兎と亀の話について

 兎(うさぎ)と亀(かめ)の話は,おそくてもたゆまず歩むものの勝利を示す教育上たいせつな寓話です.亀が万年生きると伝えられることとも関係があるでしょう.しかし,仮に亀が聖書を読んだらどうでしょうか.もしもしと呼びかけられたとき,あなたの方が早いにきまってますと不戦一勝にして兎の顔を立てるか,強いて競争させられて,途中で兎が眠っているところまでたどりついたら,声をかけて兎を起こして走らせるか,どうしても目を覚まさなかったら兎のお腹の下にもぐり込んでくすぐって起こしてやると思います.たかが向うの小山のふもとまでの勝負などはどうでもよろしいし,むしろゆっくり歩いていろいろ考えたり学んだりして,負けた後も小山の頂へたどりついて美しい自然を眺めるでしょう.

 自然は勝ったものにも勝たせたものにも美しい姿を見せてくれます.勝利にまさる幸福は至るところにありますし,その中で勝利を他のものに与えたよろこびはことばではいえません.そのよろこびを見て兎も挑戦の愚かさをさとるでしょう.

 聖書の中心に救い主の姿が示されています.彼は徹底的な敗北者として苦難の道を歩んで十字架につかれ,神の力によって復活して永遠の命の世界へ行かれた方です.彼のごとくでありえないものにこそ彼の十字架を必要とするのですが,救われるものは彼の後に従うよう導かれています.このようにして万年どころか永遠の世界へと招かれているものは,この世の寓話についても別な見方ができるのではないでしょうか.