによって誓う。21宮によって誓うものは宮とそこに住みたもうものによって誓う。22天によって誓うものは神のみ座とその上に座したもうものによって誓う。23わざわいなのはあなた方、偽善の学者とパリサイ人。薄荷(はっか)、いのんど、ういきょうの十分の一は納めて、掟の、より重要なものである公平とあわれみと真実を無視する。これこそ行なうべきもの、しかしあれも無視すべきでない。24目しいの指導者よ、あなた方はぶよをこし出しながららくだをのみ込む25わざわいなのはあなた方、偽善の学者とパリサイ人。あなた方は杯や皿の外は清めるが、内は盗みとわがままでみちている。26目しいのパリサイ人よ、まず杯の内を清めよ、すれば外も清くなろう。27わざわいなのはあなた方、偽善の学者とパリサイ人。あなた方は白くぬった墓に似る。それは外は美しく見えるが内は死人の骨やあらゆるけがれで満ちている。28そのようにあなた方も外は人に正しく見えるが、内は偽善や不法に満ちている。29わざわいなのはあなた方、偽善の学者とパリサイ人。預言者の墓を建て、義人の碑を飾っていう、30『もしわれらが先祖の時に生きていても、預言者の血を流す仲間にはならなかったろう』と。31それこそあなた方は預言者を殺した人の子孫であることを自ら証している。32あなた方も先祖の枡を満たすであろう。33蛇よ、まむしの末よ、どうしてあなた方は地獄の裁きをのがれえよう。
 34それゆえ、見よ、わたしはあなた方に預言者と知者と学者をつかわす。そのあるものをあなた方は殺し、十字架につけよう。あるものをあなた方は会堂で鞭打ち、町から町へと迫害しよう。35かくて、あなた方にこそ地で流された義の血がすべてかかろう、義人アベルの血から、あなた方が宮と祭壇の間で殺したバラキヤの子ザカリヤの血に至るまで。36本当にいう、これらすべてはこの世代にのぞもう

   ああ、エルサレム

 37ああ、エルサレム、エルサレム。預言者を殺し、つかわされたものを石打ちした町よ。なんじの子らを何度わたしは集めようとしたことか、めんどりがひなを翼の下に集めるように。しかしあなた方は欲しなかった。38見よ、あなた方の家は捨てられる。39わたしはいう、『祝福あれ、主のみ名によって来たるもの』とあなた方がいうまで今後わたしを見まい」。

   人の子来臨の徴

24章 1イエスが宮を出て歩いておられると、弟子たちが近よって宮の建物を指さした。2彼が答えていわれた、「これらすべてが見えるか。本当にいう、ひとつの石も他の石の上に残るまい。皆こわれよう」と。3オリブ山ですわっておられると、弟子たちが近よって内輪に話した、「おっしゃってください。いつこのことはおこりましょうか。あなたの来臨と世の終わりの徴は何でしょうか」と。4イエスは答えていわれた、「だれにも迷わされぬよう注意なさい。5多くのものがわが名をかたって来て『わたしはキリスト』といい、多くのものを迷わそう。6あなた方は間もなく戦いの響きや戦いのうわさを聞こう。おどろかぬよう注意なさい。それは必ずおこる。しかしそれはまだ終わりではない。7民は民と、王国は王国と戦おう。飢饉と地震が各地におころう。8これらすべては陣痛のはじめである。9そのときあなた方は苦しめられ、殺されよう。そしてわが名のゆえにすべての民に憎まれよう。10そのとき多くのものがつまずき、互いに裏切り互いに憎もう。11多くの偽預言者がおこって多くの人々を迷わそう。12不法が満ちるので多くの人の愛が冷えよう。13しかし終わりまで忍ぶ人こそ救われよう。14そしてこのみ国の福音が全世界にのべ伝えられて、すべての民への証となろう。そのときにこそ終わりが来よう。

   来臨の様相

 15預言者ダニエルのいう『荒廃のおそれ』が聖所に立つのをあなた方が見るとき(読者は悟れ)、16ユダヤにいるものは山々にのがれよ。17屋上にいるものは家にあるものを取りに下におりるな。18畑にいるものは上着を取りに帰るな。19身重の女や乳のみ子のある女は気の毒だ。20あなた方が逃げるのが冬や安息日でないよう祈れ。21そのときのなやみは大きかろう。世のはじめから今までになく、これからも決しておきないほどであろう。22もしその日々が短くされねばだれも救われまい。しかし選ばれたもののためにその日々は短くされよう。
 23そのとき、もしだれかがあなた方に『見よ、ここにキリストが』、また、『あそこに』といっても信ずるな。24偽キリストや偽預言者がおこって大きな徴や奇跡を行ない、できることならと、選ばれた人たちをも惑わそう。25見よ、わたしが前もっていったことである。26もし彼らがあなた方に、『見よ、彼は荒野にいる』といっても出かけるな。『見よ、彼は奥の部屋に』といっても信ずるな。27いなずまが東から来て西にまで輝くように、人の子の来臨もそのようであろう。28死体のあるところはどこでもはげたかが集まる。
 29その日の苦しみの直後に日はかげり、月は光を放たず、星は天から落ち、天体はゆられよう。30そのとき人の子の徴が天に現われよう。そのとき地のすべての民はなげき、人の子が大きな力と栄光をもって天の雲の上に乗って来るのを見よう。31彼は大きなラッパで天使をつかわし、彼の選民を四方から、天のこの果てから、かの果てまで集めさせよう。

   その日その時

 32いちじくから譬えを学べ。はや若枝になって葉がのびると、夏が近いと知る。33そのようにあなた方もこれらすべてを見れば終わりが戸口に迫っていると知ろう。34本当にいう、これらすべてがおこる前にはこの世は過ぎ行くまい。35天と地は過ぎ行こうが、わがことばは過ぎ行くまい。36その日その時についてはだれも知らない。天使も人の子も知らず、父だけが知りたもう。37人の子の来臨はノアの日のごとくであろう。38洪水以前のころ、ノアが箱舟に入る日までは、人々は食い、飲み、めとり、とつぎしたが、39洪水が来て彼らすべてをさらうまで何も知らなかった。人の子の来臨もそのようであろう。40男がふたり畑にいれば、ひとりは天に連れられ、ひとりは残される。41女がふたり臼をひいていれば、ひとりは天に連れられ、ひとりは残される。42目覚めていよ、あなた方の主がいつの日に来られるかわからぬゆえに。43このことを知れ――家の主人は夜の何時に盗人が来るとわかれば、目覚めていて家にしのび込ませまい。44それゆえあなた方も心を構えよ、人の子は思わぬときに来ようから。

   よい僕と悪い僕の譬え

 45まめで賢い僕はだれであろう、時間どおりに食事を整えるよう主人が家政を託したときに。46さいわいなのは帰って来た主人にそのようにしたのを見られるその僕! 47本当にいう、彼は主人の持ちものすべてを託されよう。48もし悪い僕で、主人はおそいと心に思い、49仲間を打ち、酔っぱらいと飲み食いすれば、50その僕の主人は予期せぬ日、知らぬ時に帰って来て、51彼を引き裂こう。そして彼は偽善者と同じ目にあい、そこではなげきと歯ぎしりがあろう。

   十人のおとめの譬え

25章 1その(終わりの)時の天国をたとえれば、十人のおとめがめいめい明りを持って花むこを迎えに出かけるのに似る。2その五人は愚かで五人は賢かった。3愚かなほうは明りを持ったが油をたずさえなかった。4賢いほうは油を器に入れて明りとともに持って行った。5しかし花むこがおくれたので皆まどろんで眠っていた。6すると真夜中に叫びがした、『見よ、花むこ、迎えに出でよ』と。7そこでおとめらは皆起きてめいめい明りを整えた。8愚かな女は賢い女にいった、『あなた方の油を分けてください、わたしたちの明りは消えます』と。9賢い女は答えた、『いいえ、あなた方とわたしたち皆には足りますまい。むしろ店に行って自分のをお買いなさい』と。10しかし、彼女らが買いに行っているうちに花むこが来た。そして用意のいいおとめが彼とともに婚宴に入った。そして戸が閉ざされた。11あとでほかのおとめたちも来ていった、『ご主人、ご主人、わたしたちを入れてください』と。12彼は答えた、『本当にいう、わたしはあなた方を知らない』と。13それゆえ、目を覚ましていよ。あなた方はその日もその時も知らないのだから。

   タラントの譬え

 14天国は、旅立つ人がおのが僕を呼んで財産を預けるのに似る。15ひとりには五タラント、ひとりには二、ひとりには一、すなわち各人の力に応じて与えて旅立った。16五タラント受けた人はただちに行ってそれを活用してもう五タラントを得た。17そのように二タラント受けたものはもう二タラント得た。18しかし一タラント受けたものは行って地をうがち、主人の金を隠した19かなりの時ののち僕たちの主人が帰って来て彼らと清算をした。20五タラント受けてもう五タラント得たものが来ていった、『主よ、五タラントお預けでしたが、ごらんください、もう五タラント得ました』と。21主人はいった、『けっこう、まめなよい僕、わずかのものにまめであったから多くのものをまかせよう。主人のよろこびにあずかれ』と。22二タラントのものが来ていった、『主よ、二タラントお預けでしたが、ごらんください、もう二タラント得ました』と。23主人はいった、『けっこう、まめでよい僕、わずかのものにまめであったから、多くのものをまかせよう。主人のよろこびにあずかれ』と。24一タラント受けたものも来ていった、『主よ、あなたはきびしいお方で、まかぬところで刈り、散らさぬところでお集めと知っていましたので、25おそろしくなってお預けのタラントを地に隠しました。ごらんください、これがあなたのものです』と。26主人は答えていった、『怠けものの悪い僕、まかぬところで刈り、散らさぬところで集めるのを知っていたのか。27それならわたしの金を預金すべきであった。わたしが帰ったときに利子つきで戻してもらえたのに。28そのタラントを取りあげて十タラント持つものに与えよ。29すべて持つものは与えられてあり余り、持たぬものは持つものも取られよう。30この無益の僕を外の闇に放り出せ。そこではなげきと歯ぎしりがあろう』と。

   人の子の裁き

 31人の子が栄光のうちに来臨してすべての天使を従えるとき、彼は栄光の座につこう。32そしてすべての民が彼の前に集められ、牧者が羊と山羊を分けるように彼は民を互いに分けよう。33彼は羊を右に、山羊を左に置こう。34そのときは右のものにいおう、『来たれ、父に祝福されるものよ、世のはじめからあなた方のためにそなえられた王国を継げ。35わたしが飢えたときあなた方は食を与え、渇いたとき飲み物を与え、わたしがよその者であったとき宿をかし、36裸のとき着物を与え、病のとき見舞い、捕われのとき訪れてくれた』と。37そのとき正しい人々は答えよう、『主よ、われらはいつあなたの飢えを見て食を与え、渇きを見て飲み物を与えましたか。38いつあなたをよその者と見て宿をかし、裸なのを見て着物を与えましたか。39いつ病気であり捕われているのを見て訪れましたか』と。40王は答えよう、『本当にいう、このいと小さいわが兄弟のひとりにあなた方がしたことはわたしにしてくれたことになる』。41そのとき左のものにもいおう、『わたしを去れ。呪われて、悪魔とその使いのためにそなえられた永遠の火に入れ。42わたしが飢えたときあなた方は食を与えず、渇いたとき飲み物を与えず、43よそものであったとき宿をかさず、裸のとき着物を与えず、病気であり捕われているとき訪れてくれなかった』と。44そのとき彼らも答えよう、『主よ、あなたが飢え、渇き、よその者であり、裸で、病気で、捕われのとき、いつあなたに仕えませんでしたか』と。45そこで彼らに答えよう、『本当にいう、あなた方がこれらいと小さきものにしなかったことはわたしにしてくれなかったことになる』と。46彼らは永遠の罰に、正しい人々は永遠のいのちに入ろう」。

   陰謀、香油、背き

26章 1イエスがこれらのことばを皆終えられたときのこと、弟子たちにいわれた、2「あなた方の知るように、二日後に過越(すぎこし)になる。そのとき人の子は引き渡されて十字架につけられよう」と。3そのころ大祭司や民の長老らがカヤパという大祭司の邸に集まり、4イエスを計略で捕えて殺そうと相談した。5しかし彼らはいった、「祭りの時はよそう。民の間に騒ぎがおこるといけない」と。6イエスがベタニアでらい者シモンの家におられると、7高価な香油の壺を持ってひとりの女が近より、食卓につかれた彼の頭に注ぎかけた。8弟子たちはそれを見ていきどおっていう、「このぜいたくは何のためか。9これは高く売れて貧しい人々に施せたのに」と。10イエスはそれを知って彼らにいわれた、「なぜこの女の人をいじめるのか、わたしによいことをしてくれたのに。11貧しい人々はいつもあなた方のところにいるが、わたしはいつもではない。12彼女がわたしの体にこの香油をかけてくれたのはわたしを葬るためであった。13本当にいう、全世界この福音が伝えられるところ、この女の人のしたことも彼女をおぼえて語られよう」と。14そのとき、イスカリオテのユダといわれる十二人のひとりが大祭司のところへ出かけて、いわく、15「いくらくれますか、わたしが彼をあなた方に引き渡しましょう」と。彼らは銀貨三十を払った16彼はそのときからイエスを引き渡すによい折をうかがっていた。

   最後の食事

 17種なしパンの祭りの初日に弟子たちがイエスのところへ来ていった、「どこで過越のお食事を用意しましょうか」と。18彼はいわれた、「町のだれそれのところへ行っていえ、先生が、『わが時は近い、あなたのところで弟子たちと過越をしよう』といわれる」と。19弟子たちはイエスが命じられたようにして過越の用意をした。20夕になると、彼は十二人と食事につかれた。21彼らの食事中いわれた、「本当にいう、あなた方のひとりがわたしを引き渡そう」と。22彼らはたいそう悲しんでひとりひとりいいはじめた、「主よ、わたしのことですか」と。23彼は答えられた、「わたしとともに手を鉢に入れて食べているものがわたしを引き渡そう。24人の子は聖書にあるとおりに去り行く。わざわいなのは人の子を引き渡すその人!その人は生まれなければよかったのに」と。25彼を引き渡すユダが答えた。「わたしのことですか、先生」と。彼はいわれる、「あなたのいうとおり」と。
26食事中イエスはパンを取り祝福して裂き、弟子たちに与えていわれた、「取ってお食べ。これはわが体である」と。27そして、杯を取り、感謝して彼らに与えていわれた、「皆この杯からお飲み。28これはわが契約の血、多くの人の罪のゆるしのために流すもの。29わたしはいいおく、わが父の国であなた方とともに新しいのを飲むその日まで、わたしはこれから決してこのぶどうの実のものを飲むまい」と。

   ペテロのつまずきの預言

 30彼らは讃美歌をうたってからオリブ山へと出かけた。31そのときイエスは彼らにいわれる、「今夜あなた方は皆わたしにつまずこう。聖書にいわく、『われは羊飼いを打とう、すると群れの羊は散らされよう』と。32しかしわたしがよみがえってのちにわたしはあなた方に先立ってガリラヤへ行こう」。33ペテロは答えて彼にいう、「たとえ皆があなたにつまずいてもわたしは決してつまずきますまい」と。34イエスは彼にいわれる、「本当にいう、今夜にわとりが鳴く前に、三たびあなたはわたしを知らないといおう」と。35ペテロは彼にいう、「たとえあなたとともに死なねばならぬとも、決してあなたを知らぬとはいいますまい」。すべての弟子も同じようにいった。

   ゲツセマネ

 36それからイエスは弟子たちとゲツセマネというところに来て、彼らにいわれる、「わたしがあそこへ行って祈る間ここにすわっていなさい」と。37そして、ペテロとゼベダイのふたりの子を伴ううちに悲しみなやみはじめられた。38そして彼らにいわれる、「わが心は悲しみをこえて死ぬほどである。ここにいて共に目覚めていよ」。39そして少し進んでうつむけに伏し、祈っていわれる、「わが父上、できることならこのがわたしを通りすぎますように。しかしわが願いのままでなく、み心のままに」と。40弟子たちのところへ来て眠っているのを見、ペテロにいわれる、「そのようにあなた方は一時間もわたしとともに目覚めていられなかったのか。41目覚めて祈れ、試みにあわないように。心ははやるが体は弱い」と。42二度目に彼らを離れて祈られた、「わが父上、もしわたしが飲まねばこれを通りすごすことができませんのなら、あなたのみ心が行なわれますように」と。43また来てみると彼らは眠っていた。まぶたが重かったのである。44彼らを離れて三度目に祈り、同じことばを繰り返された。45そして弟子たちのところへ来ていわれる、「まだ眠っているのか、休んでいるのか。見よ、時が近づいた。人の子は罪びとの手に渡される。46起きよ、行こう。見よ、わたしを引き渡すものが近づいた」と。

   捕 縛

 47まだ彼が話しておられるとき、見よ、十二人のひとりユダが来た。剣や棒を持った多くの群衆がいっしょであった。彼らは大祭司や民の長老につかわされていた。48彼を引き渡すものが合図していった、「わたしが口づけするのがその人です。彼を捕えなさい」と。49ただちにイエスに近づいて、「ごきげんよう、先生」といって口づけした。50イエスはいわれた、「友よ、そのために来たのか」と。そのとき彼らは近づいてイエスに手をかけて捕えた。51すると見よ、イエスの連れのひとりが手をのべて剣を抜き、大祭司の僕に切りつけてその耳をそいだ。52するとイエスはいわれる、「なんじの剣をさやにおさめよ。剣をとるものは剣に滅びる。53それとも、わが父上に願って十二軍団以上の使いをすぐわたしに送ってもらうことがわたしにできないと思うのか。54それならば、かくならねばならぬという聖書はいかに成就するのか」と。55同時にイエスは群衆にいわれた、「強盗に向かうかのように剣と棒を持ってわたしを捕えに来たのか。日ごと宮にすわって教えたのに、あなた方はわたしを捕えなかった。56これはすべて預言者の書物が成就するためにおこったことである」と。そのとき弟子たちはみな彼を見捨てて逃げ去った

   最高法院の審問

 57イエスを捕えた人々は彼を大祭司カヤパのところへ連れて行った。そこには学者や長老が集まっていた。58ペテロは遠くから彼について大祭司の邸(やしき)に至り、中に入って下役らとともにすわった。結果を見ようとしたのである。59大祭司と全法院(サンヘドリン)はイエスを死刑にしようとして彼に不利な偽証を探しつづけた。60多くの偽証人が出たが証拠は見つからなかった。ついにふたりのものが出ていった、61「この人は『神の宮をこわして三日のうちに建てうる』といった」と。62そこで大祭司は立ちあがってイエスにいった、「何も答えないのか、この人たちがおまえに不利な証言をしているのに」と。63しかしイエスは黙っておられた。大祭司は彼にいった、「生ける神に誓って命ずる。答えよ。おまえは神の子キリストか」。64イエスはいわれる、「仰せのとおり。しかし、わたしはいう、今からのち人の子が大能の神の右にすわって天の雲に乗って来るのをあなた方は見よう」と。65そのとき大祭司は衣を裂いていった、「彼は神をけがした。そのうえ何の証人がいろう。今あなた方はけがしを聞いた66何とお考えか」と。彼らは答えた、「死罪にあたる」と。67そして彼らは彼の顔に唾し、挙で打ち、あるものは棒でたたきながら、68「キリストよ、おまえを打ったのはだれか当ててみよ」といった。

   ペテロの否定

69ペテロは外で中庭にすわっていた。そこへ召使いが来ていった、「あなたもガリラヤ人イエスといっしょにいました」と。70しかし彼は皆の前でそれを否み、「あなたのいうことがわからない」といった。71彼が玄関のほうへ出て行くと、もうひとりの召使いが彼を見てそこにいる人々にいう、「この人はナザレ人イエスといっしょにいました」と。72そこで誓って、「その人を知らない」とふたたび否んだ。73しばらくしてそこに立っている人たちが近づいてペテロにいった、「たしかにあなたもあの仲間だ。あなたのなまりでお里が知れる」と。74そこで彼は呪って誓いはじめた、「あの人は知らない」と。折しもにわとりが鳴いた。75そこでペテロは、にわとりが鳴く前に三度自分を知らないといおうとのイエスのことばを思い出した。そして外へ出て、さめざめと泣いた。

ユダの死、ピラトの審問

27章 1朝になると、大祭司や民の長老は一致してイエスを死刑にする決議をした。2そして彼を縛って連れ出し、総督ピラトに引き渡した。3イエスを売ったユダは彼が判決を受けるのを見て悔い、銀貨三十を大祭司と長老に返した。そしていう、4「わたしは清らかな血を引き渡して罪を犯した」と。彼らはいった、「われらの知ったことではない。自分で始末せよ」と。5そこで彼は銀貨を宮に投げて立ち去り、行って首をくくった。6大祭司は銀貨を手にしていった、「これを宮の献金に入れることはゆるされない、血の代金だから」と。7彼らは相談してそれで陶器師の畑を買って外人墓地にした。8それゆえにその畑は今日まで血の畑と呼ばれる。9かくて預言者エレミヤのことばが成就した。いわく、「彼らは銀貨三十すなわちイスラエルの子らが人間につけた値段の金を取って 10主がわたしに命じられたように陶器師の畑の代として与えた」と。
11イエスが総督の前に立たされると、総督は彼に問うた、「おまえはユダヤ人の王か」と。イエスはいわれた、「仰せのとおり」と。12そして大祭司や長老による訴えには何もお答えがなかった。13そこでピラトが彼にいう、「こんなに不利な証言をしているのが聞こえないのか」と。14彼からひとこともお答えがないので総督はたいそう不思議に思った。
15祭りの折に総督が民衆の望む囚人ひとりをゆるす習慣があった。16そのときバラバという評判の囚人がいた。17人々が集まったときピラトはいった。「どちらをゆるしてあげようか、バラバか、キリストといわれるイエスか」と。18ピラトは人々が妬みからイエスを引き渡したことを知っていたからである。19ピラトが席にすわっているとき、彼の妻が人をやっていわせた、「あの義人に何もしないでください。あの人の夢で昨夜苦しみました」と。20大祭司と長老はバラバをゆるしてイエスを殺してもらえと民衆を説得した。21総督はいった、「ふたりのうちどれをゆるしてもらいたいか」と。彼らはいった、「バラバを」と。22ピラトはいう、「キリストといわれるイエスはどうしよう」と。彼らは皆いう、「十字架につけよ」と。23彼はいう、「何の悪をしたのか」と。彼らはますます叫んで「十字架につけよ」といった。24ピラトはすべてがむだなばかりで騒動になりそうなのを見て、水を取って群衆の前で手を洗っていう、「わたしはこの人の血にかかりあいはない。あなた方が始末せよ」と。25民は皆いった、「彼の血はわれらと子孫の上に」と。26そこでバラバをゆるしてやり、イエスは鞭打ってから、十字架につけるために引き渡した。
27総督の兵隊はイエスを本営に連れて行き、全部隊を彼のまわりに集めた。28そして着物を脱がせて緋の外套を着せ、29茨で冠を編んで頭にのせ、右手に葦を持たせ、その前にひざまずいて、「ユダヤ人の王万歳」といってあざけった。30そして彼に唾し、葦を取って頭をたたいた。31あざけってから外套を脱がせてもとの着物を着せ、十字架につけるために連れて行った。

   十字架

 32町を出るとシモンというクレネ人に出会ったので兵隊は強いて十字架を負わせた。33彼らがゴルゴタというところすなわち骸骨の所につくと、34にがよもぎを混ぜたぶどう酒を飲ませようとしたが、なめただけで飲もうとされなかった。35彼を十字架につけてから、彼らはくじを引いて彼の着物を分け、36そこにすわって見張っていた。37彼の頭の上には、「これはユダヤ人の王イエスである」と書かれた捨札がかかげられた。
38そのとき彼とともに強盗がふたり十字架につけられた、ひとりは右にひとりは左に。
39通りがかりの人々は頭を振ってイエスをののしっていった、40「宮をこわして三日のうちに建てるものよ、自らを救え、もし神の子なら十字架からおりよ」と。41同じように大祭司らも学者も長老とともにあざけっていった、42「彼は他人を救って自らを救えない。イスラエルの王で、今十字架からおりて来るなら、彼を信じよう。43彼が神に頼り、神のみ心なら、今彼は救われよう。われは神の子といったではないか」。44ともに十字架にかけられた強盗も同じように彼をののしった。
45正午から闇が全地をおおって三時までつづいた。46三時ごろイエスは大声で叫んで「エリ、エリ、レマ、サバクタニ」といわれた。「わが神、わが神、なぜわたしをお見捨てですか」である。47そこに立っていた何人かが、それを聞いて、「彼はエリヤを呼んでいる」といった。48そのひとりがすぐ駆けていって、海綿をとり、すっぱいぶどう酒をふくませ、葦につけて飲ませようとした49ほかのものどもはいった、「エリヤが救いに来るか見ていよう」と。50イエスはふたたび大声に叫んで息絶えられた。
51すると見よ、宮の幕が上から下まで二つに裂け、地が震え、岩々が裂けた。52そして墓が開いて、眠っていた多くの聖者の体が起きあがった。53そしてイエスの復活ののち墓から出て聖都に入り、多くの人に現われた。
54百卒長やいっしょにイエスを見張っていたものは地震やこれらのことを見て、たいそうおそれ、「本当に彼は神の子であった」といった。55そこでは多くの女たちが遠くから見守っていた。彼女らはガリラヤからイエスについて来て仕えていた。56そのうちにはマグダラのマリヤ、ヤコブとヨセフの母マリヤとゼベダイの子らの母がいた。

   埋 葬

 57夕になるとアリマタヤの出でヨセフという名の裕福な人が来た。彼もイエスの弟子であった。58彼はピラトのところへイエスの体をもらいに行った。そこでピラトはそれを渡すように命じた。59ヨセフは体を受け取り、清らかな亜麻布で包み、60岩に掘った自らの新しい墓に納めた。そして大きな石を墓の入口にころがして立ち去った。61そこにマグダラのマリヤともうひとりのマリヤがいて、墓のほうを向いてすわっていた。
62あくる日、すなわち準備日(そなえび)(金曜)の翌日、大祭司とパリサイ人がピラトのところへ来ていう、63「閣下、あのうそつきがまだ生きているとき『わたしは三日ののちによみがえる』といったことが思い出されます。64それゆえ三日目まで墓を守るよう命じてください。さもないと、弟子たちが来て彼を盗み、民に『彼が死人の中からよみがえった』ということでしょう。するとこのあとのほうのうそは前の(イエスの)より悪いでしょう」と。65ピラトは彼らにいった、「番兵をつかわしましょう。行ってできるだけ見張りなさい」と。66そこで彼らは行って墓を守り、番兵とともに石を封印した。

   復 活

28章 1安息日が終わって週の第一日の明け方、マグダラのマリヤとほかのマリヤが墓を見に来た。2すると見よ、大地震がおこった。主の使いが天から下って近より、石をころがしてその上にすわった。3その顔はいなずまのようで、衣は雪のように白かった。4そのおそろしさで見張りのものは震えあがって死人のようになった。5天使は女たちにいった、「あなた方はおそれるな。わたしは知っている、十字架につけられたイエスをあなた方が探していることを。6彼はここにはおられない、かつていわれたようによみがえられたから。来て、彼が置かれたところを見なさい。7そして早く行って弟子たちに告げなさい、『彼は死人の中からよみがえられて、見よ、あなた方に先んじてガリラヤに行かれ、そこでお目にかかれる』と。これをあなた方に告げに来た」。8彼女らはおそれつつも大よろこびで急ぎ墓を去り、弟子たちに知らせようと走って行った。9すると見よ、イエスが彼女らに出会っていわれた、「ごきげんよう」と。彼女らは近よってお足を抱いてひれ伏した。10そこでイエスはいわれる、「おそれるな。行ってわが兄弟たちにガリラヤに行くよう告げなさい。そこでわたしに会えよう」と。

   番兵の虚報

 11彼女らが歩いているとき、番兵が何人か都へ行って大祭司らに出来事のすべてを告げた。12大祭司らは長老たちと集まって相はかり、兵隊にかなりの金を与えていった、13「『弟子たちが夜来て、われわれが眠っている間に彼を盗んだ』といえ。14もしこれが総督の耳に入ったら、われわれが取り持ってあなた方が迷惑しないようにしよう」と。15彼らは金を受け取って、教えられたとおりにした。この話は今日までユダヤ人の間に伝わっている。

   弟子たちへの指示

16十一人の弟子たちはガリラヤのイエスに指示された山へ行き、17彼にまみえてひれ伏した。しかし疑うものもあった18イエスは彼らに近よっていわれた、「天と地の全権がわたしに与えられた。19それゆえ、行ってすべての国の人を弟子にし、父と子と聖霊の名で彼らをきよめ、20あなた方に命じたことをすべて守るよう教えよ。安んぜよ、わたしは世の終わりまでいつの日もあなた方とともにいるから」と。