分離か一致か

 アブラハムと一族が長い旅行の後にパレスチナに落ち着きはじめたころのことです.彼自身にも同行した甥のロトにも多くの家畜がありましたので,土地が足りなくて両者の牧人たちが相争うほどになりました.アブラハムは親切でしたが結局ロトは別れてヨルダンの低地に移りました.ロトはそこでしばらくは裕福な生活ができたのですが,やがて東の方の王たちが攻めてきてロトの財産を奪いました.それを伝え聞いたアブラハムはロトと一族を助け出しましたがどうもロトがはじめにアブラハムのもとを去って行ったころから問題があったようです.

 それは,ウルを出てから長い間苦労をともにしてさすらいの旅をつづけたのに落ち着いて富んでくると争いがあって分離したことです.分離自体は発展であって悪くはありません.細胞分裂は生体の成長に必要であり,分家は一族の増大を意味します.しかしロトの場合,愛がなくなったがゆえの分離がいかに悲惨な結果を引きおこすか,背後に富の誘惑があり,長年の苦労が忘れられて断絶関係に入ったので敵に苦しめられたのです.もしアブラハムが愛の手をさしのべなかったらロトと一族は命も失ったでしょう.

 “名誉ある孤立”は強者のものです.それが人間の業として長つづきしないことは歴史が示すとおりです.一致と団結は貧しいものに必要ですが,それは愛なしには不可能です.貧しいもののさいわいをいい,人が互いに僕として奉仕するところにさいわいのあることを教えたイエスを救い主と信ずるものは,それができないという罪を彼によってゆるされつつ,時として恩恵によってそこに導かれるときにこの世ならぬ一致と団結のよろこびを与えられるものです.神の国の完成のしるしがそのようなところに示されているといえましょう.