初入院

 10月29日に口腔外科の診療のため入院いたしました.医者の家に生まれて幼いころから病院というものの人的物的要素に親しんだわたくしであり,日本ばかりでなく世界各地の病院で友人を見舞ったことは数え切れぬほどですし,戦時中ドイツで外来患者として治療を受けたこともありますが,入院患者になったのは生まれてはじめてです.

 病名は褥(じょく)瘡性(そうせい)潰瘍(かいよう)で,舌の裏の右側がただれています.金冠との摩擦で弱っていた組織に魚の細い骨などの異物が入ったのが原因だろうとのことです.そういえば,夏休み前にヘブライ語聖書の音読をしていますと,sh などの強い子音のとき調子が変だと感じました.しかし体に変調もなく,ヨーロッパ旅行も無事でした.ところが帰朝後かかりつけの歯医者のすすめで口腔外科を訪れますと,組織の検査の結果入院して放射線治療ということになったのです.病巣は深く,放っておくと大事に至るところでしたが,早期発見ができたのでした.

 今まで知らなかった生活様式ですが,医師,技師,看護婦その他の職員,それに近くの患者さんから親切にされ,お見舞も絶えず,日本にこんな美しい所があるのかと驚いています.治療は疲れますが,今のところ読書や執筆も少しはでき,事務的な仕事などは面会時間に済ませています.

 誌友に病床の方が多いことを誇りたくなりました.弱さの中で祈りを共にしうるさいわいを教えられています.食を与えられる感謝に加えて,与えられるものを少しずつ吸収しうる感謝も学んでいます.遠近からのお心のこもったお見舞に御礼状も書けませんが,どうぞあしからず.皆さんの御平安を心からお祈りいたします.