聖書とともに半世紀

 1929年(昭和4年)にはじめて聖書を買い求めて読み耽けりましてから50年すなわち半世紀が過ぎました.暗闇の中でいのちの光に接しました満14歳のころから今までのことは,戦争による13年近い在外生活を含めて,ただ恩恵の奇跡の連続です.自分のことは忘れられたくありませんが,無理に書かされたものが中央公論社版世界の名著“聖書”の解説のはじめに“聖書との出会い”として出ていますので多くの誌友がお読みと思います.

 この“聖書”が出版されてから10年経ちました.その間にもいろいろなことがありましたが,本誌の書斎だよりなどに何をしたか書いてない時に少しずつ勉強を続けてきたことはおわかりと思います.そしていろいろな学術論文がまとまり,新約聖書全体の新しい訳と新しい註ができあがりました.

 今年は聖書に出会って50年ですのでその記念に新約聖書の訳註の出版をと思ってヨーロッパへ行く前に原稿を渡しておいたのですが,ひとつには註の組みが大変であったのと,もうひとつには校正に取りかかるころ入院加療ということになりまして,できあがりは来年になりました.しかし,全く予期しなかった入院によって痛い治療その他を体験し,多くの病友が苦しみを共にしつつ,あの苦しかった50年前に救いの光に接した感謝を新たにすることができましたことは大きな恩恵であります.このほうが50年の記念にふさわしいと思います.半世紀は反省期に通じます.いろいろ新しいところへ導かれるでしょう.希望をもって示される道を進みたく思っております.(病床にて)