挫折をこえて

使徒パウロの活動には,ひろく異邦の各地を訪れて福音を説き,時にエルサレムに帰って貧しい人々を助けるなど,いろいろ計画がありました.しかし,敗北と恥辱の姿で十字架にかけられたナザレのイエスこそ待望の救い主であって,彼によって罪がゆるされ,異邦人も救われる,といいますと,同胞のユダヤ人の反発を受け,会堂を追われて迫害され,あるいは病にたおれるなど予期せぬ妨げがおこって計画がくつがえされました.そのたびに人間パウロは悩み悲しんだことは彼の手紙で読みとれます(Ⅰテサ3章Ⅰテサ3章 <テモテの派遣> 1それで、もはや堪えられなくて、われらだけアテナイにとどまることに決め、2われらの兄弟でキリストの福音のための神の共労者テモテをつかわしました。それはあなた方を強め信仰を励まして、3だれもこの苦しみの中で動揺しないためでした。ご承知のとおり、われらはこのことへと定められています。4そちらにおりましたとき、われらが苦しもうことを前もって申しましたが、そうなったこともご承知のとおりです。5それでわたくしも堪えられなくて彼をつかわしました。それは、誘惑者があなた方を試みなかったか、われらの労苦がむだにならないかが心配で、あなた方の信仰を知るためでした。 <朗報の感謝ととりなしの祈り>  6今テモテがそちらから帰って、あなた方の信仰と愛の朗報をもたらし、われらのことをつねによくお思いで、われらがお会いしたいのと同じく、あなた方もわれらに会いたいと思っている、と伝えました。7それで、兄弟よ、われらはあらゆる困窮と苦難のうちにあなた方の信仰によって励まされました。8じつに、われらが今生きているのは、あなた方が主にあって竪くお立ちなればこそです。9あなた方のことゆえに神のみ前によろこぶわれらの一切のよろこびについて、どんな感謝を神にささげえましょうか。10われらは直接お会いしてあなた方の信仰の欠けたところを補いたいと夜昼心をこめて祈っています。  11われらの父なる神ご自身と主イエスがそちらへの道をお整えなさいますように。12主があなた方の互いの愛とすべての人への愛を増してあふれさせてくださいますように。われらのあなた方への愛もまたそのように。13主があなた方の心を堅くし、われらの主イエスが彼のすべての聖徒とご来臨のとき、父なる神のみ前に聖くとがなく立ちえますように。 など ).

 けれども,そのような挫折のたびに,同じ苦しみにある人々に福音が浸透して信仰の交りが与えられています.その美しい人間関係がパウロにも彼の友人にも力となってはたらき,貧しい人々の相互扶助が行われて,エルサレムへの援助も実行できました.組織から追放されたパウロが組織外のところで組織以上の力と実績を与えられたのです.キリストの体であるエクレシアはこのようにして建設されてゆきました.

 パウロの天国観は挫折によってこの世に絶望したものの空想ではありません.挫折が自他の罪のゆえであることを体験すればするほど,救いの力がこの地上ではたらき,そこに天国のはじまりが示されて希望となったのです.

 われらが挫折に悩むときに聖書が慰めてくれるのはパウロの場合のような具体的な事実に迫力があるからです.何年かたつと同じ悩みにある友と信仰の交りが与えられるのも,人間の組織でなくて聖なるエクレシアへの招きを受けているからです.地上で挫折して天国への希望を与えられ,それゆえに地上にあることを感謝するのが信徒の姿です.